桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

岡田葉子(23)




葉子「大丈夫ですか?」

   優しく声をかける葉子。

   葉子の容姿に、暫くボー然とする悠大。

  「本当に、大丈夫?」

   悠大の様子に、少し心配げな表情を浮かべる   葉子。

   その葉子の声に、

悠大「あぁ、たぶん」

   悠大、慌てて服の汚れを手で叩く。

   一緒に汚れを拭き取ってあげる葉子。

   「あっ、どうもありがとう」

   戸惑いながら、礼を述べる悠大。

葉子「いいえ」

   優しく微笑む葉子。

   そして、リユックに目をやり、

   「お昼ご飯はダメみたいね」

   悠大、その葉子の言葉に慌ててリュックの中   を覗き込む。

悠大「みたいだ」

   ため息をつく悠大。

葉子「それでは、私、これで」

   軽く会釈して、くるりと身を返す葉子。

   その遠ざかって行く葉子の後ろ姿を、

   ずっと見つめている悠大。

悠大「あの」

   悠大、やや弱々しい声をかける。

   まるで何も聞こえていないかのように遠ざ    かって行く葉子。

  「あの、すいません」

   再度、勇気を出して声をかける悠大。

   それでも、葉子の後ろ姿は遠ざかって行く。

   悠大、いてもたってもいられず小走りに駆け   寄り、

   葉子の前に回り込む。

  「すいません、待って下さい」

   驚いて、一歩後ずさりをする葉子。

  「ごめんなさい、驚かせて」

   頭を下げる悠大。

桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

男の子(6)




○奈良公園・園内(回想・一年前の春)

   家族連れの無邪気な笑い声がしている。

   「カシャ、カシャ」(シャッター音が響く)

   カメラを構えて、一心不乱にシャッターを

   切り続けている悠大。

   すると唐突に、

男の子「あっ!」

   と、背後から幼い声がして、何事かととっさ   に振り返る悠大。

   その眼に、鹿の面長な顔が桜の根元に置かれ   たリュックの中に突っ込まれている光景が飛   び込んでくる。

   その光景に瞬時に動けずにいる悠大。

   ふと、我に返って

悠大「こらっ!」

   慌てて駈け出す。

   次の瞬間、地面に露出している桜の根っ子に   躓き、思いきり突っ伏す。

  「痛っ~」

   小声で叫び、顔をしかめる悠大。

   幼い子供の笑い声が聞こえてくる。

   痛々しく立ち上がる悠大に、可愛らしい花柄   のハンカチが差し出される。

   悠大、驚いて顔をあげる。




桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

岡田葉子(23)

池田絵美(23) 葉子の友人

山本香織(23) 葉子の友人

学芸員(35)




○猿沢池付近の道

   「チャリン」(自転車のベルが鳴る)

   爽快に自転車を走らせる岡田葉子(23)

○鷺池

   楽しげに語らい合うカップルの手漕ぎボート

   が、水面に映る浮見堂を揺らしている。

   池の畔に、自転車を停める葉子。

   気持ち良さそうに、鼻から胸いっぱいに空気

   を吸い込んでは、ふうっと息を吐く。

   桜の花びらが、風に吹かれ水面に舞い散る。

   楽しそうにスケッチを始める葉子。


○奈良市写真美術館・館内

   館内の人影は疎らである。

   学芸員と立ち話をしている悠大。

   少し距離をおいて、葉子の友人である

   池田絵美(23)と山本香織(23)は、

   ゆったりと写真鑑賞をしている。

絵美「あれっ?」

   一枚の写真の前で足を止める絵美。

香織「ん、どうしたの?」

   絵美に歩み寄る香織。

絵美「ねぇ、これ葉子じゃない? 葉子だよ

   ねぇ!」

香織「えっ?」

   香織、写真に目を向ける。

  「あっ、葉子!」

   ともに驚く香織。

   その二人の会話に思わず振り返る悠大。