【小池百合子都知事を刑事告発】

元側近・小島敏郎が目の当たりにした小池都政の大問題

「これ以上、共犯者を作らないで」

 (msn.com)

 

「都民ファーストの会」の事務総長を務めた小島敏郎氏が、公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)の容疑で小池百合子東京都知事(71)を刑事告発した。小池氏の“学歴詐称工作”に加担したことについて、小島氏が後悔を語ったのは「文藝春秋」5月号の記事だった。「小池さん、これ以上、周囲の人を巻き込み、共犯者を作らないでください」と語りかけた小島氏の真意とは。

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隠蔽に加担した側近たちを厚遇

 (小島氏が加担し、エジプト大使館のFacebookに掲載された)カイロ大学声明が発表されたことで、学歴詐称疑惑は、見事に鎮火されました。都議会自民党も「小池都知事のカイロ大学卒業証書・卒業証明書の提出に関する決議案」から降り、対抗馬も立てませんでした。実質的に小池さんを推薦したのと同じです。小池さんは再選を果たしましたが、自民党の二階さんや都連には大きな借りができた。その結果、自民党寄りに変節していったのでしょう。

 

小島敏郎氏 ©文藝春秋

小島敏郎氏 ©文藝春秋© 文春オンライン

 

 関わった側近たちも厚遇しています。メールや電話でA氏と盛んにやり取りをした樋口さんは、21年1月に千代田区長選に出馬。小池さんが熱烈に応援し、若くして千代田区長となりました。荒木さんは22年7月の参議院議員選挙に立候補し、やはり小池さんが猛烈に応援した。惨敗しましたが、今も都民ファの特別顧問として小池さんと並ぶ立場にいます。

 樋口さんや荒木さんを小池さんが可愛がるのは、2人が声明文のからくりを知っている協力者であることも大きいのではないか。声明文が出てだいぶ経ってからのこと。A氏は荒木さんから、「カイロ大声明の時はお世話になりました」と言われたそうです。

 

 その際、A氏はこんな話も荒木さんから聞いています。小池知事の特別秘書の夫に、元新聞記者の方がいます。声明文が出る前、彼は小池さんの密命を受け、コロナ禍のなかカイロまで行ったというのです。何か工作でもしようと思ったのでしょうか。しかし、特段の成果もなく帰国。それで最終的に私やA氏にお鉢が回ってきたわけですが、荒木さんは、「何をしに行ったんだか」と、呆れた感じで言ったそうです。

 

 樋口さんや荒木さんの例を見てもわかるとおり、弱点を握られた相手に、小池さんは強く出られません。それで都民の生活を預かる、政治家としての務めを果たせるのでしょうか。

 学歴の詐称は、公職選挙法の虚偽事項公表罪にあたります。ただ、公訴時効は3年。20年の都知事選の選挙公報にも、小池さんはカイロ大学卒業と明記していますが、すでに時効が成立しています。この手記を読んで、次の都知事選で彼女が再び学歴を明記するかどうか。私は注目しています。

 本誌は、小池氏、樋口氏、荒木氏、駐日エジプト大使館、小池氏と親しくカイロ大学との取材窓口にもなっていた同大文学部日本語学科のアーデル・アミン・サーレ教授に、「小池氏や樋口氏らが声明文作成に関与したのか」「それを知っていたか」など、事実関係を確認する質問状を送った。小池氏は「回答する義務はなく、回答する必要性も存在しないと考えている」と代理人弁護士を通じて回答。荒木氏の事務所は「そのような事実はございません」。樋口氏、大使館、アーデル教授からは締め切りまでに回答は無かった。

※ 小島氏へのインタビュー動画を「文藝春秋 電子版」のYouTubeチャンネルで公開中

 都知事の座を去り権力を失えば、自分の秘密を守ることも難しくなる。それゆえ、小池さんは、都議会多数派と足並みをそろえ、都庁官僚の支持を得て、権力を持ち続けること自体が最優先になっています。

 たとえば、樹木伐採計画を巡って議論となっている、明治神宮外苑の再開発問題でのこと。事業を施行認可する立場である東京都知事の小池さんに対し、作曲家の坂本龍一さんは亡くなる直前、見直しを求める手紙を送りました。しかし、小池さんは会見で、都は何もできないので「事業者の明治神宮にも手紙を送られた方がいい」と門前払いにしました。

 

 築地市場の跡地の再開発を巡っては、「5万人収容の多機能施設」や「アニメ・ゲームなどに特化したエンタメ施設」を作るなどの案が報道されています。しかし実際どのような施設になるのか、議会や都民に一切説明をせず、知事周辺だけで決めようとしています。

 東京五輪の開催についても、国内スポンサーからの収入は3761億円にのぼり、そのうちIOC・JOC・電通の取り分は総額1077億円でした。それらは適正な金額だったのか、どこにいくら入ったのか。東京都は五輪組織委員会に監事を送り込んでいましたが、言を左右にして説明していません。

 

