【管理人の一言】

 

『南海トラフ地震の真実』(東京新聞) 南海トラフ大地震への「懐疑論」

 

 能登半島震災は、地震の恐ろしさを改めて示したかたちでした。日本列島は活断層列島であり、同じくプレート沈み込みによる海溝型地震の巣でもあります。「ワーカーズ」「ワーカーズ・ブログ」でもたびたび取り上げてきましたように、防災意識や自治体・政府による防災体制や被災時救援体制の優先的確立が必要とされています。

 ところが、このような話を前提としつつも部分的にはかなり真剣な懐疑論もあるのです。それもまたご紹介したいと思います。

 

■南海トラフ地震の発生確率への疑問

 東京新聞の記者、小沢慧一氏が書いた『南海トラフ地震の真実』という本は、南海トラフ地震の発生確率についての懐疑的な視点を提供し科学ジャーナリスト賞を受賞しています。(東京新聞・1650円)この本の主な論点は以下の通りです。

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 政府が発表する南海トラフ地震の発生確率30年以内では(70~80%)について、その算出方法に疑問があるという指摘が中心です。ある学者の告発を受け、その確率が特別な計算式で水増しされているという事実を新聞記者として追跡しています。

 こうして非公開の議事録や、計算の根拠となる江戸時代の古文書を調査し、「南海トラフの発生確率の高さでえこひいきされている」という事実が浮かび上がります。つまり南海トラフ危機が「もれらている」ということになります。

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 こうしてこの本は、地震予知の可能性への期待とともに懐疑を拭い去れず、防災関係諸官庁、防災科学機関、科学者のアンフェアな判断に切り込みます。

 

■科学者と官庁と防災組織を結ぶ巨額予算

 「・・地震予知への期待を背景にしながらも、地震学者や防災関係者が多額の国家予算で潤っている。1990年前後にこの分野を取材した記者の多くがそう感じていたはずだ。南海トラフ地震の予測で今も続くこの構図を克明に調べ世に問う労作が結実した」。

 「科学がどう都合よく政治(や役所・官僚)につまみ食いされるのか。そのとき科学者はどうすべきか。コロナ禍しかり。残念ながら、この国ではこれがありふれた物語なのか。本書の基になった新聞連載が日本科学技術ジャーナリスト会議の科学ジャーナリスト賞を受けたのも、当然だろう。」(bookbang)。

 コロナ禍において上は厚労省から専門家や医療関係諸団体までが「コロナ予算」をがぶ飲みし、コロナ禍の真摯な対策ではなく私腹や省益や業界関連団体を肥やすことに傾斜したのでした。「未知のウイルスコロナは怖い」が彼らの追い風でした。それと同じように「南海トラフ大地震は怖い」、東日本大震災の十倍の死者が出る、復興予算も十倍必要となる、30年間の発生確率(70~80%)・・・との「試算」は結局誰に利益をもたらすのか?と言うことになります。こうして研究と防災関係予算は膨れ上がるのです。

 

■「南海トラフ大地震」と現実の諸震災

 1999年に南海トラフ地震の被害想定(死者32万人、経済被害220兆円)が公表され、政府と関係機関は南海トラフ地震対策を強化しました。

 しかし問題は、今回の能登半島震災にみられるように地震の脅威は全国至る所にあるのです。阪神・淡路大震災(1995年1月17日)、宮城県北部地震、中越地震、新潟県中越沖地震、東日本大震災(2011年3月11日)、熊本地震、北海道胆振東部地震、そして能登半島地震・・・が発生しています。

 一部の地震科学者は今回の能登半島震災が「ノーマークではなかったが、南海トラフほどの重点対象ではなかった」との声が上がりました。富士山噴火も含め全国的に地震の活発期に入ったと考える学者もいます。その意味でも、「南海トラフの特別扱い」が懐疑的にみられることになります。

 こうなると「地震科学」が科学と言われないものになってしまいます。コロナが当初「未知のウイルス」であったように地震予知が未熟な科学であればあるほど、政治や官僚の省益あるいは地震科学関連組織、防災組織に利用されてしまいます。以上、地震対策拡充の必要性とともに、このような社会と政治のゆがみにも目を向け批判する必要があることは確かです。(阿部文明)

 

 

 

南海トラフ地震の真実

 

相次ぐ内陸地震 南海トラフ、既に活動期 津波と強震の恐れ 

(msn.com)

南海トラフ巨大地震の想定震源域

 

 

南海トラフ巨大地震「可能性高いことに変わりない」備え続けるよう呼びかけ 気象庁 

(msn.com)

気象庁は、南海トラフでの巨大地震発生の可能性を評価する定例の検討会を開き、プレートの固着状態に大きな変化はなかったことなどから、「特段の変化は観測されなかった」とする見解をまとめました。

気象庁は、今後30年以内の発生確率が70%から80%とされる南海トラフ巨大地震について、専門家による定例の評価検討会を開き、想定震源域でおきた地震や観測データの分析をおこないました。

 

気象庁によりますと、先月1日から今月5日までの期間に、南海トラフ巨大地震の想定震源域と、その周辺ではマグニチュード3.5以上の地震が2回発生したということです。

先月24日には、日向灘を震源とするマグニチュード4.1の地震が発生し、宮崎市などで最大震度1の揺れを観測しました。

また、先月31日には徳島県南部を震源とするマグニチュード3.5の地震が発生し、徳島市などで最大震度1の揺れを観測しました。

これらの地震は、いずれも地震の規模が小さいことなどから、検討会は、南海トラフ巨大地震に大きな影響はないとして、「特に目立った地震活動ではない」と評価しました。

一方、静岡県御前崎などで長期的に観測されている地盤の沈降は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴うもので、その傾向に大きな変化はないということです。

 

検討会は、こうした観測結果を総合的に判断し、南海トラフ周辺で「特段の変化は観測されなかった」とする見解をまとめました。

 

評価検討会の会長で東京大学の平田直名誉教授は、フィリピン海プレートと陸のプレートの固着状態に変化はないとした一方、巨大地震の発生の可能性が高い状態に変わりはないと説明し、強い揺れと津波への備えを続けてほしいと呼びかけています。