阿部 治正

 

『日経』連載小説「登山大名」は、主人公の豊後国岡藩の第3代藩主である中川久清が子どもの頃の話が、目下は展開中。

 

久清は、岡藩第二代藩主である中川久盛を父とし、時の将軍の姪である万姫を母としているが、本当の母親は「異人」(ポルトガル人と言われている)の女性だ。その女性は当時の有力大名であった松平忠直の奥に奉公して「安威(あい)の御方さま」と呼ばれ敬われていた。したがって、基本的にはやんちゃ坊主である久清も、日本人とはかけ離れた自身の容貌や、父や臣下から自分の出自について正確な話を聞かされてないことなどから、煩悶の日々をおくっている。

 

小説は前号までのしばらくは、実母である「安威の御方さま」や、久清の臣下であり学問や剣術などで切磋琢磨する友である少年などが、実は禁教扱いとなっているキリシタンなのではないかと思わせる話が続いた。

 

今日の号では、いよいよ少年久清が父と連れ立って豊後国岡藩にお国入りするべく大阪からの船旅に出ることとなる。父は息子に対して、海の向こうには「大陸がある。山や川があり、数多(あまた)の国がある。その先にもまた大海原があり、大陸があり、数多の人々が暮らしている」「見たことはないが……いずこかに、あるにちがいない。だれにも侵略されず、だれにも干渉されぬ国が……」と語るが、久清は初めて目にする大船原に興奮していて、聞き流している。

 

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19後藤 貴之、大嶋一任、他17人