DOPESICK | Just for a Day: 小林真里ブログ

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映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

今年は特に、韓国のTVシリーズを見てばかりでしたが、

ようやくアメリカではHulu、日本ではディズニー・プラスで

配信されている、同名のノンフィクションブックを基にした

「DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機」を鑑賞。

 

 

8エピソードのミニシリーズ、一気に1日で観ました。

 

震源地となったアパラチア地方のヴァージニアを舞台に、

アメリカ中に蔓延し多くの命を奪った鎮痛薬という名の

合法ドラッグ、オキシコンチンを題材に、

虚偽の宣伝で数多くの中毒者を生み出し巨万の富を築いた製薬会社と、

地元愛の強い正義感溢れる検事たちの戦いを描きながら、

犠牲になった若者やその家族たちのドラマを交錯させる。

 

2000年台初頭から2019年まで、時間軸をスムーズに

シャッフルしながら、それぞれのキャラクターの背景と物語、

事件(オキシコンチンとの出会いと中毒化)とを巧妙に繋げていく

群像ドラマのクレバーな脚本と編集術も見事だが、

実力派キャストのアンサンブルがやはり出色。

 

ロザリオ・ドーソン、ピーター・サースガード、

ウィル・ポールター、マイケル・スタールバーグも見事だが、

特にケイトリン・デヴァー(『ブックスマート』「アンビリーバブル」)

とマイケル・キートンが圧巻でキャリアベスト

といっても過言ではない素晴らしい演技を披露している。

 

この作品は今年のエミー賞で14のノミネートを受けているが、

多くの賞を受賞しても驚きではない。

 

このシリーズの悪の枢軸である、製薬会社パーデューを設立し

経営するサッカリー一家は、「アメリカで最も邪悪な家族」

「歴史上最も最悪なドラッグ・ディーラー」と呼ばれている。

 

悪魔のような強欲な超富裕層が主に田舎の貧困層を騙し、

薬漬けにして私腹を肥やしていく様は、

恐ろしく醜悪でおぞましく戦慄が走るが、

それを可能にしたアメリカ合衆国という巨大国家が抱える

歪なシステムと深い闇は、しかし対岸の火事でも

他人事でもないのではないか、と思わせてくれる。

 

ヘヴィで徹頭徹尾シリアスな社会派のドラマだが、

実話ベースなだけに隙のない

ハイレベルなシリーズであり、

一気に引き込まれ、まるで8時間の一本の

秀逸な映画を観ているような気分にもなる。

 

そのクオリティの高さは、ジャンルは異なるが

「トゥルー・ディテクティブ」(シーズン1)や

「メディア王~華麗なる一族~」に近い感触を得た。