実質賃金の長期低下の日本 日銀「金融引き締め」転換は労働者と弱者の切り捨てだ
【Bunnmei ブログ】

 低金利政策とその進化系である異次元のマイナス金利政策(アベノミクス)をもてはやしてきた財界人や経済学者、エコノミストも、今ではその弊害や不合理性をあげつらっています。もちろんアベノミクス=黒田日銀の罪は大きく、日本の労働者の低賃金を運命づけてきました。

 そこで打ち出されたのが「脱マイナス金利」「有利子転換」。3月の利上げは17年ぶりのことです。

■誰のための金融政策「転換」なのか?

 政府日銀と経団連などは「世界金融危機(2008年)以降の超低金利時代にゾンビ企業が増大した」として今更ながら「新陳代謝が遅れ、潜在成長率がゼロに低落した」と嘆いています。今こそ金利を上げてゾンビ企業の整理淘汰を断行して「強い経済へモード転換」を目指すとしています(日本経済新聞)。

 つまり大資本は散々低金利の恩恵をうけ、少なくとも輸出業では最高益をあげ、またこの2年間のインフレ便乗値上げで儲けてきたのです。弊害が現れ超低金利策の継続性が危ぶまれると一転して弱い企業の淘汰政策を採用しようというのです。あまりに身勝手であり政策の混乱ぶりだと言わねばなりません。政策金利は今回0.1%上がっただけですが、政府日銀そして経団連などは今後本格的に「利上げ」を推し進めるものと予想されます。

■これまでの超低金利政策(アベノミクス)は、労働力の安売りだ

 1999年に始まる政府日銀の超低金利政策は円安誘導政策です。この政策は輸出企業に一定の優位性を与えましたが、円安政策はその実、労働力のダンピング(安売り)なのです。日本の労働力を国際的には安くさせ、労働者の犠牲の下で日本製品の輸出の優位性を作り上げたのです。ゆえに、国際的にみて日本の労働者の賃金は見る間に低下しました。ところがその結果として国内の消費需要がしだいに低迷し、国内産業も長期にはマイナスの影響をもたらしたのでした。ゼロ~マイナス金利で儲けてきた資本家は、今ではその副作用や弊害に気づいたと言うわけです。
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 労働者に犠牲をもたらす金融緩和政策を今回日銀が中止するというのですから、労働者が歓迎すべきかと言えばそうではないのです。上記のように超低金利政策が労働者の低賃金政策であるとすれば、今回の日銀の転換は別の形での労働者あるいは零細・中小企業への犠牲の転嫁なのです。その点をもっとマスコミは告発すべきなのです。

 3月に政府と日銀が「金融引き締め政策」に転換したのが、なんと日本経済がマイナス成長含みで、さらに労働者の実質賃金が約2年間にわたり連続減少のさなかなのです。この政策転換の意図は極めて階級的で身勝手なものです。「引き締め転換」による中小企業への貸し渋り貸しはがしが強まる可能性があります。政府や大企業経済界は「ゾンビ企業の淘汰」を目標にしているからです。

 しかし、今後の「高金利」政策が「強い経済への転換」を大企業に保証するものでは全然ありません。

■金融緩和政策「解除」の政策矛盾

 日銀による「利上げ」の具体的内容は、マイナス金利政策を解除し、短期金利の操作を主な政策手段としました。これにより、日銀当座預金(法定外準備金)に適用する金利をプラス0.1%とし、金融機関どうしが短期市場で資金をやり取りする際の金利「無担保コールレート」を0%から0.1%程度で推移するよう促すとしています。イールドカーブコントロール(YCC)も廃止しました。低く強引に押さえつけていた金利は「上がる」と考えられますが、現在のインフレが2~3%であることを考慮すれば、実質的な金利は当面はマイナスとなり変化は乏しいと思われます。
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 一方で、国債の買い入れは継続すると発表されました。日本政府は財政の穴埋めとしてこれまでに莫大な国債発行を実施してきました。一千兆円を超える債務が積みあがっています。そしてそれを「市場消化」する事が困難なので国債発行残高の半分は日銀が買い支えています。

 結局、今回の政策転換は政策金利をほんの少し上げましたがインフレ下でもありそのうえ「国債買い入れは従来通り」というちぐはぐなものになっています。

■軍備拡張と日銀国債買い入れ「継続」の深い関係

 しかし、次のことははっきりしています。

 日銀が今回「国債買い入れ政策」を撤廃せずアベノミクス時代並みの「国債購入月6兆円」を維持しました。これについては今後の財政拡大のためにその手段を残したのだと見るべきでしょう。つまり、日本政府の財政の日銀依存(事実上の日銀引による国債引き受け)が大規模に今後も継続されることを強く示唆しました。
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 その場合に政府や財界の念頭にあるのは、43兆円(後年度負担を含めるとより大規模になる)という軍備拡張プランを決定していることです。増税や負担金増額ばかりでは賄えない予算は結局日銀引き受け=日銀の国債買受が決定的に重要だからです。財界は軍需産業の再興のチャンスであると意気込んでいます。

■補論・そもそも日本の金利が低い理由

 日本の金利が長期的に低くなっているのは日銀の政策によるものとばかりは言えません。日銀はリフレ派の貨幣数量説(市場にお金をばらまけば景気は良くなる)に従ってさらに強引に金利をマイナスまで引き下げました。しかし、日本の高度経済成長期には、実質短期金利4%、実質長期金利5%が普通でした。

 低金利の基本のキを言えば日本国内の資金需要が不活発であるという点にあります。ではなぜ資金需要が乏しいのでしようか。それは、国内の需要の低迷だと言えます、したがって産業の低迷、個人消費の低迷の反映です。だから、日銀の政策転換だけで昔のように実質金利5%まで「金利上げ」を作り出すことは不可能です。しかしながら、すでにふれたように仮に実質金利0.5%まで上昇しただけで、体力のない個人や零細中小企業の倒産は進行するから問題です。
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 また高度成長期以降の金利の低下傾向は利潤率の低下と連動しておりマルクスの指摘した「利潤率の傾向的低落」と言う資本自身の制限と指摘することもできます。
 しかし、だからと言って資本はじっと死を待つつもりはありません。その一つが日本資本の海外投下・キャピタルフライトです。資本を米国や欧州・中国さらにはグローバルサウスに移動することです。ところがその弊害として国内産業の空洞化や円安が進んでいます。果てしのない悪循環が日本でそして世界の先進国で発生しています。

 詳しくは以下を参照ください。「日銀政策になにも期待できない 資本主義の低体温症は死に至る病」(「ワーカーズ・ブログ」2024.1.30)。

 日銀の政策「転換」の意図するものを暴露して闘いましょう。