[朴露子の韓国、内と外]

南北、「同族」ではないとしても敵になる必要はない

 : 社説・コラム : hankyoreh japan (hani.co.kr)

 

北朝鮮が韓国と完全に道を違えても良いと決心した背景には、そうしても孤立しないという計算もあっただろう。北朝鮮は中国・ロシア・イランなどとの関係の中で必要な資本、投資、技術、そして観光客を十分に得ることができると判断したようだ。衝撃的に聞こえる金正恩氏の対南発言は、韓国のいない北朝鮮の未来を提示する長期的戦略だ。

 

金正恩朝鮮労働党総書記兼国務委員長が14日、新型地対艦ミサイル「パダスリ(みさご)6型」の検収射撃試験を指導し、「海上主権」を武力行使で守らなければならないと強調した。15日付の労働新聞が報じた/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 

 この3カ月間、北朝鮮の指導者である金正恩(キム・ジョンウン)氏は、南北関係に関するいくつかの衝撃的な発言をしてきた。すでに昨年末、「南北関係は敵対的な二国間関係」とし、金日成(キム・イルソン)主席と金正日(キム・ジョンイル)総書記の統一路線とは全く異なり、これまで北朝鮮が努めて否定してきた「二つの朝鮮論」を認めた。さらに先月には、北朝鮮の民族史で「対決狂症の中で同族意識が強まった大韓民国の輩とは民族中興の道、統一の道を共に歩むことはできない」とし「『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去しなければならない」と述べた。

 

 これに伴い、対南関連業務を遂行してきた各種機関を整理し、さらに「三千里錦繍江山」「8千万同胞」のように北と南を同族と想定する用語まで公式に廃棄した。北朝鮮政権が最初から「国土統一」を一次的国政課題としてきた事実を思い出してみれば、これは思想こそが生命である北朝鮮社会で一種の「思想革命」にあたる。この北朝鮮の指導者は一体なぜ韓国と永久に「別れる決心」をすることになり、今後自国をどのように切り盛りしていくつもりなのだろうか。

 

 南北間の「永遠の別れ」を発表した背景には、これまでの南北関係史で得た苦い経験、韓国社会の中での思想的変化、そして今後の世界情勢予測まで3つの要因が作用したと思われる。この3つの要因を一つずつ見てみよう。

 

 まず、2000年の金大中(キム・デジュン)大統領と金正日国防委員長の「6・15南北共同宣言」など太陽政策はバラ色の未来を約束したが、その経済的結果物は初期の期待に比べてしがないものだった。韓国の大企業の中で対北朝鮮経済協力に積極的に乗り出したのは現代グループだけだったが、現代グループの金剛山(クムガンサン)観光事業は赤字が続いた。開城(ケソン)工団の場合も、大企業の参加はあまりなかった。開城工団に入居した韓国の中小企業で働く北朝鮮労働者の賃金は1カ月約150ドルだった。これは、北朝鮮のような政治的負担のないバングラデシュやカンボジアよりやや高い額だった。

 

 長期的な「民族共同の経済作り」の見通しよりも当面の短期収益の方が重要視される新自由主義時代、韓国資本の立場からは、リスク負担は大きく収益は制限的な対北朝鮮経済協力はそれほど希望的に見えなかった。「民族」「統一」のような言葉は雄大に聞こえたが、南北関係の硬直が本格化した2010年、すでに北朝鮮の対外貿易で韓国が占める割合は中国の半分水準に過ぎず、両者の格差は拡大し続けていた。新自由主義時代の韓国資本は、持続可能な南北経済協力モデル作りに結局成功しなかった。一方、国家主導の中国資本主義は、北朝鮮を資源および相対的低賃金労働提供国として比較的順調にその影響圏に編入させた。

 

 金正恩氏の「同族意識が強まった大韓民国の輩」はかなり荒っぽい表現だが、実際、北朝鮮の指導者の立場から見ると、韓国の官僚集団や政界に腹が立つのも当然だ。金大中、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の対北朝鮮経済協力政策を李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権が廃棄するなど、韓国では政策の長期的一貫性が確保されていないためだ。その上、2010年代から韓国の強硬保守は次第にニューライト一色になっていった。ニューライトたちの視点では、金正恩氏の祖父である金日成主席の闘争対象だった日本は朝鮮半島に資本主義文明を植え付けた「恩人」であり、市場資本主義と親米路線を拒否してきた北朝鮮は「絶対悪」だ。

 

 ニューライト色が強い現在の韓国政権は、民族英雄ともいえる洪範図(ホン・ボムド)将軍までも共産主義の履歴を挙げてレッテルを貼るくらい、一片の理念的寛容もない。一方、対北朝鮮観が比較的穏健な自由主義の政治家たちも、米中対決が深まる状況では、たいがい米国陣営所属意識が明確になり、行動半径も狭くなる。文在寅(ムン・ジェイン)政権は初期に首脳会談など対北朝鮮関係改善に非常に積極的に乗り出したが、結局、非核化中心の米国イシューに押され実質的な協力をほとんどできずに終わった。

 

 結局、強硬右派がニューライトに変質し自由主義勢力が消極的になり、全体的に保守化した韓国では、特に若年層で北朝鮮や統一に対する認識自体が薄れている。昨年の韓国世論評判研究所の調査によると、20~30代の67%が最も好きな国として米国を挙げ、61%は統一が必ずしも必要ではないと答えた。北朝鮮に対する非好感度は88%に達した。資本家や官僚だけでなく、すでに自分を「第1世界の富裕国の国民」と認識している多くの韓国人にとって、北朝鮮問題はもはや関心の対象ではない。こうした状況を考慮すれば、北朝鮮指導部の「離別通知」(?)は十分理解できるのではないか。

 

 北朝鮮が韓国と完全に道を違えても良いと決心した背景には、そうしても孤立しないという計算もあっただろう。現在、北朝鮮はロシアがウクライナで、そして親イラン勢力が中東で、それぞれ米国ないし親米勢力を相手に成功裏に戦っていると楽観しており、ひいては中国・ロシア・イランなどユーラシア列強と米国など西側間の対立が長期化すると分析しているようだ。この長期対立で、北朝鮮は中国・ロシア・イランなどとの関係の中で必要な資本、投資、技術、そして観光客を十分に得ることができると判断したようだ。そのため、韓国と別れても自国の運営に大きな問題はないとみているようだ。

 

 上で分析したように、衝撃的に聞こえる金正恩氏の対南発言は、これまでの南北関係の流れに対する北朝鮮指導部の総合的評価であり、韓国のいない北朝鮮の未来を提示する長期的戦略だ。しかし、もはや南北が互いに統一を模索する同族でないとしても、あえて敵になる必要は決してない。金正恩氏が述べた「敵対関係」は、一次的に韓米日軍事協力にすべてをかけて対北朝鮮アプローチを事実上放棄した尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の政策を指すものだ。しかし、この政策は結局いつかは修正されざるを得ず、韓国の政権は対北朝鮮関係の正常化に乗り出すしかないだろう。狭い朝鮮半島を生活の基盤としている南と北は、互いの違い、もはや取り返しのつかない異質化を認め、たとえ「永久に別れた」としても、互いに戦わない良い友人として過ごす方法を模索しなければならない。