日本の軍拡は単純な「対米従属」ではない

 日本資本主義の内在的要因を見逃すな! 

【ワーカーズ五月一日号】


 


■米国の世界戦略を補完する「自衛隊」

 今回の四月の日米共同声明では、5月末の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で「突っ込んだ議論」を行うことで一致しましたが、今後自衛隊がますます米国の軍事戦略と一体化していくのは間違いないところです。こうして、政府と自衛隊は完全に「専守防衛」を投げ捨て、米国のグローバーパートナーとして、具体的には対中国(対ロシア)軍事包囲網の形成のために、世界的規模で米軍を補完しつつ米軍の指揮の中に組み込まれることになります。防衛費のGDP比2%への増額や敵基地攻撃能力の保有、防衛装備移転三原則と運用指針の改定などを米国は当然「歓迎」しました。「岸田は自衛隊を米国に差し出したも同然なのだ」と『日刊ゲンダイ』が憂慮するのは当然です。
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 ただし、これが『日刊ゲンダイ』の記事のような単純な「対米従属」か、といえばそうではないのです。この点が大変重要です。日本の軍拡勢力、すなわち、政府、自民党国防族、防衛省、自衛隊、経団連そして極右反動派などが米国軍隊との深い同盟関係を利用して、アジアそして世界の軍事大国として台頭する意志を示したのです。そのように理解すべきです。

■米国の戦略転換に積極参加する日本の軍拡勢力

 例えば中国やロシアは反米や非米国家として米国勢力圏に与することなく軍事力を増強しています。ゆえに、米国からの激しい圧力を受けています。それに対して日本は、「米国と共に」そして米国の相対的な国力低下の中で、その足らざる点を補う形で軍事力の増強とその世界展開を目指しているのです。ある意味では極めて狡猾な策略だと言えます。つまり、政府、財界、自衛隊にとっての目論見は、このような道筋を経つつアジア及び世界の軍事大国として復活を遂げることなのです。日本の軍拡勢力は米国を国際パートナーとして中国あるいはロシアと対峙することを選択したのです。
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 次に米国側の思惑に沿ってみてみましょう。米国の戦略家たちは中東など他の地域に対する介入を減らし、中国けん制に力を集中させるとともに、同盟国により多くの役割と費用を負わせる戦略を構想してきました。米国を中心とした従来の二国間同盟(米日とか米韓同盟)から一歩踏み出そうということです。米国の近年採用しようとしているのがミニラテラル同盟構造なのです。米国と日本、インド、オーストラリアなどの主要同盟国が中心となり、複数の小規模な「多国間同盟」を組み合わせたネットワーク型安全保障体制を指します。
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 例えばQUAD: 米国、日本、インド、オーストラリアによる四カ国安全保障協力枠組み、AUKUS: 米国、英国、オーストラリアによる潜水艦技術協力枠組み、さらに米国、日本、インドによる三カ国安全保障協力・・等々に体現されているとされます。インドはもちろん日本にしても必ずしも米国の思惑通りになるか定かではありません。ところがこのような新たな構造において、米国は軍隊や財政の負担を軽減しつつも、米国の主導権と国益を貫くとことができると皮算用にふけっています。

■日本軍国主義の秘められた衝動

 日本は、このような米国の世界戦略の変化に積極的に乗ってゆこうとし、とくに安倍政権以来かなり強引なペースで軍拡と米国との「同盟強化」と「多国間同盟」の拡大を図ってきました。その背景にあるのは、日本資本主義の対外投資が「純資産」としては世界一位であり、守るべき権益があらゆる大陸に及んでいるという現実です。日本は一時代昔には「貿易立国」と言われてきましたが、現在では――もちろん貿易は依然として重要ですが――資本の海外投資が飛躍的に進んだのです。(参照「世界が恐れる「日本化」という病~その裏側に見える新たな世界搾取システムを読み解く」2023/1/1「 ワーカーズ 」)
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 ゆえに米国が「世界の警察官」としての立場をもはや維持できないのであれば、その空隙を日本が軍事力を飛躍的に高めて埋めてゆくということです。民衆にとってはリスク増・負担増にしか過ぎなくとも、日本国家の支配層にとって軍事力プレゼンスの国際化はある種の必然性・必要性が存在するのです。裏返して言えば、日本単独では不可能な日本の持つ世界的権益の保護を、「米国との世界的同盟」で実現しようとしていると考えられます。日本の軍拡の動機は、米国からの「強要」ではなく日本資本主義の内部にこそ存在するのです。
 民族主義的な反発でしかない「反米」や「対米従属論」では反戦・反軍拡をこの日本では戦えないことを理解する必要があります。(阿部文明)