日米安保条約に一言も触れない日本共産党の「平和提言」

 - アリの一言  (goo.ne.jp)

  

 

 日本共産党はここまで堕ちたのか―そう痛感させるのが、同党が17日、志位和夫議長の講演という形で発表した「東アジアの平和構築への提言-ASEANと協力して」(以下「提言」)です。

 

 「提言」は「しんぶん赤旗」で全段2ページ半におよぶ長文。「3つの提言」として東アジア、北東アジア、ガザ・ウクライナの「平和構築」について述べています。

 

 東アジアについては、ASEAN10カ国に日本、中国、アメリカ、ロシアなど8カ国を加えた東アジアサミットで「ASEANインド太平洋構想」を実現するために、「話し合い」を行うことを柱としています。その実現性はともかく、「平和構想」を示すこと自体は意味のあることです。

 

 しかし、その内容にはけっして見過ごすことができない重大な問題があります。

 

 第1に、「ウクライナ戦争」についてです。

 

 「提言」は「責任が…無法な侵略を続けるロシアにあることはいうまでもありません」として「ロシア軍の即時・全面撤退」を求めています。そして欧州安全保障協力機構(OSCE)の再活性化を主張しています。この限りではおおむね異論はありません。

 

 ところが「提言」は、当然言及(問題視)すべきことがいくつもスルーされています。

 

 第1に、今回の事態と密接に関係している、アメリカが深く関与した「マイダンクーデター(革命)」(2014年)。第2に、NATO(北大西洋条約機構)の東方進出とウクライナへの関与。そして第3に、アメリカを中心とするNATO諸国のウクライナへの軍事支援です。

 

 これらの問題を不問にしては、ウクライナ情勢を正確に認識することも、停戦・和平への動きをつくることもできません。

 

 第2の問題は、これが「提言」の決定的な欠陥であり最大の特徴ですが、日米安保条約(軍事同盟)について一言も触れていないことです。「提言」は前述のようにかなりの分量ですが、「日米安保条約」の言葉は文字通り一つもありません。

 

 これはきわめて奇異なことです。東アジア、北東アジアの「平和構築」を主張し、そのための「国民的・市民的運動を呼びかける」としながら、日米軍事同盟に全く言及しないことなどあり得ません。まして、先の日米首脳会談、日米比首脳会談(フィリピンはもちろんASEANのメンバー)で、日米両政府が「安保条約体制がかつてなく強まった」と誇示したばかりです。

 

 共産党は公式には「日米安保条約廃棄」の政策を下ろしていないはずです。にもかかわらず、「廃棄」どころかその危険性にすら言及しないのはいったいどういうことでしょうか。同党の本音(実態)はすでに「日米安保条約廃棄」の棚上げであると考えざるをえません。

 

 日米安保条約に一言も触れないことと表裏一体なのが、アメリカ批判の乏しさです。

 「提言」にはアメリカの覇権主義・アジア戦略批判がほとんどありません。唯一あるとすれば、「米韓が大規模軍事演習を続けていることが、軍事的緊張の悪循環を加速させている」というくらいです。

 

 日本共産党がこうした実態に至っていることは、たんに同党の質的凋落(かつて共産党が社会党などを批判する時に使った用語でいえば「右転落」)を示すのみならず、日本の政党で違憲の自衛隊解散、日米安保条約廃棄を主張する政党が1つもなくなったことを意味します。

 それは日本にとっても世界にとっても、たいへん不幸なことです。