極右を阻止した、次はマクロンを追い出そう フランスの階級闘争
【ワーカーズ八月一日号】

 

フランス総選挙、左派連合が最大勢力の情勢 極右政党は議席伸びず | 毎日新聞


7月7日の決選投票において、仏内務省の最終確定結果と仏紙ルモンドの集計によると、左派連合「新人民戦線(NFP)」は下院で最大勢力となる182議席を獲得。与党連合は168議席で、解散前の250議席から大幅に議席を減らした。一方、RNと右派の共闘勢力は143議席にとどまった。(開票報道による)

■誰も資本主義の矛盾を解決できなかった

フランス政治はこの数十年間、社会党中心の左翼連合政権からマクロン新自由主義政権へ、そして今、極右台頭へとおおきく傾こうとしていました。選挙戦術(共闘)でかろうじて極右政権成立を阻止したことになります。

つまり、一つだけ確かなことは結局のところ資本主義の矛盾は誰も解決できなかったということです。大衆の怒りや不安にこたえる政党は無かったのです。もちろん、極右も解決できないのですが、彼らが危険なのはもし政権につけば人々の不満に対してマクロン以上に強権を行使することで、フランスの分裂と混迷を深めてしまうことです。そのさい、マイノリティーや移民が「フランスの敵」として弾圧され、政治的専制は深まるでしょう。

労働者や市民の闘いは、議会における極右進出阻止と言うだけでは済まないのは明らかです。急進左翼は根源的な問題を前面に立てて、スマート化し「脱悪魔化」して国民を抱き込もうとする極右を暴露しつつマクロン派のような資本主義派を追い込む長期的な闘いを展望すべきです。

■極右を阻止した、次はマクロンを追い出そう

第一回投票における極右=国民連合の「躍進」を踏まえて、マクロン派とメランションらの新人民戦線が候補者の調整をし、その結果は、予想以上に「効果」を挙げて、極右の第一党進出を阻止し、極右政権の樹立を阻止しました。これは政治的には大きな勝利であることは確かです。極右(RN・国民連合=ルペン派)は「ソフトイメージ」「反ユダヤ主義の放棄」にもかかわらず、完全に失速しました。議会の過半数どころかその半分に押し込められました。

その代わりに躍進したのが、新人民戦線です。この戦線の政策については労働者の権利、移民の人権、環境保護、等々、後に触れるようにラジカルな政策を掲げています。

しかし、下層大衆による革命的ともいえる富裕層に対する要求や政策が、今後大きな抵抗や攻撃に遇うことは自明です。今後、フランスは階級闘争がより一層激しく闘われる時代に突入したのです。

そもそも、大統領マクロンが、第一党になった新人民戦線に政府を組織させない可能性が高いとみられます。もちろん、新人民戦線はマクロンの延命に手を貸す必要はありません。国民的支持を失ったマクロン派が崩壊することは早晩不可避です。

■新人民戦線NFPとは何か、その多様な構成

7月7日の選挙で第一党に躍り出た、フランス新人民戦線(Nouveau Front Populaire)NFPは、フランスの左派政党や社会運動が連携して結成した政治連合です。

新人民戦線NFPには多くの政党や潮流が参加しています。「不服従のフランス」(La France Insoumise)LFIは新人民戦線の中心的な役割を果たしています。LFIはジャン=リュック・メランションが率いる急進左派の政党で、フランスの左派政治の中で非常に影響力のある存在です。そのほか元大統領オランドのいる社会党(Parti Socialiste)、フランス共産党(Parti Communiste Francais)、緑の党(Les Verts)、急進左派(La France Insoumise)など、幅広い左派勢力が参加しています。

7月7日の選挙結果では「不服従のフランス」が71議席。社会党が64議席。エコロジー党(EELV)33議席などです。

■新人民戦線の政策実施計画

かりに新人民戦線が政権に就いた場合以下の政策が推進されます。

政権の最初の15日間は、税引き後最低賃金の月額1600ユーロへの即時引き上げ、生活必需品やエネルギー料金の価格凍結、社会住宅への投資、EUの赤字支出ルールの拒否(ただし、EU条約に「背く」という不服従のフランスの以前のスローガンを再び主張することなく)などの「緊急」対策を実施すとしています。マクロンの2022年の62歳から64歳への定年引き上げは破棄されます。

次に、最初の100日間は、購買力、教育、医療制度、「エコロジー計画」、「億万長者特権の廃止」をカバーする5つの立法パッケージを通じて、提案された「路線変更」の土台を築くことになります。「変革」と題されたその先の数カ月は、公共サービスの持続可能な強化、「住宅への権利」、環境に配慮した再工業化、警察と刑事司法制度の改革、現在の準君主制大統領に代わる「第六共和制」の創設につながる憲法改正が予定されています。

左派の「立法契約」は、マクロン政権時代の主要テーマであった、富裕層への経済力移転を優先した福祉国家への攻撃と、公共サービスの浸食との決別を意味します。左派新政権は、マクロンの失業保険制度の引き締めを中止するでしょう。公共部門労働者の賃上げや、学校給食の無料化も予定されています。(labornet&jacobin)

■新人民戦線これからの道

新人民戦線NFPは、現政権に対する有力な対抗勢力として注目されていますが、すでに述べたように内部の意見の違いや協力関係の維持が課題です。とりわけ、新自由主義におもねる傾向のある社会党は、マクロン派の切り崩しの標的です。マクロン派は当面、社会党など「穏健左派」や中道右派などを糾合し多数派形成を目指すことになりそうですが、結局フランスの社会・経済問題の解決は、新自由主義では不可能であり、マクロン派は再び三度、行き詰まることでしょう。

 新人民戦線は、これまでの政策的約束を維持しつつ、年金・失業保険改革の廃止をはじめ、新人民戦線プログラムに定められたすべての緊急措置を掲げ、資本の政権=マクロン政権と対峙することになります。

当然マクロン派、富裕層、そして極右からの攻撃が激しくなると予想されます。フランスの新人民戦線の政策プログラムに対する批判や反論は多岐にわたります。特に最低賃金の引き上げや年金の増額などの大規模な財政支出計画は、フランスの財政を不安定化させると批判されます。富裕層に対する90%の税率導入や法人税の引き上げなど、新人民戦線の税制改革は企業や高所得者に激しく攻撃されています。さらに新人民戦線は急進左派の「不服従のフランス」(LFI)が主導しており、そのリーダーであるジャン=リュック・メランションの「過激な思想」が攻撃されています。

ゆえに、誰が、どの階級が歴史を前進させる主体であるかを、新人民戦線はあいまいにすることなく、労働者、低所得者、被抑圧者の立場に立ち切る運動が必要とされています。(阿部文明)