大名行列…死の行軍、八甲田山遭難事件NO2 | ヘミシンクピンポンパン

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ヘミシンクと幽体離脱体験記

 

 

声「戦闘ではない」

「だが……我々は戦ったのだ」

私「何て意味のない戦いだ」

「馬鹿げている」

声「だまれ!」

「きさまなどに何がわかる」

(続く)

 

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《死の行軍、八甲田山遭難事件…大名行列NO2》

こいつらはとんだバカ者だった。まだこんな調子なのだ。反省がまるでない。失敗や敗北から何も学ぼうとしない矮小で狭量な石頭野郎たちが、この軍隊を狂馬のように暴走させたのだ。見渡す限りの雪原で大きな黒い釜を背負っている兵隊が一人いた。彼は孤軍奮闘していた。背負うというよりまるで釜を被っているような状態で、よくもこんな格好で胸まで埋まる雪の中を歩けるものだ。

 

ヴィジョンは変わってこの釜を雪の中に設置し、火をつけようとしていた。そこは吹きすさぶ風や、一緒に飛んでくる雪や、空から降りてくるぞっとするような氷の塊みたいな寒気を遮るものが木一本すらない雪原で、釜に火が入るよりも雪が入る方がはるかに早かった。するとこんな声が聞こえてきた。

 

「ちょうどいい」

「釜には水が必要だ」

「入れる手間が省ける」

 

何人もの男たち、兵隊たち、そしてより温かさそうな、立派な軍服を着た将校たちらしいのが、釜の火入れと調理担当らしきみすぼらしい姿の若い兵隊たちを見下ろすように、めいめい勝手にしゃべり続けていた。激励するのではなく、もちろん手助けするわけでもなく意地の悪い声で指導しているつもりらしい。《あ~すればできる》《こ~すればできる》そんなことばかり言っている。実際の戦闘ではない、たかが軍事演習のためにほぼ全員が死んでしまったというのに、彼らは今も雪原で亡者となって、何の反省もなく死の行軍を続けているようだった。

 

彼らは未だ部隊が全滅し、ほぼ全員が凍死してしまったことに気づかず、あるいはわかっているのかもしれないが、それを決して認めようとはしないのだ。それはただの練習なのだ。誰も中止しようとか、引き返そうというものがいないのだ。何故なら彼らは敗北を認めるのが恐ろしいのだ。失敗を直視できず滅亡したことを理解しないのだ。撤退とか引け~とか、撃ち方やめとか中止だ~と進言するものがいないのだ。

 

全員が、気味が悪いほど積極的で前向きでポジティブだった。《あ~すればできる、こ~すればできる》前向きでさえあれば元気さえあれば何でもできる、すべてはうまくいく、そんな調子だった。こんな連中が学ぶべきは負けること、負け方、引き方、逃げること、やめることだったのだが、わかってないのだ。ポジティブという言葉を強引な押し売り商法のようにしか理解していない藤原紀香や笑スピ軍団と同じで、《すべてはうまくいっている》という馬鹿の一つ覚えが合言葉なのだ。このレベルのポジティブが国粋主義という歪で不細工な愛国心を生んでいく。この地獄の雪原を彷徨う亡霊たちに話しかけてみた。

 

私「そうなんでしょう?それともちがう~??」ちょっとからかうように言ってやった。

「う~~きさまは黙れ」彼らは私の挑発についに凶暴性を爆発させた。

 

一人の兵隊が狂ったように叫びだし私に襲い掛かってくる。私に向って何かを振り上げ、私を叩き潰そうと上からそれを振り下ろし覆いかぶさってきた。咄嗟に見上げた私にはその何かは黒い影のように見えていたが、斧とか日本刀だったのかもしれない。私はここでバッサリと藁人形のように切り倒されてしまった。兵隊の顔は凍傷で腐ったバナナみたいに黒ずんでおり、不気味な姿となり果てていた。よく見ればここにいる全員がそのような化け物のような姿へと変わり果てていた。この歩兵第5連隊は阿修羅の集団となっていた。

 

ここでヴィジョンが変わった。松林に沿って大名行列が見える。たぶんそうなのだろうと思う。時代劇で見るような光景とは少しどこかが違い、行列は奇妙な不思議な歩き方をしていた。何より道幅が狭く、砂と埃まみれで、草が生えていないことでかろうじて道としての体裁をとっているといった感じなのだ。しかも不自然なほどこの狭い道の表面は白いのだ。血を流したらさぞかし赤く鮮烈に染まるだろう、と思わずその場面を想像させてしまうような人工的な白さだった。

 

松林を左手にして行列の正面方向から見ると、彼らの後ろの方には青い山がちょこんと一つあり、それはまるでピラミッドのような形をした三角山だった。そしてその向こうには海が広がっているのだと私には何故だかわかった。松林の向こうには砂浜があるのかもしれなかったが不思議とそっちの方は私にはみえず、ただ想像しただけだった。

 

彼らは長い長い行列で、それというのもおそらく道幅の狭さが原因で二列にしか並べないのだ。黒い羽織に二本差しの侍たち。あまり大きな…ここでノートの記録は途切れていた。ここで私はクリックアウトしてしまったらしい。軍隊嫌いの私にとってこれは緊張感のないワークでモチベーションが下がっているのだ。しばらくして何かをきっかけにして意識を取り戻したときにはヘミシンクをやっていたということも忘れてしまっていた。

 

最近クリックアウトがやたらと多いのだ…などとノートには隅っこの方に落書きみたいなことを私は書いていた。この大名行列はおそらく彼ら八甲田山の歩兵第五連隊なのだ。彼らのつながりはこの時代に武士の集団として結ばれたものらしい。いま記録を読み直していて私はようやく気が付いたのだが……奇妙なほど不自然に白かった大名行列の狭い道は、彼らが八甲田山を行軍していった雪原に刻んだ道だったのだ。

(続く)

マサト