【Bunnmei blog】

 

日本外交は「独自」にイランやサウジアラビアなどとの関係を重視してきました。もちろんその本音は「アラブ外交」ではなく「アブラ外交」と、揶揄されることも少なくありませんでした。

 

下添付記事の指摘のようにサウジアラビアにおける人権問題は現在も続いています。それらを不問に付して関係の拡大を目指す米国や日本はダブルスタンダードそのものです。最近の動きを確認してみましょう。

以下に、主要なサウジの人権問題の概要を示します。

 

■サウジアラビアの人権状況

 

サウジアラビアでは、表現の自由と報道の自由が厳しく制限されています。政府に批判的な意見を発信するジャーナリスト、作家、活動家はしばしば逮捕され、投獄されます。有名な例として、ジャーナリストのジャマル・カショギ(Jamal Khashoggi)が2018年にトルコのサウジ総領事館で殺害された事件があります。この事件は国際的な非難を浴びました。

 

女性の権利についても多くの問題があります。近年、女性の権利向上を目指す改革が進められており、例えば、2018年には女性が自動車を運転することが許可されました。しかし、依然として多くの制約が存在し、例えば、男性後見人制度(マハラム制度)が依然として残っています。この制度では、女性が結婚、離婚、旅行、教育などの重要な決定をする際に男性の同意を必要とします。

 

サウジアラビアの刑事司法制度では、拷問や虐待が報告されています。拘留中の拷問や強制的な自白の使用が問題視されています。また、裁判が非公開で行われることが多く、公正な法的手続きを受ける権利が制限されています。

 

サウジアラビアでは、死刑が広く適用されています。特に殺人、強盗、薬物犯罪、テロ関連犯罪などで死刑判決が下されることが多いです。また、公開処刑が行われることもあります。2023年には、人権団体が報告したところによれば、数百人の死刑が執行されました。

 

宗教の自由も厳しく制限されています。サウジアラビアはイスラム教のワッハーブ派を国教としており、他の宗教や宗派に対する信仰や実践は厳しく制限されています。シーア派の少数派やその他の宗教的少数派は、宗教的儀式や集会の自由を享受できず、迫害を受けることがあります。

 

LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人々に対する権利も非常に厳しく制限されています。同性愛行為は違法であり、厳しい刑罰が科される可能性があります。LGBTコミュニティのメンバーは、しばしば社会的な差別や暴力に直面します。

 

■労働者の権利も弾圧、絶対的専制支配

 

外国人労働者、特に低賃金の労働者は、労働条件が悪く、しばしば搾取や虐待を受けています。カファラ制度(スポンサーシップ制度)は、労働者を雇用者に依存させるものであり、人権団体からは現代の奴隷制に等しいとして批判されています。

サウジアラビア王国の政治体制は絶対君主制であり、すべての権力が国王に集中しています。この体制は家族主導型の支配と部族的な統治を特徴としています。王位はサウジアラビア王家(アル・サウド家)の間で継承されます。

 

サウジアラビア王室は非常に大規模で、多くの王子(プリンス)が政府の要職に就いています。主要な王子たちは重要な省庁や軍、経済機関のトップに任命されることが多いです。

サウジアラビアの政治体制は、国王を頂点とする絶対君主制であり、王室メンバーが主要な政府機関や経済機関のトップに配置されています。王室と政府、宗教機関、軍、経済機関が密接に連携し、国家運営を行っています。この体制は伝統的な家族主導型の統治と近代的な行政機構の融合を特徴としています。文字通り「サウド家のアラビア」であり伝統的な王家の支配という、とんでもない階級支配体制を敷いています。「格差社会」というより身分制社会ということです。一刻も早く打倒されるべき野蛮な体制です。

 

■サウジと米国の特別な関係――日本も追随

 

米国とサウジアラビアの関係は、エネルギー、安全保障、経済などの多くの重要分野で強固なパートナーシップを築いていますが、人権問題や地域的な政治動向などで時折緊張が生じることもあります。全体としては、相互の利益が一致する分野が多いため、両国の関係は依然として重要かつ持続的なものとなっています。米国の「人権外交」のデタラメさはサウジとの関係を見れば歴然としています。

 

