少子化は資本主義が生み出した新たな危機である

   「テーラーメイド社会」の打破へ
【Bunnmei ブログ】




 少子化がいわれるようになって数十年が経ちます。間違いなく言えることは「子どもを産めない、生まない社会」は正常ではないということです。総務省の人口推計によると、2100年には日本の総人口は半分の約6,000万人、2200年には3000万人と、百年単位で半減すると推計されています。下添付記事によれば、世界人口が6年後にピークを付けるとともに減少に転ずる研究が『ランセット』に掲載されました。今こそ問題をしっかりと掘り下げてみるべきでしょう。

■「少子化」は世界のメガトレンド

 日本の少子化は深刻です(合計特殊出生率1.30)が、韓国も同様に深刻な状況です。2022年の韓国の合計特殊出生率は0.81で、OECD加盟国の中で最低です。ところが欧米諸国も例外ではなく、多くの国で出生率が低下しています。2020年のOECD加盟国の平均出生率は1.59で、人口置換水準(2.1)を下回っています。

 人口置換水準は、女性一人あたりの平均出生数が2.1であるとき、人口が一定に維持される水準を指します。つまり、一対の両親が自分たちの代わりにちょうど二人の子供を産むということです。

 もし出生率が人口置換水準(2.1)を下回ると、その社会の人口は減少していく傾向にあります。これは、死亡率に追いつかない出生率の低下によるもので、移民を除いた場合に再生産が死亡率をカバーしないことを示しています。

 したがって、人口置換水準を下回る出生率が持続されると、結果的に人口減少が発生し、その社会は人口を維持できなくなります。
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 2月29日の世界銀行の資料によると、妊娠可能年齢の女性(15~49歳)1人が産むと予想される平均出生数である合計特殊出生率の世界平均は、1968年に5を記録してから、56年間にわたり下り坂を歩んでいます。1969年に4台に突入した後、1977年(3.8)に3人台、1994年(2.9)に2人台に下がりました。最新の統計である2021年時点では2.3まで落ちており、1960年代と比較すると半分のレベルです。フィナンシャル・タイムズは「ほとんどの先進国は、1世代の人口が次世代ですべて交替させられる出生率である2.1に当面は達しえない」としたうえで、「開発途上国まで下方軌道に進入している」と指摘しています。『ランセット』に2030年には世界の平均合計特殊出産率が人口置換水準の2.1人以下に下がるという見通しが出ました。これは資本主義生産様式が西欧から東洋へそして今ではグローバルサウスに至るまで拡大した結果とみることができます。

■「少子化対策」は問題の本質をとらえていない

 政府の「異次元の少子化対策」の内容がしょぼいのは事実です。子供は金がかかります。「子ども・子育て支援金制度」に基づく給付がどうでもよいと言うつもりはありません。しかし、それと合わせて義務教育の無償化、高校教育無償化、欧州のように大学教育無償化なども推進すべきでしょう。
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 しかし何よりも「少子化対策」にとって大切なことは、女性や母性が尊重され、それが基盤となって創る社会であるということがより根本的な課題であることを指摘したいと思います。現代の社会システムはそうなっていないということです。

 近代における女性の社会進出は、多くの女性が労働力として被雇用者となることによって拡大してきました。ところがすでに見てきたように、このような社会進出に逆比例する形で少子化が深刻化してきたのです。と言うのは、女性が現代社会で企業等への進出を果たしそして地位を確保したり、出世して高いポストに就くことはまさに母性や女性の抑圧として作用すると思われるからです。企業社会で男性と肩を並べて働くには出産や育児の負担の少ない男性に対して女性は明らかに「不利」な存在として現れるでしょう。
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 上野千鶴子さんが、講演で語っていましたが「現代社はテーラーメイド(紳士服仕立て)」であると。つまり、女性が社会進出を果たし出世に突き進みキャリアを積むことは「紳士服を着て、男性のように働く」ことを意味するのです。現代社会が、とりわけ日本や韓国社会は伝統的保守主義が残るという面もあり、そこでの社会進出は女性としてではなく男性として働くことを意味しているということです。これでは少子化は資本主義の宿痾として容易に解消できないでしょう。

