【Bunnmei ブログ】
「少子化対策」は問題の本質をとらえていない
日本政府の「異次元の少子化対策」の内容がしょぼいのは事実です。子供は金がかかります。「子ども・子育て支援金制度」に基づく給付がどうでもよいと言うつもりはありません。しかし、それと合わせて義務教育の無償化、高校教育無償化、欧州のように大学教育無償化なども推進すべきでしょう。
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しかし何よりも「少子化対策」にとって大切なことは、女性や母性が尊重され、それが基盤となって創る社会であるということがより根本的な課題であることを指摘したいと思います。現代の社会システムはそうなっていないということです。
近代における女性の社会進出は、多くの女性が労働力として被雇用者となることによって拡大してきました。ところがすでに見てきたように、このような社会進出に逆比例する形で少子化が深刻化してきたのです。と言うのは、女性が現代社会で企業等への進出を果たしそして地位を確保したり、出世して高いポストに就くことはまさに母性や女性の抑圧として作用すると思われるからです。企業社会で男性と肩を並べて働くには出産や育児の負担の少ない男性に対して女性は明らかに「不利」な存在として現れるでしょう。
下の韓国における統計に、この問題が如実に表れています。
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上野千鶴子さんが、講演で語っていましたが「現代社はテーラーメイド(紳士服仕立て)」であると。つまり、女性が社会進出を果たし出世に突き進みキャリアを積むことは「紳士服を着て、男性のように働く」ことを意味するのです。現代社会が、とりわけ日本や韓国社会は伝統的保守主義が残るという面もあり、そこでの社会進出は女性としてではなく「男性」として働くことを意味しているということです。「結婚は不利だ」「子供の出産は不利だ」となってしまう社会は異常です。これでは少子化は資本主義の宿痾として容易に解消できないでしょう。資本主義社会の反母性主義、が示されています。
■ジェンダー差別を深くとらえる
「ジェンダー差別」と言うと、同じ仕事をしているにもかかわらず男性と女性で賃金が異なる場合があること。また、女性がより低賃金の職種に集中する傾向があることなどが挙げられます。 女性はSTEM分野(科学・技術・工学・数学)など男性が優位な分野に進むことが難しい状況や、管理職やリーダーシップポジションに女性が十分にアクセスできない状況があることなどが指摘されます。
賃金を男女対等にする、会社役員の女性を増やす、といった「指標の改善」は当然の差別の是正です。しかし、それだけでは問題の真の解決にはなりません。女性のままで適合する社会になること、あるいは女性や母性が主体的に形成する社会であること、すなわちジェンダーフリー社会を展望することが無ければ、少子化問題への対応にはならないと思っています。「テーラーメイド(紳士服仕立て)」の社会構造の破壊こそ不可欠な条件だと思われます。このような核心部分の変革なしに「女性活躍」「女性の社会進出」を推し進めることが今の社会では母性の抑圧となり、その一つの結果が「少子化」なのです。
■「子どもを産み育てる性」から男と同じ「労働力商品」となった女性
日本や韓国のように、後発資本主義から一気に資本主義化した国ではより一層少子化が深刻です。欧米先進諸国のように形の上でジェンダー平等が浸透している国では少子化の深刻度はややましです。しかしながらいずれにしても「子どもを産まない、産めない」社会環境を資本主義が日々拡大再生産しているということは見逃されてはなりません。
かつての伝統的な日本社会では、女性は家族の中で「子どもを産み育てる性」として強く位置づけられてきました。戦後このことを女性差別であり、女性の社会進出を阻止するものだとしてその対策がとられてきました。同時に企業の立場からしても、女性の雇用の拡大は賃金抑制としてあるいは必要に応じだ派遣やパート労働などに活用されてきました。資本のご都合による「女性の社会進出」は、賃金格差や高ポストに対する女性の差別として浮き上がってきました。同時に、企業内での地位の維持や昇進を目指す競争に巻き込まれれば韓国の調査が示したように「結婚、出産は人生に不利」と言う意識が高まってゆくのです。
ですから、少子化を日本で、そして先進諸国ばかりでなくグローバルサウスで進む少子化(このまま放置すれば数百年で半減する)を回避するためには、母性や女性の立場からする社会の変革が求められているということになります。それは、資本との企業社会との闘いにほかなりません。
現在の男性社会に代わる女性や母性を大切にする社会、いや女性や母性に基づいて社会を造り直すことこそ求められています。現在の社会は男性中心社会という擬態を持っていますが、その本質は資本・企業のもとでの個人間競争であり階級社会です。したがって「男性優位」は資本主義が生み出した物象(ぶっしょう)なのです、欺瞞的な仮象です。ゆえに「男性優位社会」の実態は、男性大多数にとっても不快で住み心地の悪い社会にならざるを得ません。根本的社会変革が必要です。(了)
2024年アジア未来フォーラム
性別格差が大きいほど出産意向が低下
