【管理人の一言】

円安が長期にわたり続いており、これがニューノーマルなのかと考えるエコノミストも増えています。ここでは、「円安」対策における日銀の限定的役割と、より根本的な日本資本主義の実態から簡単に見てみましょう。

 

■金利の高いところにマネーは流れる

世界的インフレがコロナ対策の過剰マネーや軍事紛争のために発生しましたが、そんなインフレ下でも日本は相変わらず大胆な金融緩和脱却に踏み込めないでいます。ゆえに金融化した過剰マネーは日本には寄り付かないのは当然です。だかり「円安」になるというのは分かりやすい話です。超低金利では投資家に魅力がありませんから。つまり円安はなるほど国際的金利差が一つの要因だと言えるでしよう。と言うことで「日銀は金利を上げよ」と言う声が紙面を飾意続けています。日銀政策から見てみましょう。

 

日銀がマイナス金利を解除する方法は、大きく分けて以下の2通り考えられます。

 

1. 付利金利を0%以上にに引き上げる

現在のマイナス金利政策では、日銀は金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス0.1%の金利を適用しています。これを0%以上に引き上げる方法です。この方法は、金融機関の収益を圧迫するマイナス金利の負担を軽減し、金融機関の貸出意欲を高めることができます。

2. マクロ加算残高を縮小する

現在のマイナス金利政策では、日銀は当座預金残高のマクロ的な増減に応じて、ゼロ金利が適用される「マクロ加算残高」を増減させています。これを縮小することで、マイナス金利の適用範囲を縮小し、実質的な金利を0%以上に引き上げる効果を狙います。

 

なお、マイナス金利解除後も、日銀は長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を継続する可能性が高いと考えられます。

 

■質的量的金融緩和の巻き戻し

日銀は質的なすなわち短期金利操作ばかりをしてきたわけではありません。

日銀は、2023年12月の金融政策決定会合で、国債購入額を減らすことを示唆しました。具体的には、2024年度以降の国債購入額は、2023年度の年間購入額(約120兆円)から「大幅に減らす」としています。それは今年に入り確かに実行されています。なにしろインフレの3%の押上は、実質金利ゼロをマイナス3%に押し下げているので、少なくとも日銀はインフレ分の「金利上げ」を実行しなければなりません。

 

これらの日銀による「金融手法」により、今後日銀はマイナス~ゼロ金利をプラス圏に持ってゆくプランを練っています。しかし、短期金利にしても現在の日本にとって大きな困難があり、日銀は躊躇していると言えるでしょう。

問題の一つは、中小零細企業、そしゾンビ企業の連鎖倒産が現実化する恐れがあり、その対策の問題があります。もちろんこれは政治問題に直結するでしょう。

さらに、金利上昇は、日銀口座にある民間銀行預金対する金利払いの増大や、大量に抱え込んだ国債の含み損の発生があります。おまけに、有金利事態での政府による国債大量発行は、政府負担を一挙に拡大しますので、実態を知れば考えただけで政策実行を躊躇してしまいそうです。

 

■そもそも日本の金利は低いのはなぜか?

日本の金利が低いのは、基本のキを言えば日本国内の資金需要が不活発であるという点にあります。ではなぜ資金需要が乏しいのでしようか。それは、国内の需要の低迷だと言えます、したがって産業の低迷、個人消費の低迷の反映です。だから、日銀が金利政策だけで「金利上げ」を作り出そうとすれば、低金利で何とかやりくりしてきた企業の倒産が発生するでしょう、そのことを当局は恐れていると思います。つまり、ジレンマというやつです。

 

 日本の低体温症(利潤が下がり気味、金利も下がり、産業の槌音が聞こえてこない)は、日本資本主義の生命力の下降を意味していると考えられます。しかし、だからと言って企業はじっと死を待つつもりはありません。その一つがが日本資本の海外投下・キャピタルフライトです。資本を米国や欧州・中国さらにはグローバルサウスに移動することです。

 

日本はバブル絶頂期の後、じつに30年に渡り海外純資産残高の世界一位を続けています。この記録は、日本国内の経済不振の裏返された現実なのです。日本の資本は、海外で労働者を雇用し資本投下をし、その利益を日本本土の本社に送付してきたのでした。それが第二次所得収支の記録的な黒字となり、この十年程度は貿易赤字の穴埋めとなってきました。しかし、最近では海外の日本資本が「国内還流」を減らして、継続的な海外投資を増やしてきていると指摘されています。

