【Bunnmei blog】

 

下添付記事の主旨は、トランプ人気は「行き過ぎたリベラリズムへの保守反動」であるというとらえ方です。つまり、移民の流入、LGBTやフェミニズム、そして中絶の権利などの拡大への反動が生じたものであると。民主主義や自由の行き過ぎがあり、国民のかなりの部分がこれらの問題で保守主義であり、強い規制をもって対応すべきであると考えるようになってきた・・・と言うことです。

 

■イデオロギーの左右対立ではなく、上下の階級闘争こそ閉塞社会の打開の道

 

確かに、このような捉え方も外れているのではありません。しかし、より根底には「左右対立」というよりは「上下対立」が社会の根底に岩盤のように広がりつつあることを示していると考えるべきだと思います。つまり、新自由主義=グローバリズム(二百年の伝統を持つ資本主義の現代的進化形態)により、雇用の喪失や劣化、治安の悪化、生活の困窮化が発生し、他方ではウオール街の金融富豪や成功者が多くの富を独占するようになってきました。米国における「中間階級の没落」といわれました。このような経過を経て、その貧者や没落の危機にある中間階層の怒りが移民や貿易自由化にぶつけられるようになったということです。とうぜんこれは感情論であり、真の貧富の差の解決ではありません。しかし、トランプらのポピュリストが大いにこの社会の「裂け目」を活用して権力の座にたどり着こうと策動しているのです。

 

■格差と言う社会分断がトランプに利用されている

 

このように、トランプ派の運動の成長の原動力は何といっても現実の深刻な格差社会なのです。

 

米国は現在では、インフレがようやく沈静化しつつ予想されたリセッションにも陥っていません。米国は少なくともマクロ経済的には「優等生ぶり」を示してきたと言うことです。バイデンはその実績をひっさげてそのまま大統領選の年を迎えたので当然優位か、と思いきやトランプに対して劣勢に回っているのです。ここには見逃せない問題があります。

 

つまりトランプ旋風は、こうした米国経済の表向きの好調さに隠された社会の疲弊です。世界金融危機の後には再びウオール街の躍進が鮮明となり、底辺では雇用がギグワーカーに代表される不安定化が進みました。一般大衆は、コロナ下で推進されたバイデン政権の拡大財政措置(インフレ抑制法など)で一定の恩恵を受けつつも、その後のインフレの爆発と相まって、「実質世帯収入household income」が日本と同様に下降し続けています。これは、インフレによる大衆的追加収奪が発生し労働者あるいは農民や中小企業は貧困化し、ゆえに、企業や資産家たちには大いに潤ったのでした。踏みつけられつつも、その怒りを集団的に具現化する党派にも出会えないとすれば、彼らはトランプの乱暴ででたらめなアジテーションに飛びついたというわけです。

 

トランプは個人的には富裕者にもかかわらず、前回大統領選よりも一層「苦境の労働者の見方」「落ちぶれた社会の変革」「米国を再び偉大に」「ワシントンのエリートを叩き潰す」等を叫ぶ時代的状況が醸成され彼に有利な展開になってきたと言えるのです。トランプやMAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)運動は人々の苦悩と分断を活用して時流に乗り、権力の座を目指しているのです。そのために「没落する白人」のみならず激戦州では、移民や黒人有権者層からも20%以上トランプは支持を得そうなのです。これは、言うまでもなく危険なことです。貧困者の真の闘いの道とは言えません。

こうして従来の「白人労働者零落層」ばかりではなく人種の区別を超えた没落しつつある大衆の不安と憎悪を既成の民主党的支配層にぶつけることにトランプは一定成功しているようです。(了)

 

 

トランプ氏はなぜこんなに支持されるのか

 これまでの共和保守と何が違うのか アメリカ大統領選まで半年

:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

 

<米保守の潮流>

 11月5日の米大統領選まで半年を切った。民主党のバイデン大統領(81)と共和党のトランプ前大統領(77)による異例の再対決は、接戦が予想される。一度敗れたトランプ氏はなぜ返り咲きを狙うまで保守層の支持を集め、保守政治をどこに導こうとしているのか。南山大外国語学部の森山貴仁准教授と考えた。