 異論を許さない強権的な体制は、都民ファも同じ。22年度、都立高校の入試で英語のスピーキングテストが導入された時がそうでした。ベネッセコーポレーションが運営に携わり、採点はフィリピンの子会社が請け負うなど、採点の不透明さが問題視され、さらに、受験生によって不平等なシステムであることも指摘されて、3人の都民ファの議員が反対しました。すると、都民ファはこの3人を除名処分にしたのです。テストはトラブルが多発して、わずか2年でベネッセは撤退を決めました。

 

 実際の都議会を見ている都民の方は少ないと思いますが、ぜひ見て頂きたい。国会と違い、野党の質問には答えない小池さんの態度はもちろん、都民ファ議員も、ヤジを飛ばすだけ。さらにヤジに抗議した都議らには、訴訟まで仕掛けたりもする。答弁に立つ都庁幹部も、小池流の紋切り型の答弁を繰り返している。議会は熟議、討議の場ではなくなっています。

「予算の単位が違うのよね、桁が」

 小池さんは一時、国政への復帰が噂され、さらには次の総理候補としても取り沙汰されていました。意を決して、私が手記を発表しようと思い立ったのは、このままでは、日本の政治が危うくなると感じたからです。民主主義を守りたい、そのために力を尽くしたい、と。

 私は学生時代、司法試験と国家公務員試験に合格し、環境庁に入りました。水俣病に代表される公害病が問題となる中、環境行政に身を投じたいと思ったからです。

 様々な政治家に仕えましたが、特に思い出深いのは、竹下登さんです。昔の自民党党人派には「政治は弱者のためにある」との信念がありました。母子家庭で育ち、幼少期に苦労も味わった私は、この主張に共鳴しました。竹下さんには金権政治的な一面もあったかもしれませんが、「弱者を救いたい」との強い思いがあった。県議出身で、地方創生政策を行うなど、晩年まで地方を大切にする心を持ち続けていました。

 

 翻って、小池さんはどうでしょう。緑をイメージカラーにしていますが環境問題に興味はなく、弱者を思いやる「心」がなく、強者が好き。やはり、リーダーには「弱者に寄り添う心」が必要です。

 彼女は今、ものすごい勢いで都の金をばらまいています。選挙対策であり、単に自分がスポットライトを浴びたいからでもあります。23年1月4日の都庁職員を前にした年始の挨拶では突然、「子ども手当をひとり一律5000円支給する」と宣言しました。その日の午後に岸田文雄総理が行うスピーチで「異次元の少子化対策」について語るとの情報を掴んだからです。「総理よりも目立ちたい」という欲望から、何の熟慮もなく、思いつきで言ったのです。

 東京は国より財源が、ずっと豊かです。小池さんはそのことに都知事になって気づき、ある時、私に嬉しそうに言いました。

「予算の単位が違うのよね、桁が」

 国は百万単位で物事を進めるけれど、東京都だと千万単位、億単位だというのです。

 東京はいまバブルです。全国の法人税の4割が、本社のある都に納められる。子どもへの給付増額は、財政が潤沢な東京にはできても、国では増税論議になります。国がやれないことでも、都はやれる。結果、東京一極集中はますます進む。

 この構図を改めなければ、東京都だけでなく、国の先行きは非常に危ういものになってしまいます。

これ以上、共犯者を増やさないで欲しい

 今回、背中を押してくれた人物が2人います。ひとりは、水俣病の原因企業であるチッソの水俣工場附属病院長の細川一さんです。水俣病の原因が工場から流れ出る排水にあることを、細川さんは実験で突き止めていました。結果は工場長にも伝えましたが、会社は利益を求めて公表せず、排水を流し続け、被害が拡大しました。

 細川さんは病床で「チッソの排水が原因だと自分は幹部に伝えた」と証言しました。この証言は重く、裁判でチッソの責任が追及される根拠となりました。多くの関係者が口をつぐみましたが、細川さんは悩んだ末に、正しいことをして死にたいと考えたのだと思います。

 もうひとりは、小池さんとカイロで同居していた北原百代さんです。北原さんも大変に悩んだそうです。でも、やはり事実を知りながら黙っているのは、共犯者になることと一緒だと考えて証言をした。また、北原さんはこの問題を黙殺する大手メディアをなんとか動かしたいと考え、『女帝』の文庫化にあたって実名証言に切り替えた。その勇気に敬服したのです。

 

 権力者は役人に取り囲まれて、権力の虜になっていく。そうなってしまった政治家を私は何人も見てきました。それには注意しなくてはいけない。再選を控えた小池さんに、そう言ったことがあります。

「私はそうなっている?」

 と聞かれたので、私は、

「まだ、そうなっていない」

 と答えました。でも今、聞かれたら、こう答えます。

「もう、そうなってしまった」

 都知事再選以来、都議会でカイロ時代の小池さんに関する質問が出ています。しかし、小池さんしか知りえず、どこでも説明していないことなのに、小池さんは答弁に立たず、東京都の局長に「知事がこれまで議会など様々な場面でお伝えしてきた」と答弁させています。

 小池さん、これ以上、周囲の人を巻き込み、共犯者を作らないでください。そして自ら真実を述べ、出処進退を決めてください。

本記事の全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(小島敏郎「 『私は学歴詐称工作に加担してしまった』小池百合子都知事 元側近の爆弾告発」 )。

(小島 敏郎/文藝春秋 2024年5月号