軍事的な連携は、サウジが米国から大量の最新鋭の武器を購入してきたことで明らかです。両国はテロ対策でも協力しており、特にアルカイダやISISなどの過激派組織に対する戦いで連携しています。最近では、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化(アブラハム合意)の進展が注目されています。米国はこのプロセスを強く支持しており、中東地域の安定化と安全保障を図るための重要な要素と見なしています。パレスチナでの虐殺行為で孤立を深めるイスラエルと米国にとって、サウジアラビアとの連携は貴重な救いと考えられています。しかし、イスラエルのネタニアフ首相が、ガザからの撤退を否定している現在、アブラハム合意がすんなり進むとは考えられません。

 

また、サウジと米国の両国は再生可能エネルギーへのシフトや気候変動対策も、米国とサウジアラビアの関係に新たな課題をもたらしています。サウジアラビアは石油依存経済からの脱却を目指しており、米国との協力が重要な役割を果たすと期待されています。Vision 2030は、サウジアラビアが石油依存から脱却し、経済を多様化することを目的としています。具体的な目標には、非石油収入の増加、民間セクターの拡大、外国直接投資の促進、観光業の振興などが含まれます。

 

サウジアラビアの石油依存経済からの脱却は、国内外の様々な要素と協力に基づいています。米国は技術、投資、人材育成の面でサウジアラビアの経済多様化に重要な役割を果たしており、Vision 2030の実現に向けて両国の協力は不可欠です。このパートナーシップは、サウジアラビアの持続可能な経済発展を支える基盤となっています。日本も遅れまいと必死です。

 

このような米国とサウジアラビアとの関係性の発展に日本も食い込みたいというのが岸田首相の本音でしょう。米国と「敵対」する中国に対しては日米ともに「人権無視」「人権弾圧」と糾弾してもサウジアラビアに対しては口を閉ざし続けています。(了)

 

 

「サウジアラビア」の人権問題を見て見ぬふりをする日本政府は、

なぜ「中国」の“人権侵害”だけを問題視するのか

 古賀茂明 (msn.com)

 

 5月20日、予定されていたサウジアラビアのムハンマド皇太子(ムハンマド・ビン・サルマン:略称MBS)の訪日が延期されたというニュースが流れた。国王の健康状態悪化が理由なので、大きな問題ではなく、その扱いも小さなものだった。

 サウジの皇太子MBSといえば、大胆な経済改革主義者であることで知られる。特に有名なのが、MBS肝煎りの未来都市プロジェクト「NEOM(ネオム)」だ。

 総面積は2万6500平方キロ(ベルギー並みの面積)で、2024年には第一弾となる「シンダラー」が完成し、3軒の高級リゾートホテルが開業予定。26年開業予定の砂漠の中のスキーリゾート「トロジェナ」では、なんと29年に冬季アジア競技大会が開催される計画だ。

 

 さらに度肝を抜かれるのは、幅200メートル、距離170キロにわたるライン上に約900万人が居住する直線状の高層都市「ザ・ライン」を建設予定で、最初のモジュールは27年開業予定だ。

 このプロジェクトには世界中の企業が関心を示していて、日本企業にも大きなビジネスチャンスがあるかもしれない。

 ということで、岸田文雄首相は、サウジとの協力は「売り」になると考えているのだろう。

 一方で、この皇太子MBSは、権力欲が強く、自己の力を拡大するためなら手段を選ばないという「怖い」裏の顔を併せ持つ独裁者として知られる。

 イスタンブールのサウジ総領事館で起きたサウジ人記者の殺害事件を巡り、米国家情報長官室は21年2月、MBSが殺害を承認したと断定する報告書を公表している。

 

「サウジアラビア」の人権問題を見て見ぬふりをする日本政府は、なぜ「中国」の“人権侵害”だけを問題視するのか 古賀茂明

「サウジアラビア」の人権問題を見て見ぬふりをする日本政府は、なぜ「中国」の“人権侵害”だけを問題視するのか 古賀茂明© AERA dot. 提供

■人権団体はサウジ皇太子を批判

 また、サウジ政府は、「ザ・ライン」の建設予定地に入った既存集落で立ち退きを拒む住民に弾圧を加えるだけでなく、最後は殺害することまで許可し、実際にある住民が殺されたことをサウジの元情報機関の幹部が証言したと英国BBCが報じた。

