僕の家は、三代続く運送屋です。

祖父がトラック1台から始めて、父が継いで、今、僕がその看板を背負っています。

本を書いている間、ずっと頭の片隅にあったのは、父のことでした。

父は、「対等であること」を何よりも大切にしてきた人です。

経営者だから偉い、

社員だから下、
ーーそういう線引きを、
父は一切しませんでした。

現場のドライバーさんとも、
取引先の方とも、
ひとりの人間として、
横に立つ。

そういう人でした。

その上で責任を取る。

僕は子どものころ、その姿の意味が、よくわかっていませんでした。

でも、自分が経営の立場に立って、だんだんと、わかってきました。

父が大切にしていたのは、

「人は、上下ではなく、横にいる」

ということ。


ーー


『雇わない経営』という本は、タイトルだけ見ると、新しい経営手法の話のように見えるかもしれません。

でも、本当に書きたかったのは、そういう小手先のことではありませんでした。

「人を、雇う/雇われるという関係から解き放ってみませんか」

「上下ではなく、横に立ってみませんか」

それが、僕がいちばん伝えたかった、たった一つのメッセージです。

そしてそれは、僕がゼロから考えたことではなく、父の背中を見て育つ中で、自然に身についた感覚でした。


ーー

父は、本をよく読む人です。

僕が子どもだったころから、家には父の本棚がありました。

仕事から帰ってきて、湯呑みのお茶を片手に、静かに本を開いている父の姿を、今でもよく覚えています。

経営のこと、人のこと、生き方のこと。

父はきっと、言葉ではなく本から、たくさんのことを学んできた人でした。

その父に、自分が書いた本を渡せるというのは、

息子として、これ以上ない贈り物だと、思っています。

「お父さんが大切にしてきたことを、こうして本にしました」

そう言って、一冊、手渡したい。

たぶん父は、いつもどおり、多くを語らずに受け取って、
湯呑みのお茶をひとくち飲んで、それから静かに読み始めるだろうと思います。

その時間が、僕にとっての、本当の出版記念日です。