【管理人の一言】

下記添付記事が、株高現象の一面について述べてます。

しかしこれは日本経済あるいは資本主義経済の実態を見るのに十分ではありません。

 

■「史上最高の株高」ではない、名目ではなく実質を見よ

 

史上最高の株高ではありません。まずこの点を見逃しては話の基本がおかしなことになります。と言うのはバブル末期の日本の円は「強く」あるいは「高く」、現在の倍ほどあったということです。「実質実効為替レート」で見れば、今の円は当時の半値です。国際的な多様な通貨に対して半分の購買力しかなくなっています。つまり、本当に史上最高値を主張できるのは、日経平均が7万7,830円を超えなければ何の意味もないのです。

 

つまり、円の国際的購買力から見れば、バブル絶頂期の半分にようやく到達しただけなのです。株式市場関係者もあまり喜べないものです。

 

■国際的な過剰貨幣資本の流入

さらに、これは円安の実態と絡むのですが、日本の「物価は安い」しもちろん株も安いのです。とりわけ中国投資家の日本へのキャピタルフライトが、株高の要因です。(当然、中国経済と株式市場の低迷でもある。)

先進国など世界的に滞留する過剰貨幣資本の存在が「実体経済」とは遊離した株高を演出することは、日本のバブル時代以降世界的にも定着しています。日本ではアベノミクス以降低金利と株価維持政策の徹底によるミニバブル経済が再開され、ゼロ成長下でも株価だけは上昇傾向にあったのです。このような歴史的な金融経済の趨勢も日本にたまたま作用したことも指摘できます。

 

しかし、肝心なことは「史上最高の株高」が、日本経済の実力の回復やいわんや庶民の所得の改善とは全く切り離されたものでしかないということです。(了)

 

 

 

日経平均終値史上最高値更新を主導した3つの要因

『物価高・金融緩和・円安』の循環に逆回転のリスクも

|2024年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 

生活実感と乖離した「水膨れの株高」

2月22日に、日経平均株価は1989年12月29日の終値3万8,915円87銭と史上最高値を取引時間内に一時上回った。

しかし個人にとっては、バブル期と同じ株価水準と言っても、その実感はない。足もとの経済状況は悪化している。2023年10-12月期の実質GDPは、前期比年率-0.4%と2四半期連続で減少した。特に物価高の逆風に晒されている個人消費は弱い。こうした経済状況とバブル期の最高値を上回った株価の動きとの間には、大きなズレがある。個人にとっては、まさに「実感なき株高」である。

重要なのは、足もとの株価上昇は、日本経済や企業の成長力向上、生活水準の向上をもたらす労働生産性上昇、国際競争力向上といった、「実質値」の改善を背景にしているようには見えない、という点だ。むしろ株高を支えているのは、物価高という「名目値」によるものであり、いわば「水膨れの株高」とも言えるのではないか。さらに、物価高下でも続く異例の金融緩和も、実質金利(名目金利-期待インフレ率)の低下と円安の双方を通じて株高を強く後押ししている。株高は、水膨れとともに金融現象による金融相場の様相である。

実質賃金の低下と企業収益拡大(株高の第1の構図)

足もとの株高は、「物価高」、「金融緩和」、「円安」の3要因間の循環、相乗効果によって成り立っている。それぞれについて、より詳細に見てみよう。

2022年以降、コアCPI(消費者物価、除く生鮮食品)の前年比上昇率は、第2次オイルショック直後の1980年代初頭以来、ほぼ40年ぶりの水準で推移してきた。食料品やエネルギーの上昇、円安による輸入インフレの色彩が強かったが、企業が輸入原材料価格の高騰分を製品価格に転嫁する中で、消費者物価上昇率も高まっていった。

他方、賃金上昇率は物価上昇率に追い付かない。日本では、物価が下落しても企業はベア(基本給)を引き下げることが難しいことから、一時的に物価上昇率が高まる際には、ベアの引き上げ率を物価上昇率以下に抑えることで、中長期的に物価上昇率と賃金上昇率のバランスを取る傾向が強い。その結果、実質賃金が下がり続けているのが現状だ。

実質賃金が低下することは、個人の生活水準が悪化を続けることを意味する。実質賃金の低下によって所得の分配は企業に偏り、企業の収益は拡大する。その結果、個人の生活実感は悪化する一方で株価は大幅高となり、両者の間でギャップが広がることになる。これが現在の「株高の第1の構図」だ。

物価高騰下での金融緩和(株高の第2の構図)

他方、歴史的な物価上昇の下でも、日本銀行は異例の金融緩和を維持してきた。その結果、企業、家計、金融市場の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は上振れた。日本銀行は、中長期のインフレ期待を安定させるという中央銀行の役割を放棄し、ビハインド・ザ・カーブの状態に陥っている。その結果、実質金利(名目金利-インフレ期待)は顕著に低下したとみられる。

実質金利の低下は、通常は景気を刺激するが、その影響は明確に見られていない。2四半期連続での実質GDPマイナス成長にも表れているように、足もとの経済は低迷している。他方で実質金利の低下は、資産価格の押し上げには効果を発揮しているように見える。これが「株高の第2の構図」だ。それは、不動産価格の押し上げにも一定程度寄与しているだろう。

実質金利低下による金融緩和の強化が物価上昇期待を高め、それが実質金利のさらなる低下をもたらして資産価格の上昇を後押しする、といった循環メカニズムが生じている。

円安進行(株高の第3の構図)

さらに、実質金利の低下は、円安の流れを後押しする。円安は輸出企業の収益を拡大させることで株価を押し上げる。また、円安によって海外投資家にとって日本株が割安となり、それが日本株への投資を促すことでも株高要因となる。これが「株高の第3の構図」である。

 

以下略

物価高期待は低下へ

このように、「物価高」、「金融緩和」、「円安」は、互いに影響を与えながら、株価を強くけん引してきた。しかし、株高を支えるこれら3つの要因は、持続的なものではない。

コアCPIの上昇率は過去1年間、低下傾向を辿っており、今年の後半には1%台が定着するだろう。そして、日本銀行が指摘する、賃金上昇がサービス価格に転嫁されることで、より持続的な物価上昇が生じるとの見方も後退していくだろう。そうなれば、中長期のインフレ期待が低下して実質金利は上昇する。それは、円安の修正を伴う形で、金融緩和の株高効果を減少させるだろう。

 

「物価高」、「金融緩和」、「円安」の循環は、今まで強力に日本株を押し上げてきたが、それがひとたび逆回転を始めれば、日本株の強い逆風となるだろう。その転換点を正確に予測するのは難しいが、日本銀行が今年3月あるいは4月にもマイナス金利政策を解除するのであれば、その転換点はそれほど先のことではないと言えるのではないか。

図表 株高を支える3要素の相乗効果

 

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