 当然のことながら、世界の人権団体は、MBSを強く批判している。

 例えば、今回の訪日が発表されると、人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチは、岸田文雄首相は、サウジの事実上の支配者MBSに対して、公に人権を尊重するよう働きかけるべきだとの見解を表明している。

 彼らによれば、サウジ政府は、女性の結婚、離婚、そして子どもに関する判断について差別的な規定が含まれる「個人身分法」を制定して女性に対する男性後見人の制度を導入したが、この法律は、結婚におけるドメスティックバイオレンスや性暴力を促進しているとされる。また、サウジ政府は女性の権利を守る活動を含めて人権活動を行う活動家やジャーナリストを厳しく弾圧し、また外国人労働者の権利も侵害していると批判している。

 

 しかし、日本のマスコミは、人権意識が希薄なので、今回のMBS訪日が発表されても、こうした問題を報じなかった。

 岸田首相は23年7月にサウジアラビアでMBSを訪問した際、「日本企業のサウジアラビアへの投資の関心は高く、今回も多数の企業が経済ミッションとして同行している」と述べたり、「国際の平和と安全に関する諸課題への対応において、引き続きサウジアラビアと緊密に連携していきたい」などと発言したりして、無条件にサウジとの関係強化を図る姿勢を示していた。

■サウジの人権問題へは関心を持たない

 一方で、サウジ政府の人権侵害や報道弾圧などについては見て見ぬふりを続けている。

 おそらく、今回も、サウジの状況について何も知らない国民に対して悪い情報は隠したままで、アラビアのプリンスがやってきたという華やかな雰囲気を作り、彼らの超超超金満家ぶり(お金の使い方が常識はずれで、それを追いかける報道が過熱するはずだった)やMBSのアニメ好きの一面などを面白おかしく報道させて、裏金問題などの不都合なテーマから国民の気を逸らすのに好都合だと計算していたことだろう。

 

 今回この件を取り上げたのは、二つのことを言いたかったからだ。

 

 一つは、日本のマスコミが、世界では強い関心を集めているサウジの人権問題に全く関心を持たない、というより、問題に気づくことさえできず、従って報道もしないということだ。

 5月14日配信の本コラム(日本が今でも「報道の自由度」70位に低迷する理由 安倍政治で“変えられてしまった”記者たちの末路)で指摘した日本の記者の質の劣化・変質をものの見事に示したと言っても良いだろう。

 もう一つは、サウジと中国の比較だ。

 日本人の多くは、中国では、人権侵害がひどく、報道の自由もないと思っている。

 一方、サウジについては、砂漠の大産油国ということ以外あまり知らないだろう。報道の自由や人権の状況がどんなものかということは、日本政府がスルーし、マスコミも報じないので、知る術がないのだ。

■報道の自由度が低いサウジと中国

 そこで、二つの代表的な指標を使って、サウジの状況を中国と比較してみよう。

 まず、前述の本コラムでも紹介した国境なき記者団による報道の自由度ランキング(24年)だが、中国は172位だ。日本が70位だから相当低いと言って良いだろう。

 では、サウジはどうかといえば、166位で中国とほぼ並んでいる。中国に報道の自由がないと言うのであれば、サウジにもないと言うべきだろう。

 次に、Freedom House の世界の自由度報告書「Freedom in the World」による自由度ランキング(24年)をみると、確かに、中国はこちらでも低く、181位9点である。

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 しかし、皆さんには意外かもしれないが、サウジはさらに低く、183位8点となっていて、世界でも極めて悪い状況だ。

 そこで疑問が湧いてくる。

 中国に対しては、米国は深刻な人権問題があるとか報道の弾圧があるなどと酷評し、制裁まで加えている。それとともに、中国は危ない国だという風評を世界に広げ、世界の国々に中国と付き合わないようにと促しているのだ。   

 一方、人権重視の外交を展開し、中国を激しく批判する米国は、国家情報長官室がサウジの皇太子が殺人を承認したと断定しているにもかかわらず、また、EU諸国や世界の人権団体が強く問題を指摘しているにもかかわらず、サウジとの間で、積極的に貿易や経済協力を展開している。いかにも矛盾した態度ではないか。

