放射線と人類社会
原発メーカー訴訟原告団 元代表 大久保徹夫
私が高校生時代、テレビで「原子力時代の物理学」という米国版連載番組がありました。
講師は毎回、ノーベル賞受賞者級。解りやすい図と解説。毎回、興味深く視聴し、核物理学の基本を理解しました。
兄が原発技術者となり、美浜原発1号機の炉心設計者になった事もあって、原発の明るい未来を共有していました。
そこへ東北大震災と原発事故です。これは驚愕でした。「マッチ箱1個で4万トンタンカーと同じエネルギーを出すんだぞ!」。メリットしか理解していなかったその暗黒を突き付けられました。
太陽系、そして地球が誕生してから約46億年。単細胞生命が誕生してから約35億年といわれています。
それからの進化によって、植物、動物、そして現生人類が発生して約20万年といわれています。
考えてみると、その数十億年での事象、変化、変遷はすべて化学反応の世界。森羅万象、人体も約100種の元素の有機的結合によってできている。私たちは日々の暮らしの中で、様々な物質を利用し食べ、生活をし、この世界で、連綿といのちを繋いできた。有機物、無機物の元素間の結合・離散、物質の性質について、私たちは経験でかなり知っています。
核反応はどうだろう。
核反応、放射線が発見されたのは僅か100年前。その放射線を利用して医療システムが開発されたり、さまざまな利用価値を産んできた。そしてさらにウランやプルトニウムの原子核が核分裂し放射線を発しながら40を超える別元素に分裂しながら驚異的なエネルギーが発生することが判り、原子爆弾、原発が開発されてきた。
しかし核反応のエネルギーを私たちが身近に経験する事はない。
その分裂した元素中の不安定なものは、さらに数万年、数億年もの間、放射線を発し続けながら別元素に崩壊し、私たちのいのちを奪う。
通常、ウラン等の核物質は厳重管理の下に有り、私たちの世界に侵入する事はない。
しかし今回のフクシマ原発事故は巨大地震、津波による「想定外?」の原子炉爆発に至り、撒き散らされた核物質・放射線は私たちの世界に侵入してきた。
人の構築物は人為ミス、想定外を含め、壊れる事があるのは容易に想像できる。
これまで化学反応の世界の中で生きてきた人類が、この新たな侵入者に対応できるのだろうか。特にその暗闇に。
匂いもない、煙も立たない、熱も出さない、化学変化によって消滅できない放射線。人が関知できずにいのちを奪われ、また後世代に遺伝する放射線。
この事故の賠償に関しては「原子力損害賠償法」があります。その法律では賠償責任は原発運転事業者(電力会社)に「一局集中」とされ、原子炉を設計、製造したメーカーは免責になっています。これを許すなら、原発過酷事故が何度起ころうともメーカーは無傷どころか、その後の対応により焼け太りしていきます。これはおかしいと考え、数名の同志と共に原告を募り、39ヵ国、4千名近くの原告団を組織し「原発メーカー訴訟」を2013年に起こしました。この訴訟は1審、2審、最高裁まで行きましたが、すべて敗訴となりました。
その詳細はホームページhttps://nonukesrights.holy.jp/をごらんください。
結論として私が申し上げたいのは、原子炉、原子爆弾、そして最近話題になっている核融合炉など「人類は核エネルギーに手を染めてはならない」事です。