阿部 治正

 

以下は、ある団体の中で、現在の国際情勢の特徴を短くまとめて説明する必要があって書いた文書です。関心のある方はお読みください。

現在の世界を見る上でまず重要なことは、収束しないウクライナ戦争、勃発したガザ戦争の背景にあるものをしっかりと捉えることにあります。ウクライナ戦争の背景には「冷戦」に勝った米国・NATO諸国と、いったんは敗北したが失地回復を試みはじめたロシアとの間の対立があります。ウクライナ戦争は、一部で言われるような民族解放の戦いなどではなく、ウクライナとロシアという力関係の差はあるがすでに国民国家建設を果たした後の、ブルジョアたちが支配する国家どおしの戦争、ウクライナ・米国・NATO連合とロシアとの間の、欧州における勢力圏をめぐる争いです。またガザ戦争は、西欧帝国主義による長年の中東アラブ地域に対する帝国主義と植民地主義の抑圧の積もり積もった矛盾が、パレスチナ人の反撃として発火したものであり、イスラエルの野蛮な入植植民地主義とそれを支援する米英やNATOに対するパレスチナ人の側からの真正の民族解放闘争です。

 

ウクライナ戦争となって現れた米ロ対立、ガザ戦争として現れたパレスチナとヨーロッパの植民地主義との対立と並んで、いまの世界の勢力関係を大きく揺るがしているのは、米国やNATO諸国などの経済先進諸国と新興のBRICS諸国との矛盾の激化があります。そしてそれと共鳴をしつつさらに大きく世界の分裂に拍車をかけているのが、米中対立です。中国の経済的軍事的台頭は著しく、米国の覇権の後退もそれ以上に明白です。その背景にはITやAIなどの最新の科学技術分野での激しい競争があり、そこにおける米国の劣勢があります。そして現在は、米欧諸国に続いて中国でも過剰生産が表面化し、それに発する世界市場での中国製品の低価格攻勢が、この市場争奪戦にさらに拍車をかけようとしています。

 

第2次大戦後の世界資本主義は、戦争による生産崩壊と労働力喪失の条件下で1970年頃までは高い経済成長を謳歌しましたが、その結果として必然的に過剰生産と利潤率の低下に陥ってしまいました。それを克服しようと「ケインズ主義」的財政膨張策にしがみつきましたが、すぐに効果なしが明らかとなり、労働者からの徹底した強搾取に訴える「新自由主義」の競争政策に転換しました。また、商品と資本の世界になかなかまつらわぬ共同体的要素を強く残した地域に対して戦争(イラク、アフガン戦争など)を仕掛けました。

 

しかしそれでも安定した利潤の回復は実現できず、以上の行動と並行しつつ、経済の「金融化」を通して社会の中のあらゆる「剰余の」富を奪いつくす策に打って出ました。そしてこの政策は、リーマンショックという金融恐慌を必然的に引き起こすことで挫折せざるをえませんでした。こうした結果を受け、いま世界の資本主義が強力に推し進めようとしているのが、経済のIT化、AI化、それを物質的基盤とする「プラットフォーム資本化」です。現在の経済において支配力を奮っている資本は、米国系のGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)や中国のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)に代表されるプラットフォーム資本の姿態で活動しています。

 

このプラットフォーム資本を中心勢力とする資本主義の新しい波は、労働者に対する搾取と収奪を、労働からのさらなる内容剥奪と精神的従属の深化という段階に推し進め、世界の覇権をめぐる闘いをいっそう激化させ、資本による自然と人間へのさらに深刻な破壊をもたらそうとしています。