女性の73%「結婚は女性に不利」
男性は35%…倍以上の認識の違い
産後調理院の新生児室の様子=資料写真//ハンギョレ新聞社
韓国社会全般の性平等水準に対する男女の認識の差が大きいことが確認された。女性が見ている現実は男性よりはるかに悲観的だった。このような違いが出産と結婚をさらに忌避させるという悪循環を招くと専門家たちは指摘している。
ハンギョレが世論調査会社グローバルリサーチに委託して全国の19歳から44歳の1千人の成人に対して実施した調査(9月10~13日)で、「自分は子どもを作りたい」(出産意向)という問いに「そう思う」と答えた女性の割合は48.5%。一方、男性は65.4%ではるかに高かった。
男女の認識の違いは結婚の意向にも表れている。男性の71.8%が「結婚したい」に「そう思う」と答えているが、女性は56.8%にとどまった。
世界で最も深刻な少子化社会となっている韓国において、女性は男性よりも結婚を望んでおらず、子どももあまり望んでいないということだ。その背景には、結婚と出産は女性にとって損だという強い認識がある。「結婚は女性にとって損だと思う」という問いでは、「そう思う」と答えた男性は35.3%だった一方、女性は実に72.6%にのぼった。女性は男性の2倍を超える。
出産に関する問いでは、状況はさらに深刻になる。「出産は女性にとって損だと思う」という問いでは、女性は84.4%が「そう思う」と答えたが、男性はそれよりはるかに低い51.7%にとどまった。女性のこのような認識の裏には、韓国社会の「再生産構造」は自分たちにはるかに不利に働いているという暗黙の判断がある。ソウル大学のイ・ジェヨル教授(社会学)は、「女性たちの期待値は高くなったのに、家族と職場には制度的、文化的な遅滞現象が現れている」とし、「このような状況においては、集団的に見れば最悪の結果だろうが、若い女性たちの立場からすると、結婚と出産を忌避するというのは最も合理的な選択だ」と語った。
20代半ばのKさんは大学院で学んでいる。インターンで収入も得て経験も積んでいる。彼女はまだ先の話だと思っているが、よい人に出会えれば結婚することもあり得るという気持ちがある。しかし、子どもを産むつもりはまったくない。子どもを産んだら職場を捨てなければならないかも知れないからだ。周囲の先輩女性たちからも、出産によるキャリア断絶の話を数多く聞いてきたからだ。彼女は、出産は女性にとって損だと考えたのだ。
結婚生活による家事と出産後の子育ての分担をめぐる男女間の認識の差も大きい。「夫婦の家事分担は公平になされていると思う」という問いでは、「そう思う」は男性が75.4%だったのに対し、女性は64.1%。子育て分担においても、「公平だ」と答えたのは男性が68.2%、女性が55.7%だった。これらは、家事と子育ての分担の現実は男性が考えている現実よりも女性が見つめている現実の方がはるかに悲観的だということを意味する。性平等な役割分担の実現までにはまだ距離があるという意味でもある。
このような出産と子育てをめぐる女性と男性の認識の違いは、少子化とどのような関係があるのだろうか。翰林大学のシン・ギョンア教授(社会学)は、「性平等についての認識とつながっている性別による態度の違いが大きいと、女性の出産意向は低下する」と述べた。例えば、出産と育児をめぐる現実について、男性は公平だと認識し、女性は不公平だと思っているという風に、男女の認識の隔たりが大きいと、女性は出産を忌避する可能性が高まるのだ。男性が出産による負担を無視する可能性が高まるため、相対的に女性の負担が重くなると考えるからだ。
結婚と出産にとどまらず、韓国社会全般の性平等環境に関する問いでも、性別による違いがはっきりと表れた。韓国社会は「男性の方が暮らしやすい」という問いに「そう思う」と答えた男性が14.7%だけだった一方、女性は57.1%にのぼった。逆に「女性の方が暮らしやすい」という問いでは、「そう思う」と答えた女性は4.6%(男性は38.2%)のみだった。
家庭や職場に存在する差別についても、女性の方が深刻に感じていた。「家庭における女性の待遇」について、女性は61.2%が差別が強いと答えたが、男性は36.7%にとどまった。
職場での差別についての問いでは、男女の認識の違いがさらに大きくなる。差別が強いと答えた女性は70.5%にのぼった一方、男性は38.6%にとどまった。
調査を実施したグローバルリサーチのキム・テヨン専門委員は、「今回の調査で、女性はワンオペ育児、キャリア断絶など、出産と育児において男性より大きな負担と損害を甘受しなければならないと考えていることが確認された」とし、「そのため出産意向が男性より低く、実際に少子化の重要な原因となっている」と語った。
今後の性平等の向上に対する見通しでも、期待は42.7%にとどまった。女性の期待の方が低かったが、差は大きくなかった。社会全般の性平等の現実をめぐっては男女の認識の差が大きかったが、将来の見通しでは悲観的な方へと収れんしているわけだ。
リュ・イグン|ハンギョレ経済社会研究院先任記者、ハン・グィヨン|同研究委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1161277.html韓国語原文入力:2024-10-07 06:00
訳D.K