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バイデン大統領(左)とトランプ前大統領

バイデン大統領(左)とトランプ前大統領

◆レーガン氏勝利が歴史的転換期

 【森山貴仁准教授寄稿】 1960年代の米国では社会運動が盛り上がり、人種や性差別の是正が進んだ。だが、こうしたリベラルな潮流に反発した宗教右派や、旧来の家族や共同体の形を求める伝統主義者らは保守の政治家を求めるようになった。

 80年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン氏が勝利すると、米国政治は転換期を迎える。リベラルに対抗するレーガン政権は「小さな政府」を訴えて福祉政策を縮小。富裕層を優遇する大型減税を実施して経済格差を広げた。その一方で「強いアメリカ」を目指し、旧ソ連など敵対勢力には強硬姿勢を強め、軍事予算を大幅に増やした。

東京サミットで来日したレーガン米大統領(左)と中曽根康弘首相=1986年5月、東京・赤坂の迎賓館で(いずれも肩書きは当時)

東京サミットで来日したレーガン米大統領(左)と中曽根康弘首相=1986年5月、東京・赤坂の迎賓館で(いずれも肩書きは当時)

 その後の共和党政権もこれらの施策を受け継ぎ、保守色の強い「レーガンの時代」を築いた。90年代に入り、民主党のビル・クリントン大統領もまた福祉国家の見直しを行い、政党を問わず保守優位の時代が続いた。

◆共通項は「アウトサイダー」

 では、ドナルド・トランプ前大統領は「レーガンの時代」の保守といえるのか。

 たしかに2人には共通点が多い。トランプ氏が繰り返し口にする「アメリカを再び偉大に」(Make America Great Again=MAGA)は、もともとレーガン氏のスローガンだった。またトランプ氏はレーガン氏と同様、大型減税を実施し、人工妊娠中絶や同性婚に反対する宗教右派から支持を得ている。

 俳優出身で、初めて保守の大統領となったレーガン氏も、政治経験がほとんどない富豪だったトランプ氏も、既存の政治に挑戦するアウトサイダーという点で共通する。

2020年1月、オハイオ州での集会で演説するトランプ氏

2020年1月、オハイオ州での集会で演説するトランプ氏

 しかしトランプ氏が進めようとする政策は、レーガン時代の保守主義の政策とは明らかに異質である。

◆違いは権威主義への寛容さ

 最も異なるのは外交政策だろう。冷戦期にレーガン氏が旧ソ連との対決を鮮明にしたのに対して、トランプ氏は在任中、アフガニスタンからの米軍撤退を決定し、今ではロシアに侵攻されたウクライナの支援にも消極的だ。

 国際社会に背を向ける米国の内向きな姿勢は、民主党のバラク・オバマ政権から見られたが、それに加えて重要なのは、トランプ氏と、MAGA派といわれる支持者たちが権威主義を決していとわないことだ。

 彼らは、ロシアのプーチン大統領に対する親近感を隠そうとしない。ウクライナへの支援よりも、米国内の移民対策に予算を使うべきだ、という論調はレーガン期では考えられなかっただろう。

◆反リベラルの波が向かう先は

 トランプ氏とMAGA派の権威主義的な傾向は、国内の反民主主義的な勢力への対応にも表れている。

 白人至上主義を容認する姿勢は、2020年大統領選の結果に不満を募らせたトランプ氏支持者らによる連邦議会襲撃事件に見られるように、民主主義を揺さぶる暴力まで招いた。クー・クラックス・クラン(KKK)などの極右と距離を置いたレーガン時代の保守と比べると、隔世の感がある。

 とはいえ、こうした反リベラル、反移民・反グローバルや権威主義への寛容な風潮は、トランプ氏が政治の表舞台に出てくる以前にも存在していた。トランプ氏はこの波に乗って大統領になった人物であり、潮流そのものを起こしたわけではない。

 

森山貴仁准教授

 言いかえれば、いつかトランプ氏が政治から退場する日が来ても、米国から権威主義や反民主主義の動きが消滅するとは限らないのである。今後、トランプ氏以上の強硬派が出現することすらあり得る。

 トランプ派は、そして共和党はこれからどこへ向かうのか。そして米国の民主主義はどうなるのか、大統領選を超えて注視する必要がある。