 そして、日本政府は米国隷従なので、中国は非民主的で価値観が違うとことさらに宣伝してほとんど対話のチャネルを閉じたまま、その一方で、サウジに一言の苦言を呈することもなくニコニコと笑顔を振りまきながら、関係を強化しようとしている。

■中国への異常なまでの嫌悪感

 サウジだけではない。例えば、ミャンマーは、前述の自由度ランキングでサウジと同じ183位、報道の自由度ランキングでも171位で中国とほぼ同じ。このミャンマーに対しては、米国やEUも制裁を課しているが、日本政府は何もしていない。

 私は、中国を擁護したいのではない。

 もし、中国を批判し、中国との貿易関係などに制限を加えるなら、サウジやミャンマーにも同じような対応を行うべきではないのかということを言いたいのだ。

 日本の国民は、米国や日本政府がこうしたダブルスタンダードに基づく外交を進めていることを知らないまま、中国に対して異常なまでに嫌悪感を強め、あろうことか、中国との戦争の準備を進めるのも仕方ないなどと考えるようになっている。

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 日本政府は、米国とともに、中国は他の国と比べて「とんでもなく」悪い国だから仲良くすべきではないという評価をまず広めて、国民感情を嫌中に染め上げるのに成功した。その強い嫌中感情という基盤の上で、中国は台湾を攻撃するかもしれない、その次は日本だと言えば、どうなるか。

 国民は、それなら万一に備えて戦う準備をした方が良いという方向に傾く。

 深刻なことに、メディアもそれを助長するような報道を続けている。

 仮に、日本政府が中国には問題があるが、それはサウジと同程度だから、サウジと同じように対応すれば良いと言えば、どうなるだろうか。少なくとも現在のように強烈な嫌中感情が広まることはないはずだ。

 そうなれば、政府が、中国が危ないと叫んでも、もう少し冷静に物事を判断する余裕が国民の中に生まれるだろう。

■台湾に武器を売り込んでいるのは誰か

 しかし、現実には、日本政府が米国とともに、ことあるごとに中国を「悪の帝国」であるかのように宣伝し、国民を洗脳して、今や、普通の国民が、「中国と戦争することもありうる」というとんでもないことを口にする世の中になってきた。

 この状況を一言で言えば、米国の口車に乗せられて、米国隷従の日本政府が、国民を欺いて米国から離れられない状況に自らを追い込み、その結果、国民を米中戦争に巻き込む準備を進めているということになる。

 MBSの訪日が延期された5月20日、中国大使が日本の有識者十数名と台湾問題についての意見交換の場を設けた。その席上で、中国大使が、「日本が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したが、日本のメディアはその部分だけを取り上げて、センセーショナルに報じた。日本政府も直ちに中国側に厳重に抗議したと林芳正官房長官が明らかにして、国民の反中感情を煽っている。

 実は、筆者は、この会議に有識者の一人として出席していたが、大使の発言を聞いていて特に違和感は抱かなかった。

 どうしてそんなに大きな騒ぎになるのかと思って大使の発言を見返してみると、発言の前に、「長きにわたって台湾に武器を売り込んでいるのは誰なのか。中国の周辺で軍事的なグループを作るのは誰であるか。答えははっきりしている」という発言があった。これは明らかに米国のことを指している。つまり、米国に従って中国分裂に加担すれば、米中戦争に巻き込まれることになるのですよと警鐘を鳴らしていたのだ。筆者がこれまで述べたことと全く同じ話だ。

■マスコミと政府の洗脳工作

 だから、筆者は、大使の発言に違和感を持たなかったのである。

 一部の発言だけを切り取り、いかにも中国が日本に対して攻撃的な姿勢で脅迫しているかのような報道を行い、それを利用して国民の嫌中感情を煽る。

 マスコミと政府が一体となった洗脳工作と言っても良いくらいだ。

 なんと愚かなことか。

 そして、なんと危険なことか。

 私たち国民は、どんなに煽られても、冷静さを保たなければならない。さもなくば、本当に無用な戦争に巻き込まれることになってしまうだろう。

 そのことを肝に銘じておきたい。