Netflix「ハリウッド」は、もう一つのハリウッドへのラヴレター | Just for a Day: 小林真里ブログ

Just for a Day: 小林真里ブログ

映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

Netflix「ハリウッド」が昨日配信になりましたが、

早速すべて鑑賞してみました。

 

 

第二次世界大戦後のハリウッド黄金期を舞台に、

架空のメジャースタジオ「エース・スタジオズ」が、

当時としては前代未聞のセンセーショナルな

作品の製作に乗り出す、というライアン・マーフィー

(「glee」「アメリカン・ホラー・ストーリー」)

製作のミニシリーズ。

 

前半で夢を持ってハリウッドにやってきた若者たちが

直面する悪夢を通して、ハリウッドの魔力と

ダークサイドを描きつつ、すったもんだの挙句に

ハリウッド・バビロン的な実話ベースの

ダークなドラマが別物の、

異なるパワフルなメッセージが込められた作品へと

生まれ変わり、アメリカを世界を変える、

ハリウッドのサクセスストーリーへと着地する。

という、まさにハリウッド・ドリームな、

エンターテインメント性に富んだコミカルで

ドラマティックなフィクションです。

 

ややファンタジーが過ぎてスウィートすぎるのではないか、

キャラクターは善人が多すぎるのではないか、

今の時代に「それ」(ネタバレ防止のため具体的には書きません)

を描いても目新しさはないのではないか。

とも思いましたが、当時を再現したセットやコスチューム、

プロダクションデザインには惚れ惚れとしましたし、

映画を愛し生業とする者には鳥肌が立つ

ようなシーンや、心打たれる描写が少なくなかったです。

 

ロック・ハドソンがゲイの新人俳優という

準主役級のキャラクターで登場するのですが、

現実世界のハドソンといえば、

1985年にエイズを発症するまで自分がゲイであることを

ひた隠しにし、公にはしていなかった俳優です。

これは重要な意味を持っています。

 

つまり、クエンティン・タランティーノが

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で

落ち目のTV西部劇俳優リックとスタントマンのクリフ

二人にマンソン・ファミリーと1969年のハリウッドの

歴史を変えさせたように、

「ハリウッド」は、1940年代後半のハリウッドに、

現代的なLGBTQやダイバーシティを持ち込み、

そこでロック・ハドソンの性も個性も自由に解放させた、

もう一つの歴史改変ファンタジーなのである。

別の時代を別アングルに描いたハリウッドへのラヴレターなのだ。

 

キャストは、サマラ・ウィーヴィング(『Ready or Not』)

がイマイチ大きな役ではなかったのは残念でしたが、

当時のハリウッド女優的なブロンドが印象的。

マーゴット・ロビーのシャロン・テートよりも良かった。

意図的にあまり知られてないキャストを

主演で使ったのも功を奏していました。

 

自分がなぜ映画に魅了されるのか?という理由を改めて

思い出させてくれるような、ちょっと眩しい作品でした。