UKで社会現象の大傑作TVシリーズ「Normal People」は恋愛ドラマの新機軸 | Just for a Day: 小林真里ブログ

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映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

BBCとHuluが製作したアイルランドとUK・アメリカ合作の、

今話題のTVシリーズ「Normal People」を鑑賞。

 

 

結論から言うと、これはTVシリーズにおける

青春ラヴストーリーの最高傑作、新たな金字塔です。

映画で言うなら、リチャード・リンクレーターの

『ビフォア』トリロジーに匹敵します。

 

主人公は、アイルランドのスライゴ州の

高校に通うマリアンとコンネル。

 

美しくスマートながら近寄りがたい性格で、

常に孤立しているマリアンと、

校内の人気者でスポーツも万能、知的で文学を

愛するコンネル、この対照的な二人の男女の

紆余曲折に富んだ複雑な関係を4年間(18歳から21歳か)

に渡って綴ったラヴストーリーです。

 

ロマンティックだが、ビタースウィートで、

それ以上にドラマティックで、

恋愛という名の魂の交流であり、

精神の旅路と言ってもいいかもしれない。

 

美しく、時に残酷な恋愛の真実をシリアスに

一貫したセンシティヴなトーンで、

徹頭徹尾描ききっているのが素晴らしい。

移ろうエモーションの起伏とダイナミックな

ケミストリーの融合を、

終始リアリスティックに描いているのだ。

 

ドラマティックだが、幻想的であったり、

過剰に、大げさになることがなく、現代の

血の通った生身のティーンエイジャーの

等身大の恋愛がどこまでも親密に、

ディープに、誠実に描かれている。

 

そして、この作品の主人公二人は、よく泣く。

恋愛はもちろん、人生の困難な局面で。

悲しくて、苦しくて、切なくて、傷つき、後悔し、涙を流す。

でも、いつもめそめそしているわけではなく、

どちらかというと自分の感情を隠し、内に秘め、

そうせざるを得ない状況で初めて自分の感情に

正直に向き合って、泣くのだ。

 

 

セックスシーンがわりと多めなのが特徴で、

過激かもしれないが

(特にエピソード2のセックスシーンは約10分に及ぶ)

これもティーン二人の親密な愛の形、愛の表現

として至極自然に描かれているため、

エロティックというよりも、美しく必要不可欠な

愛の要素として効果的に機能しているのも驚きだ。

ここで交わされるナチュラルなダイアローグも印象深い。

 

美しい心を持ちながらも、

脆く、繊細で、若く成熟していないため、

時に利己的に、傷つくことを恐れ、

逆に傷つき傷つけ合う二人。

ささいな誤解や、はっきりしない態度で

すれ違いが生じ、もどかしいまでの、

思わぬ関係の歪みや距離を生みこともある。

また、思春期の不安(Teen Angst)のみならず、

マリアンの劣悪な家庭環境(リッチで冷酷で鬼畜な母と兄)や、

友人の死といったヘヴィな問題も陰を落とす。

 

気まぐれな天候を持つ、灰色の曇り空が

思い浮かぶアイルランドがメインの舞台だが、

雰囲気も空気も異なるイタリア、スウェーデンでも

物語が展開します。

 

音楽も、繊細でメランコリックでエモーショナルな

楽曲が効果的に散りばめられていて、

Hope SandovalやElliot Smith、Soak、

London Grammer、Yaz、そしてアイルランドの

作曲家ステファン・レノックスらの

ナンバーが心の琴線を揺さぶる。

 

このシリーズは、

1エピソード約30分の全12エピソードだが、

シーズンの終盤の畳み掛け方も見事で、

特にエピソード10と12が泣けて仕方ない。

 

2018年のブッカー賞のロングリスト13作品に

選出され、アメリカでもベストセラーを記録した、

アイルランド人作家サリー・ルーニーの同名小説を

基にした「Normal People」。

すでにUKでは大ヒットを記録しており、

公開1週目だけで1620万人が視聴したという(!)。

アメリカでも当然話題になっており、

多くのメディアがこぞって取り上げている。

 

このシリーズの成功は、主演の二人、

デイジー・エドガー=ジョーンズとポール・メスカルの

相性とケミストリー、それぞれのパワフルな

演技に寄るところが大きい。

 

彼らはそれまで無名の俳優でしたが、

このシリーズのパフォーマンスで一気にブレイク。

すでに映画やTVシリーズのオファーが

殺到していることは間違いない。

 

続編製作の可能性も当然ありそうだが、

まずは小説の続編がどうなるか、それ次第か。

 

個人的には、1シーズンだけでも

こんなに美しいアメイジングなものが観られて感謝なのだが、

もし続編を作るなら、5年ぐらいタイムラグを

置いてからのほうがいいかもしれない。

『ビフォア・サンライズ』と『ビフォア・サンセット』

のように。

 

それにしても、市場を席巻する

NetflixやAmazon prime、HBOではない、

BBC&Huluという意外なところから、

こんな思わぬ傑作が誕生するのだから、面白い。

 

今後も、UKやヨーロッパには要注目である。