【管理人の一言】

金正恩による「敵対的な二国間関係」論の政治的外交的意味をさぐる議論が活発になってきました。

韓国のハンギョレ新聞は「金総書記の《二つの朝鮮》(Two Korea)論は、日増しに悪化する朝鮮半島情勢と北朝鮮国内の政治的事情を考慮した特有の敵対的レトリックを取り除いてみると、北朝鮮側が脱冷戦期以降に懸念してきた《吸収統一》を避けるための防御的戦略だ」との専門家の意見を紹介しています。

 

ここからは私見です。実際に70年以上の間、別個の敵対的国家として存在してきた二国の「統一」は、理念としては望ましいものですが、現実としての統一の実現は暴力的な、つまりは戦乱を経ることなくしては実現できないことは明らかです。ドイツの東西統一のような平和統一は事実上不可能だと思われます。韓国と北朝鮮は現在も休戦状態にあります。朝鮮戦争は1953年の休戦協定をもって戦闘が終了したものの、和平条約が交わされていないため、法的にはまだ戦争状態にあると言えます. 休戦協定により、朝鮮半島に事実上の新たな国境である軍事境界線が生まれ、戦闘が停止され、捕虜の本国送還が終了しました。それから半世紀以上が経過しています。世代の交代も進みました。

 

いろいろな金正恩の脅し文句やから文句を取り除けば、両国が自立した国家として(つまり統一など戦争を惹起する要因を排除して)新たに歩みだすことができるということです。このことがよいか悪いかは両国民が決めることですが、少なくとも北朝鮮の態度は決して不合理なものではなく長期にわたる朝鮮半島の平和に結びつく可能性があります。唾棄すべき話ではないと思います。

朝鮮半島の統一は、今では戦争や内乱なしには実現できないことは明らかです。むしろこの「大義」を捨てることが半島の平和に資するのであれば、検討すべき問題です。

 

これに対する韓国政府の対応は、ハンギョレ新聞で紹介された専門家たちの意見のような深い理解に欠け、金正恩の過激な表現を逆手に取り敵愾心を韓国民に煽るというのは残念なことです。「金正恩委員長の脅しは、我々を刺激しないでほしい経済建設に専心したいという意味でしかない」(ハンギョレ新聞)。

 

「躊躇なく焦土化」豪語した北朝鮮が空軍飛行場に温室農園を建設する理由(2) : 政治•社会 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

 

一言加えれば、北朝鮮では生活苦が依然として深刻であることは確かなようですが、経済が意外に上向きであることが指摘されてもいます。

 

2023年の経済実績を称えた「金正恩党総書記は報告で《穀物は103%、電力、石炭、窒素肥料は100%、圧延鋼材は102%、非鉄金属は131%、丸木は109%、セメント、一般織物は101%、水産物は105%、鉄道貨物輸送量は106%であり、住宅は建設中の世帯数が109%として人民経済発展の12の目標が全部達成された》と述べ、2023年に設定した《12の重要高地》、すなわち経済の主要12部門で2023年に設定した目標をすべて超過達成したとした。

さらに《電動機は220%、変圧器は208%、ベアリングは121%、電気亜鉛は140%、鉛は121%、紙は113%、塩は110%、化粧品は109%、板ガラスは100%、マグネシアクリンカーは104%に増産したのをはじめ、経済の全般ではっきりした生産成長と計画規律の樹立という進展を遂げた》と経済実績を誇った」【日本一詳しい北朝鮮分析】金正恩が「2つの朝鮮」を宣言した背景(平井 久志) | 現代ビジネス | 講談社(1/10) (gendai.media)

 

たしかに、韓国や米国との対立で経済を消耗させたくないという金正恩いや北朝鮮支配層の考えなのかと推測できます。だから難癖をつけながら韓国と決別し「統一」を放棄したから、韓国も軍事圧力をかけないでほしい・・ということでしょう。しかし、統一と言う美名を失った北朝鮮政府と支配層は、今後北朝鮮の民衆をどのように「指導」するのでしょうか。国民的大義の放棄は民衆の新たな覚醒と階級的な決起に結びつく可能性を暗示するものです。(了)

 

 

 

[ニュース分析]

「金総書記の『二つの朝鮮』論は吸収統一と政権崩壊の回避戦略」

 : 政治•社会 : hankyoreh japan (hani.co.kr)

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の「南北関係は同族関係ではなく、敵対的な二国間関係」(2023年12月26~30日、労働党中央委員会第8期第9回全員会議)との宣言が波紋を呼んでいる。南北関係を「国と国の関係ではない、統一を志向する過程で暫定的に形成された特殊な関係」と規定した南北基本合意書(1991年12月13日)の序文の精神を否定する「対南部門の根本的な方向転換」宣言であるからだ。金総書記の「二つの朝鮮」(Two Korea)論は、日増しに悪化する朝鮮半島情勢と北朝鮮国内の政治的需要を考慮した特有の敵対的レトリックを取り除いてみると、北朝鮮側が脱冷戦期以降に懸念してきた「吸収統一」を避けるための防御的戦略だと、南北関係に長く関わってきた多くの専門家たちは1日、ハンギョレに説明した。

 

 

韓国「主敵」規定を正当化 金正恩氏、軍記念日に演説 

(msn.com)北朝鮮の朝鮮中央通信は9日、金正恩朝鮮労働党総書記が朝鮮人民軍創建76年の記念日となった8日に国防省を訪れ、将校らを前に演説したと報じた。金氏は韓国を「主敵」と定めることは、北朝鮮の「永遠の安全と将来の平和」に向けた当然の措置だと正当化した。

 

経済難深刻化で北「民心離反」、韓国への敵意扇動で結束図る

…統一相インタビュー (msn.com)

■食糧 地方に行き渡らず

 【ソウル=中川孝之】韓国の金暎浩(キムヨンホ)統一相は8日の読売新聞とのインタビューで、北朝鮮が韓国への敵対姿勢を強めているのは国内の不満をそらすためだとする見方を示した。長年の韓国との平和統一方針を放棄したことで、政権内部が混乱する可能性があると指摘した。

■危機的な状況

 金統一相は執務室で約1時間半にわたり行ったインタビューで「経済難が非常に深刻化し、北朝鮮の内部で民心の離反現象が起きている。体制の結束のため、韓国への敵意をあおっている」と述べた。地方に食糧が行き渡らない「危機的な状況」にあるという。

 金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は昨年末の党の重要会議で、韓国は統一の対象ではないと宣言。有事には核使用も辞さず、「完全に占領する」と威嚇している。