<政治とカネ 自民党派閥裏金事件>⑤
自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件の中心には安倍派(清和政策研究会)がいた。事件が明るみに出る前に、派閥の内情を取材していたノンフィクション作家の森功さん(62)は「最大派閥のおごり」が問題を軽視させたとみる。
森功(もり・いさお) 1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。2018年に「悪だくみ 『加計学園』の悲願を叶えた総理の欺瞞」で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。同書を含む著書で「政治とカネ」問題に迫ってきた。
安倍派の内情について語る森功さん© 東京新聞 提供
◆権力闘争に明け暮れる5人衆ら幹部
―安倍派を取材した経緯を教えてください。
安倍晋三元首相が亡くなって1年がたった2023年7月から、安倍派の行く末を探ろうとしたんです。「5人衆」のうちの松野博一前官房長官、萩生田光一前政調会長、世耕弘成前参院幹事長や他派閥の議員に取材をしました。
―取材から見えたものは何でしたか。
派閥の後継会長が決まらない中で、幹部が権力闘争に明け暮れていました。裏金問題が報道で明らかになってから関係者に話を聞くと、取材した時点で検察は会計責任者や議員秘書に話を聞いていて、幹部もそのことに気付いていたということでした。(政治資金収支報告書の不記載を告発された)他の派閥は、早い時期から報告書をうまく修正していたようだけど、安倍派は目の前の権力闘争に走って事態の重大さを受け止めていなかった。
◆キックバックをやめさせなかった幹部の謀議
―そうした対応になった背景には何があると考えますか。
世耕さんが取材に「(安倍派は)官邸や他派閥に対するバーゲニングパワー(交渉力)がある」と言ったように、数を背景に「自分たちは力を持っている」というおごりがあるんでしょうね。加えて、安倍政権での森友・加計学園問題や桜を見る会の問題で、検察は議員までたどり着いていない。疑惑の渦中でも逃げ切ってきたという意識が幹部にもあったんじゃないか。
―検察は5人衆ら幹部議員の立件を見送りました。
見過ごされてきた派閥の資金問題にメスを入れたのは画期的ではあります。一方で明らかになっていない部分もある。特に安倍さんがキックバックをやめようとしたのに、幹部の謀議で撤回したこと。そこで何を話したのか全く出てこない。検察審査会の審査に期待するしかないですね。
自民党安倍派臨時議員総会後、報道陣に囲まれる塩谷立座長(手前中央)=19日、東京・永田町の自民党本部© 東京新聞 提供
◆派閥をなくしても実態は変わらない
―岸田派と安倍派、二階派は解散を決めました。
世間の風当たりが強くなるのをかわそうとしているだけに見える。事件の本質はパーティー券を使った裏金づくりのシステムであり、過去の政治資金規正法違反事件と同じ。派閥をなくしても、その実態はさほど変わらないでしょう。
―政治とカネの問題を繰り返さないためにはどうしていく必要があるでしょうか。
リクルート事件を受けて自民党が政治改革大綱をまとめてからも、毎年のように問題が起きている。(議員が連帯責任を負う)連座制を導入するなどの法改正は必要でしょうが、たとえば1円からの献金を全て公表するようにしたら、国民の政治参加が滞ることにもなるから難しい。政治とカネの問題はいたちごっこ。そう自覚してマスコミを含めて監視を強めていくしかないんじゃないかな。
安倍派の内情について語る森功さん© 東京新聞 提供
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