■高額所得層も少子化は進む

 少子化が深刻化する現代において、高額所得者の出生率の変化は、日本だけでなく世界各国で注目されています。高額所得者は低所得者よりも出生率が高いのが知られています。子供を産める、育てられるという経済的優位性が見て取れます。ところが高額所得者層の出生率は全体的な出生率の低下傾向と程度の差はあれ同様の傾向にあります。
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 日本における所得別の出生率を見てみましょう。

2017年の調査では、年収1200万円以上の夫婦の平均出生率は2.05人、年収700万円~1200万円の夫婦は1.88人、年収500万円~700万円の夫婦は1.74人、年収300万円~500万円の夫婦は1.63人、年収300万円以下の夫婦は1.48人でした。世界各国でも、高額所得者層の出生率は、全体的な出生率よりも高い傾向があります。しかしながらやはり出生率は減少しています。ここで分かることは「高収入」だけでは少子化のスピードを減速させても止められないことが示されています。

■ジェンダー差別を深くとらえる

 「ジェンダー差別」と言うと、同じ仕事をしているにもかかわらず男性と女性で賃金が異なる場合があること。また、女性がより低賃金の職種に集中する傾向があることなどが挙げられます。 女性はSTEM分野(科学・技術・工学・数学)など男性が優位な分野に進むことが難しい状況や、管理職やリーダーシップポジションに女性が十分にアクセスできない状況があることなどが指摘されます。

 賃金を男女対等にする、会社役員の女性を増やす、といった「指標の改善」は当然の差別の是正です。しかし、それだけでは問題の真の解決にはなりません。女性のままで適合する社会になること、あるいは女性や母性が主体的に形成する社会であること、すなわちジェンダーフリー社会を展望することが無ければ、少子化問題への対応にはならないと思っています。「テーラーメイド(紳士服仕立て)」の社会構造の破壊こそ不可欠な条件だと思われます。このような核心部分の変革なしに「女性活躍」「女性の社会進出」を推し進めることが今の社会では母性の抑圧となり、その一つの結果が「少子化」なのです。
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 日本や韓国のように、後発資本主義から一気に資本主義化した国ではより一層少子化が深刻です。欧米先進諸国のように形の上でジェンダー平等が浸透している国では少子化の深刻度はややましです。しかしながらいずれにしても「子どもを産まない、産めない」社会環境を資本主義が日々拡大再生産しているということは見逃されてはなりません。

 現在の男性社会に代わる女性や母性を大切にする社会、いや女性や母性に基づいて社会を造り直すことこそ求められています。現在の社会は男性中心社会という擬態を持っていますが、その本質は資本・企業のもとでの個人間競争であり階級社会です。したがって「男性優位」は資本主義が生み出した物象(ぶっしょう)なのです。ゆえに男性大多数にとっても不快で住み心地の悪い社会にならざるを得ません。根本的社会変革が必要です。(了)

 

 

2030年、世界人口の転換点が訪れる

 : 文化 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

・・現在、世界平均合計特殊出生率は人口置換水準を少し上回るレベルだ。しかし、各国の出生率が予想より速く低下しており、2030年には世界の平均合計特殊出産率が人口置換水準の2.1人以下に下がるという見通しが出た。これは、20世紀以降、急激に増加してきた世界人口の流れが変わる転換点が、わずか6年後に迫っていることを意味する。

 

 米国ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)は1950~2021年、世界204カ国の人口統計資料を分析した結果、2021年基準で2.23人である世界の平均合計特殊出生率が、2030年から人口維持水準(2.1人)を下回り始め、2050年1.83人、2100年1.59人まで低下すると予測されたと、医学分野の国際学術誌「ランセット」に発表した。