ニューヨークで中村座歌舞伎!そして柄本明さんとの出会い | Just for a Day: 小林真里ブログ

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映画監督/映画評論家 小林真里(Masato Kobayashi)です

7月17日。

朝から42nd st.(7番街と8番街の間)に取材に出る。

そう、ここはかつて、60年代から80年代まで、
デウスという異名を取った、グラインドハウスのメッカ
だったストリートなのだ。
再開発後は丸っきり別物の場所になってただの観光スポット
なんですけどね!

そんなわけで、かつてのグラインドハウスがどう生まれ
変わってしまったか、というポイントを重点的にこの日は
歩き回った。今どこになにがあるのか、自分の目で
確かめながらマップを作成した。

42nd st.のマップも完成し、今度は45th st.に
かつてアジアン・イクスプロイテーションの専門館が
あったというので、そこがどう変身したのかを見に行く。
そこは現在は、ブロードウェイ劇場街だ。

昼前でまだ閑散としているそのストリートを歩いていると、
前方から二人の日本人がこちらに向かって歩いてくる。
するとそれは、俳優の柄本明夫妻であった。
おお、こんなところで。と思っていたら、
「ジャパニーズの方ですよね?」と声をかけられた。
ジャパニーズの方・・・。
とりあえずびっくりしながら話してみると、
どこか日本食のランチでも食べられる場所はないですか?
と尋ねられたので、ああ、それなら偶然にもすぐ
1ブロック先にあるな。案内しましょうか?と返すと、
ご夫婦は大変恐縮しながら、よかったら小林さんも。
と言われたのでお言葉に甘えて日本人が経営している
和食レストランでランチタイム。

今回はなんと約20年ぶりのNYというご夫妻だが、
来週月曜日にリンカーンセンターで開催される、
『てれすこ』という中村勘三郎と小泉今日子、そして柄本
さん主演で日本では11月公開の松竹映画の、プレミアと
イベントに参加するために来たという。
そう、実はこの前日からリンカーンセンターで中村座の
歌舞伎公演が始まっており、それに便乗しての海外向けの
映画のプロモーションということのようだ。
そんな話、全然知りませんでした!

ビールを飲みながら、その映画の話を聞いたり僕の仕事の
話をしたり、某俳優たちへのストレートな意見を拝聴し
おまけにソンビやロメロの話をなぜかしていた。
そして23日のプレミアにも招待してもらえることになった。
店の女主人が柄本さんに素早く気づき、嬉しそうに
話しかけてきた。サービスにフルーツの盛り合わせを
サーヴしてくれた。

ランチをご馳走になってしまい、リンカーン・センターに
行こうかな、と言うので僕もお供することに。
歩いている途中、二人が地下鉄に乗ったことがない
というので、じゃあ地下鉄の駅も近いし、チケットの買い方
と乗り方を教えることに。地下鉄乗れると一気に行動範囲が
広がるし。

リンカーン・センターに着くと、びっくり。
のぼりが立って風になびいて、オペラやバレエの拠点で
あるリンカーンセンターが、歌舞伎座のような雰囲気に
なっているではないか。まるで東銀座!
そして柄本さんが関係者の人たちと話てると、ちょうど
10分後に、この夜から始まる『法界坊』の、
本番に近いマスコミと関係者のみしか入れない
通しリハーサルがあるので、観る?とか誘われているので、
じゃあ折角だから、ということで、僕も観させて
もらうことに。あわわ。

会場に入ると、昔友人の紹介で会ったことがあった
ユニジャパンの方がいて、お互い名前は覚えて
いなかったのだが、ああ!とびっくりしあって、
なんでここにいるの?と訊かれたのだが、
いやあ、なんででしょうね・・・?と答える他なかった。

場内に入ると、マスコミ中心で入りはまばら。
目の前には松竹の会長が一人で座っている。
いやあ、最後にその姿を見たのは、自分が働いていた
松竹系の劇場の事務所以来だなあ。5年ぶりぐらいかなあ。
とシュールな気分のまま場内を見渡すと、
天井からは無数の提灯が釣り下がり、舞台の上には
まさにこれぞ歌舞伎、という豪華な垂れ幕が。
異国にいてジャパンという不思議な情緒だ。
そして気づくと中村勘三郎さんが近くにいて、柄本さんと
話していたので、ついでにご挨拶させてもらう。

感激・・。

nakamura

そしてこの日の歌舞伎は、センセーショナルな面白さで
度肝を抜かれた。モダン歌舞伎、ということなのだろうが、
勘三郎さんの動きはトリッキーだがスマートで確実で、
無駄がない。しかも英語のセリフが目白押し!
アメリカ人、大爆笑!!!
息子、勘太郎の動きや表情が気持ち悪くて下ネタもあって
最高だし、全体のノリとしては大人計画の芝居に
近かったりするのだが、斬新でありながら伝統に基づく
崇高さと威厳があり、今昔融合型の新しい
エンターテイメントとしての歌舞伎が成立していたのだ。
しかも、切株まで登場して心から大爆笑!!!
切れた腕や脚が踊るのです。さらに顔面が縦にスライス
されたおっさんも登場するのだ。
これははっきり言って、『死霊のはらわた』ミュージカル
以上のカタルシスだった。

柄本さん夫婦は、前半のパートが終わったところで
会場を後にしたが、折角だから観ていったら?と
言われたので、観ることにした。最初は途中で帰るつもり
だったが、あまりにも楽しすぎたので。
最後は昔ながらの歌舞伎スタイルで、三味線舞台が脇を
固め、勘三郎さんが獅子舞みたいな衣装と分厚い化粧で
登場し、美しい舞を披露して公演は終了した。
凄いものを、観てしまった。これは画期的だ。ロックだ。
もう一回、今度は一般客に混じって観ようかな??
そして柄本さん夫妻とはまた近々お会いする予定だ。
日本でも、実はご近所さん。
NY二日目、素晴らしく充実した一日だった。

というか、俺は一体ニューヨークになんの仕事をしに
来ているのでしょうか?