旧優生保護法の背景を考え、二度と同じことがないように
【ワーカーズ九月一日号より転載】

旧優生保護法:強制不妊手術で国を提訴「尊厳侵害、違憲」 | 毎日新聞

 二〇二十四年七月三日、旧優生保護法(一九四八?一九九六)のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判の判決で、最高裁判所大法廷は、旧優生保護法は憲法違反だとする初めての判断を示しました。

 そのうえで「国は長期間にわたり障害がある人などを差別し、重大な犠牲を求める施策を実施してきた。責任は極めて重大だ」と指摘し、国に賠償を命じる判決が確定しました。

 今まで闘ってきた気持ちが少し救われたかもしれませんが、体は元に戻ることがありません。なぜ、こんな悲しいことが起こってしまったのだろうと強く思いました。全国で被害者が二番目に多い宮城県について調べてみました。

○背景

 第二次世界大戦敗戦直後、朝ドラ「虎に翼」でも放送されていましたが、弱い立場の戦災孤児が町中にあふれて、要保護児童として施設に収容されていきました。応急処置的な場所で脱走する子どもが多かったようです。そのような中、一九四八年四月児童福祉法が制定されました。規定に要保護対象児童として、保護の手が加えられなかった精神薄弱児に対して、「精神薄弱児施設は、精神薄弱の児童を入所させて、これを保護するとともに、独立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設とする」と規定されました。

○亀亭園開設

 東北における最初の精神薄弱施設 亀亭園が一九五〇年に開設されました。建物は宮城県独身寮を改造したもので、水は沢の湧水を汲み上げる簡易なもので、食料確保がままならず、児童も一緒に畑を作り、野菜を育て、やぎや鶏を飼育し卵などを収穫していたが、全ての児童がお腹いっぱいに食べられませんでした。世間も食糧難、住宅難、生活必需品不足の状態でした。また、障害があるというよりは、戦後の家庭状況で基本的な生活習慣が身に付かなかったため、児童相談所での検査で精神薄弱として亀庭園に送られた子どもも多かったそうです。亀亭園は一九五六年十二月に全焼し児童三名が焼死するという痛ましいことが起こりました。

○愛の十万人(県民)運動

 亀亭園の再建させるためには、国家予算と県民の募金でと協議されていました。県民による寄付を集めるために、宮城県精神薄弱協会が任意団体として組織されることになります。県民運動に繋げるために、知事、仙台市長、会社、学校関係労組、PTA連合会、校長会、衆議院議員他がつながり、オール宮城の体制で取り組まれました。設立趣意書には、目的として四つの趣旨が挙げられています。

一 県民の中に、精神薄弱児をしあわせにする考えを広める。

二 精神薄弱児のいろいろな設備を整備してやる。

三 特殊教育を盛り上げる。

四 優生保護の思想をひろめて県民の素質をたかめる。とあります。言い換えれば遺伝性精神薄弱を根絶して、宮城県民の将来の質を上げていきましょうということなのです。本人の同意なしに、強制的に不妊手術を受けさせられるのです。旧優生保護法の条文にも「不良な子孫の出生を阻止する」とあります。

 趣旨二 施設設備再建のため、一口百円を十万人の県民から集めると目標資金につながることがスローガンとして掲げられ、達成しました。自己資金に加えて募金などを財源に、無償で土地を貸してくれる場所がある小松島に学園が建設されました。

 趣旨三 特殊教育を盛り上げる。主に軽度児が入所し、そこから養護学校に入学するために、みんなで動きました。近隣の小学校、中学校の分教室ができ、のちに養護学校が敷地内に建設され、そこに通学します。亀亭園も再建され重度自動が教育免除で入所します。

趣旨一から三の施設設備や教育の保障などが整い始めると、趣旨四 県民の資質を高めるために強制不妊手術が次々とすすめられていきました。
宮城県の強制不妊手術が多いのは、オール宮城で取り組んだ結果だと思います。

○裁判闘争をされたうちのお一人Aさんのこと

 中学卒業後、知的障害者に職業訓練を行う「職親」の家に預けられ、住み込みで家事を手伝っていました。十六歳のときに職親の妻に連れられ、何も知らされず不妊手術を受けさせられました。術後、療養していた実家で両親の会話を聞き初めて子どもが産めない体になったとわかり、あとから、旧優生保護法に基づくものだと知ったそうです。また、あとから具体的ないろいろな検査をして知的障害には、当てはまらなかったそうです。当時、どんな検査をして精神薄弱と認定されたのでしょうか?当時の対応を考えると、悔しい思いでいっぱいです。裁判闘争、本当にお疲れ様でした。

○最後に

 不妊矯正手術の裁判 勝訴の後、岸田総理は謝罪しました。宮城県では知事を含め、関わった団体の一部が謝罪しました。

 しかし、重度の女性の子どもの生理介助が大変で、男性の子どもが性犯罪を間違えて起こしてしまうかもしれないから強制不妊手術を受けたら良いのかと悩む気持ちがいまだに深く根付いている保護者もいます。そのような悩みに寄り添いながら、子どもの人権を守っていきたいと思います。

 旧優生保護法を反対し続けその法律を無くした意味や強制不妊手術裁判闘争を起こしてきた意味をしっかりと引き継ぎ、社会全体でしっかりと支え合うアソシェーション社会を目指してみんなで手を取り合っていきたいと想います。(宮城 弥生)