 これでは、「円安」は日銀の金利操作でどうなるものではないことは理解いただけると思います。実質実効為替レート(対ドルではなく、円の国際的実力を示す)では、何と円はピークであった1992年あたりから半分に零落しています。

 

■その他の「円安」要因

産業力が低下し貿易力がいよいよ低下してきたので、日本は外貨が稼げていません。そこで利潤率を下げたくない企業経営者は、一層の低賃金構造(賃金抑制、合理化や非正規拡大)を全国に広げました、つまりこれは日本が先進国から後進国的経済構造に後退してきたとの議論が起きました。

さらには「その他のサービス収支」では米国のビックテックへのクラウド利用代やその他の支払いが国を挙げたDX運動のおかげで増大し、結果として収支の赤字が増大しています。これもまた日本の産業力の低下、技術力の低下の一つの結果と言えます。

 

■「日本化病」はグローバルスタンダードへ

このように経済報道では「円安困った」「日銀は行動しろ」「金利上げよ」としていますが、上述したように問題が根本的性格であることが理解されれば新聞記事の言うことは浅薄だと思います。このような自国内での経済の低迷、海外への資本投下による産業の疲弊と経済の金融化やサービス業化・・・。これは労働者の低賃金と貧富の格差を固定化するあるいはより深刻化する道となっています。

 

また同時に、このようないわゆる「日本化病」は、何も日本固有なものではなく、欧米先進国にも大なり小なりみられるものであり、資本主義の衰退と同時並行する労働者大衆の窮乏化を必然化するのです。資本主義の歴史的生命の終わり際にその死に至る病に巻き込まれで私たち労働者まで没落はしたくありません。広がりゆく団結をめざして活動しましょう。(了)

 

 

24年の円相場は劇的Uターン、金融政策逆回転で4年ぶり円高へ

 - Bloomberg

 

円高の幻想:円安の歴史が始まる

 今年の円高局面は“小休止”にすぎない

 唐鎌大輔 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

 

・・・略

未来に刻まれる歴史は円安

 今後の日本に対し筆者が抱くイメージは、そうした歴史とは真逆の展開だ。今後は「円安の歴史」が始まるという認識の下、時折(恐らくは米連邦準備制度理事会〈FRB〉の政策転換などに合わせて)円高局面がやってくるという心構えを持ちたい。

 PPPで実勢相場を捉えきれなくなって10年余りが経過した。11~12年ごろに貿易黒字国ではなくなったことと無関係ではないというのが筆者の仮説だ。今後、円安局面の時間や幅の方が大きくなるのだとすれば、未来に刻まれる歴史は円安になる。

 しかし、資本移動が完全に自由化された変動為替相場制度で取引されている以上、一方向での売買が持続するはずもなく、FRBの政策転換はどう考えても影響を持つ。24年はそうした事情で長期円安局面が一旦、息継ぎを許される時間帯というのが筆者の整理である。FRBの政策運営とは無関係に常時、売られる通貨があるとすれば、それは政治・経済的な混乱のさなか、資本流出が止まらない国であり、その状態を通貨危機と呼ぶ。さすがに、今の日本はそこまで追い詰められてはいない。

外貨が取りにくい国

 年始のタイミングでは各種メディアを通じて予測が円安派・円高派といった2項対立に仕分けされる。これに従えば、FRBの政策転換に合わせて過去2年の円安が小休止するという予想でも「円高派」ということになってしまう。

 しかし、あくまで暦年の区切りだけで、円に対する強気・弱気を仕分けすることに本質的な意味は全くない。特に中長期的な構造分析を主体とする筆者の姿勢にとってはますます合わない。FRBの利下げに伴う円高・ドル安圧力が発生する時期が、たまたま24年1~12月にぶつかるだけの話であり、それをもって円に対する本質的評価が変わるはずもない。

 為替の「方向」を決めやすいのは金利の議論だが、「水準」に影響をもたらすのは恐らく需給の議論である。現在、日本が直面する最大の問題は「外貨が取りにくくなっている」という事実だ。その点に関してFRBが利上げしようが、しまいが何の関係もない。・・・・略