円安・物価高で個人消費は未曽有の弱さに(1-3月期GDP)

:強まる円安の弊害

|2024年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 

認証不正問題、能登地震の影響で1-3月期GDPは再びマイナス成長に

内閣府は5月16日に、2024年1-3月期の国内GDP統計・一次速報を公表した。実質GDPは前期比-0.5%、前期比年率-2.0%と2四半期ぶりに減少した。事前予想の前期比年率-1.2%程度を上回る下落幅となった。

実質個人消費は前期比-0.7%、実質設備投資は同-0.8%、実質住宅投資は同-2.5%と国内民間需要は総崩れとなった。実質輸出も同-5.0%と大幅に減少した。

同期のGDPには、ダイハツ工業などの認証不正問題の影響が色濃く表れた。その影響は、需要側の統計では、民間在庫投資、個人消費、設備投資、輸出にそれぞれ影響したとみられる。

また、1月1日に発生した能登半島地震も、個人消費、設備投資を中心に、1-3月期のGDPを押し下げたと考えられる。他方、これらの要因はGDPの押し下げという観点からは一時的要因であり、4-6月期にはその反動からGDPを押し上げると予想される。4-6月期の実質GDPは前期比年率で+1.5%~+2.0%程度と現時点では考えられる。

個人消費の弱さは異例の事態に

1-3月期GDPの弱さは、こうした一時的な要因によるものだけではない。特に注目されるのは、個人消費の弱さである。

実質個人消費は、2024年1-3月期まで4四半期連続の減少となった。これは相当異例なことだ。実質個人消費が4四半期連続で減少したのは、2009年1-3月期以来のこととなる。それ以前は、GDP統計の旧系列を遡っても、1980年以降では生じていない。

 

しかし、この時期は、リーマンショック(グローバル金融危機)という歴史的な経済危機が起こった時だ。今回は、それに匹敵するような経済・金融危機が起きていない中で、実質個人消費が4四半期連続となったのである。その理由は、歴史的な物価高騰の影響以外には考えられないだろう。

 

日本銀行の消費活動指数によると、インバウンド需要の影響を除いた実質消費活動指数(旅行収支調整済)は、今年3月まで低下傾向が続いている(図表1)。さらに景気ウォッチャー調査で、値上げの影響により家計動向関連DIは、現状、先行きともに2か月連続で大きく下落している。

図表1 日本銀行実質消費活動指数

図表2 日本銀行実質消費活動指数(内訳)

家計は夏場にかけて急速な物価上昇に見舞われる

さらに、今年4月から7月にかけて、消費者物価の上昇率は急速に高まる。家計は夏場にかけて急速な物価上昇に見舞われるのである。

 

今年度分の再生可能エネルギー賦課金が前年度から大幅に増加することが決定され、また、政府は電気・ガス料金の補助金を、6月で終了させることを決めた(コラム「政府の電気・ガス支援策は5月までで終了へ:ガソリン補助金は延長と対応が分かれる」、2024年3月28日)。

 

再生可能エネルギー賦課金の増額は、5月の消費者物価を前月比で0.25%程度押し上げるとみられる。また、電気・ガス料金の補助金が2段階で終了することで、6月、7月の消費者物価はそれぞれ前月比で0.25%程度ずつ押し上げられる。3か月連続で物価は大幅に上昇するのである。

電気料金については家庭向けで1キロワット時あたり3.5円、都市ガスは1立方メートルあたり15円を補助している。電気・都市ガス料金への補助金が終了すれば、2人以上世帯では、電気料金の支払いは年間17,696円(月間1,475円)、都市ガスは年間5,461円(月間455円)増加する計算だ。また、補助金終了による経済への影響を考えると、個人消費は1年間の累積効果で0.25%、GDPは0.09%それぞれ押し下げられると試算される(内閣府、短期日本経済計量モデル・2022年版に基づく)。

こうした物価上昇は、春闘での賃金が予想以上に上振れたことによる消費活動への好影響を、相殺してしまう可能性もあるだろう。

個人消費が5期連続減少という未曽有の悪化となる可能性も

さらに、足もとでは円安進行と原油高による物価高懸念も、個人消費の重石となるだろう。他方、1月以降円安が進み、さらに原油価格が上昇したことも、先行きの物価上昇懸念を高める要因となっている。筆者は2024年の物価見通しの前提として、ドル円レートの1ドル145円、WTIの1バレル75ドルを前提に、2024年度のコアCPIの見通しを+2.6%としている。

しかし足元のドル円レートの154円、WTIの82ドルへとその前提を修正すると、2024年度のコアCPIは+2.9%と0.3%ポイント上方修正され、追加で個人消費の逆風となる計算だ。

2021年以降の世界的な物価高騰のもとでも日本銀行は異例の緩和を維持した。その結果、円安が急速に進んだが、このような日本銀行の緩和姿勢と円安進行を受けて、個人の間には、中長期的な物価上昇懸念が沁みついてしまったのではないか。日本銀行が3月にマイナス金利政策を解除した後も、円安の流れが続いていることもあり、個人の物価上昇懸念は解消されていないだろう。

以上の点を考慮すると、当初は春闘での高い賃上げによって上振れると考えられていた4-6月期の実質個人消費も、一転して5期連続悪化という未曽有の悪化となる可能性も出てきたのではないか。少なくとも、認証不正問題による自動車減産の影響を除けば、4-6月期の実質個人消費が前期比で減少する可能性は比較的高いだろう。

日本経済の先行きを左右する為替と米国経済動向

政策面での対応で、個人消費の安定回復を助けることができるとすれば、それは個人の物価高懸念を煽る円安進行に歯止めをかけることだろう。既に為替介入を実施していると考えられる政府と日本銀行とが、為替の安定回復に向けて強く連携する姿勢を見せることが、実際に円安に歯止めをかけ、歴史的な弱さを見せる個人消費の回復の第一歩となることが期待されるところだ。

他方、米国経済・物価の下振れ傾向がより鮮明となり、米国での金融緩和期待が強まれば、円安の流れに歯止めがかかり、物価高懸念が緩和されることで国内個人消費の安定回復を助けるだろう。

しかし、米国経済が顕著に悪化してしまう場合には、輸出環境の悪化によって、日本経済は年後半に失速するリスクが生じる。国内個人消費の回復を助ける円安修正を生じさせる一方、日本の輸出環境を損なわない程度の適度な景気減速が米国で今後生じるかどうかは、不確実だろう。実際にはそれはナローパスではないか。