桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

岡田葉子(23)

岡田佐智子(55)葉子の母





○軽食喫茶店・店前(夕)

   自転車に乗って帰って来る葉子。

○同・店内(夕)

   「チリリン」(鈴が鳴る)

葉子「ただいま~」

   佐智子似の明るい声で言う葉子。

佐智子「おかえり!」

   佐智子がより一層明るい声で答える。

   「どう? いいスケッチ出来ました?」

   ワザとらしく尋ねる佐智子。

葉子「まぁね!」

   さらりとかわす葉子。

   佐智子、急に思い出したかのように、

佐智子「そうそう。さっきね、ちょっと変なお客さ   んがいたのよ!」

葉子「変って、どんな風に?」

佐智子「その画をね、ずっと観てるのよ」

   佐智子の視線の先にあるスケッチ画を観る

   葉子。

   「何なのかしらね」

   満開の桜と、その傍らに座る青年の姿が描か   れているスケッチ画。

葉子「ねぇ、その人どれくらい前に出て行った     の?」

   急に慌てる葉子。

佐智子「どうしたの? 急に」

   葉子の様子に、戸惑う佐智子。

葉子「いいから、早く教えてよ」

佐智子「そうね。10分くらい前かしらね」

   佐智子、困惑しながらも答える。

   佐智子にスケッチ道具を投げるように渡し、

   店を出て行く葉子。

佐智子「何処行くの、葉子!」

   「ジャリリン~」(鈴がけたたましく鳴る)

桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

岡田葉子(23)

岡田佐智子(55)葉子の母





○軽食喫茶店・店前

   店の扉に向って歩く悠大の姿がある。

○同・店内

   「チリリン」(扉が開く)

佐智子「いらっしゃいませ」

   変わらず、佐智子の明るい声がする。


○奈良市写真美術館・玄関前

   自転車を走らせて来る葉子。

   端に自転車を停めて館内に入って行く。


○軽食喫茶店・店内

   普段の落着きを取り戻している店内。

佐智子「ご注文はお決まりですか?」

   水とオシボリを持って来て、悠大に尋ねる

   佐智子。

悠大「えっと」

   少しの間、考えてから

  「ホット下さい」

   と答える悠大。

佐智子「ホットですね、少々お待ち下さい」

   立ち去る佐智子。

   悠大、壁に飾られているスケッチ画を眺めて   いく。

   ふと、一枚の画に目を止める。


○奈良市写真美術館・館内

   一枚一枚ゆったりと写真を眺めていく葉子の   姿がある。

   ふと、一枚の写真に目を止める葉子。

   満開の桜の前で、優しく微笑む葉子の写真。

   その写真のサブタイトルに一つの和歌が添え   られている。

   

   こころゆも 吾は思はざりき 山河も 隔たらなくに    かく恋ひむとは

桜色の恋


人 物


上川悠大(25)

岡田葉子(23)




葉子「何ですか?」

   まだ驚いている様子の葉子。

   悠大、もう一度、葉子を見つめて、

悠大「あなたの写真を撮らせてもらえませんか?」

葉子「えっ?」

   葉子、困惑の表情を浮かべている。

悠大「どうかお願いします、撮らせて下さい」

   再び、深々と頭を下げる悠大。

葉子「わたしの? なんで?」

悠大「撮りたくなったんです。あなたを」

葉子「・・・・・」

悠大「駄目ですか。こんな理由じゃ」

   真剣な表情で見つめる悠大。

   その表情を見つめる葉子。

   何処からか、子供のかん高い泣き声が聞こえ   てくる。

葉子「わかった、いいわよ」

   優しく微笑む葉子。

悠大「いいんですか、本当に」

葉子「うん」

   小さく頷く葉子。

  「そのかわりね、私にもお願いがあるの」

   にっこり微笑む葉子。

   奈良公園から望む若草山・・・・・・

  「カシャ」

   乾いたシャッター音が響く。          (回想完)