重力レンズとアインシュタインリング | しろグ

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“重力”そのものが未だに正体不明の力で、グラビトン(重力子)がどうだのとか、ひも理論で“閉じたひも”が重力だとか、5次元にある各ブレーンから我々の世界にしみ出してくる力が重力だとか、とにかく、我々に極めて身近なこの重力というものは、目下のところ、現代物理学の謎の一つとされている。

この重力というものがどうなっているのかを革命的な理論で提唱したのがアルバート・アインシュタインなのだが、それは毎度お馴染の一般相対性理論である。これは科学史上最も偉大な《発想の飛躍》から生まれたそうで、リチャード・ファインマン博士は「彼がこの理論をどうやって思いついたのか想像も出来ない」と言ったそうな……

ところで、アインシュタインは、質量は時空を歪めると言った。つまり、この時空の歪みが重力、というわけだ。日食時に背後にある恒星の位置を観測したら、彼の理論が予言する通りのほぼ完璧な精度で星の光が曲がったことが確かめられ、これでこの理論は一躍人口に膾炙することになった。で、重力レンズだが、これは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象のこと。

Landscape and portrait ver. 2
 ※銀河団「Abell 1689」によって作られた重力レンズ。遠方の多数の銀河の像が円弧状に引き伸ばされて見えている。

奥の銀河から発せられた光(黄色の線)が、中央にある重い天体の影響によって曲げられ、それぞれ別の経路で地球へと届く。地球上の観測者からは、あたかも2つの同じ天体があるように見える。ムラサキ色の矢印は見かけの光の経路で、人間の目(望遠鏡などもそうだが)は、光がやって来た方向を直線でしか感知することが出来ないので虚像が見える、というわけである。

Landscape and portrait ver. 2

その中でも、遠くの天体が重力レンズを引き起こす天体と一直線に並ぶと遠くの天体の虚像がリング状になる。これがアインシュタインリングと呼ばれる非常に珍しい現象で、これはアインシュタインが「対象物、重力源、観測者が一直線上にならんだ場合にはリング状の像が見えると発表」したことによって名付けられた。

Landscape and portrait ver. 2
 ※オレンジ色の銀河は20~40億光年彼方にあり、青白いリングはその約2倍遠い銀河のゆがんだ姿

測定に近似を必要とするX線観測による質量測定と異なり、重力源の質量を直接光学的観測により測定することができる点が特筆すべき特徴とされていて、銀河団による重力レンズ効果を観測することで、銀河団自体の質量を測定することが可能とのこと、、、この結果とX線測定によって見積られた質量を比較すると、明らかに差があるのだが、これは銀河団周辺に分布するダークマターによる質量が寄与しているためと考えられる。つまり、重力レンズ効果はダークマターの質量測定に用いることができる現象であると言える。

ダークマターは宇宙空間の大部分の質量を占めると言われる仮説的物質。そもそも本当に存在するのか、もし存在するとしたらどのような正体なのか、何で出来ているか、未だに確認されておらず、不明のままである。

本当に宇宙は不思議と謎で充ち満ちている……