大増税と企業への大盤振る舞い 

   ーーー岸田政権の経済政策
【ワーカーズ十一月一日号】より転載

 

 

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 物価高に賃金が追いつかず、庶民の生活が苦しい状況が続いている。
 そんな中で行われたメディア各社の内閣支持率調査が軒並み低下している。10月22日の衆参の補選は、自民の1勝1敗に終わった。
 焦った岸田首相、解散風をもてあそぶ余裕も消え、物価高への対策づくりに躍起だ。
 その岸田政権が実際に力を入れているのは、軍事費の増額や一部大企業への補助金の大盤振る舞い、それに首相自身の再選戦略だ。
 そんな岸田政権に対し、連合のように政権に接近することで存在価値を保持するのではなく、正面から大企業優遇政治と対決する姿勢を貫きたい。
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◆迫る増税・負担増ラッシュ

 最近の物価高に苦しむ庶民生活をよそに、岸田政権は様々な増税へのレールを敷いてきた。

 すでにGDP比でほぼ倍増させた軍事費では、27年度の時点で1・1~1・2兆円の増税がほぼ決まっている。が、その分を含めて、28年度以降毎年必要になる3・8兆円程度の財源が、まだ決まっていない。これらは年内にも新たな増税や借金、それに歳出改革という名の国民負担として現実の問題となる。

 〝子育て予算倍増〟も同じだ。必要になる毎年3・4~3・7兆円もの財源を、歳出改革や確保済み財源、それに医療保険からの支援金でまかなうとされているが、これも年末までに決めるという。

 さらには〝サラリーマン増税〟も現実味を帯びる。これは政府税制調査会の答申(6月30日)に含まれていたもので、労働者の退職金や通勤手当に関わる増税案だ。

 その答申では、現在の退職金課税の控除額を減らすことによる増税と、通勤手当を課税対象にする増税案だ。世間では〝サラリーマン増税〟だとして批判が拡がっている。10月22日投票の参院徳島・高知選挙区の補選で街頭演説(10月14日)をした岸田首相が〝増税メガネ〟とヤジも飛ばされた。

 政府税調の答申がすぐ実行されるわけではないが、現実味を増す大増税の気配を察する庶民感覚からの批判が拡がっていることが背景にある。

◆支持率低下に慌てた首相

 内閣支持率が軒並み最低レベルとなったことで焦った岸田首相、とたんに減税をぶち上げた。曰く、〝税収増を国民に還元する〟。岸田首相は急遽、10月中の総合経済対策づくりに減税案を加えるように、閣僚に指示したという。

 とはいえ、22年度の税収の上振れ分の6兆円の最終的な余剰金は2・6兆円。半分は国債の返済、もう半分は防衛費増にあてる予定で、減税に回す財源にはならない。23年度の税収見込みも、それほど余剰金は出ない見込みだという。しかも、国債増発による借金財政は、底が抜けた状況にある。

 防衛増税と子育て増税。そこに具体的な当てもなく〝税収増を還元する〟として減税をぶち上げたわけだ。増税と減税。相反する経済対策の同時展開。これらは内閣支持率対策、すなわち選挙対策であり、自身の再戦戦略だと受け止められて当然のことだ。

◆企業補助金の大分振る舞い

 今年4月、大阪高裁で生活保護引き下げ取消訴訟の控訴審判決が出され、高裁は減額処分の取り消しを違法とした地裁判決をひっくり返した。国はデフレによる08~11年までの「生活扶助」を平均6・5%引き下げる「デフレ調整」で、総額670億円を削減していた。

 政府は厳しい算定率の〝デフレ調整〟で、生活保護者に容赦のない扶助費削減を押し付けてきた。他方では、円安などで利益を貯め込んでいる大企業に対し、惜しげも無く巨額の補助金を大盤振る舞いしている。

 たとえば10月中にとりまとめる経済対策で見込んでいる、半導体工場など国内投資への政府による合計3・4兆円の巨額の補助金だ。すでに21~22年度で約2兆円を補助しているから、併せて5・4兆円もの巨額の補助金だ。

 まず注目を集めたのは、台湾積体電路製造(TSMC)への補助金だ。これまで第一工場にも4760億円を補助しているが、新しい第二工場にも9000億円の補助金を支給するという。

 またTSMCと提携してきたソニーに対しては、最先端半導体でもないのに従来型のイメージセンサーの新工場建設に、総投資額8000億円の所、7000億円の補助金を出すという。

 その他では、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行という日本のトップ企業が出資する、回路幅2ナノメートルの最先端半導体を量産する予定のラピダス(北海道千歳市)への補助が際立っている。これまでの3300億円に、今年度も5900億円を補助するという。

 そのラピダスは、量産開始まで5兆円の投資を予定しているというが、その内、22~27年の研究開発段階で2兆円が見込まれ、その全てを政府の補助金でまかなうという。トヨタなど9社は計73億円の出資、1社あたり9億円でしかないし、今後の追加出資も決まっていないという。

 ちなみに、米国の補助率は5~15%、独は最大50%だという。日本はといえば、すでに好業績を上げている企業であってもリスクは引き受けずに済み、国が丸抱えする形だ。

 政府は、慎ましく暮らす生活保護費を4年間で670億円を削減した。その100倍レベルもの補助金を〝経済安保〟という国策の下、好業績の企業に注入することに少しの躊躇もない。

◆政府の補助金は、全て企業へ

 これまで見たように、政府の補助金は、なぜか、個々の労働者・生活者に直接届ける、というものではなく、全て企業への補助金であることにその性格が象徴されている。制度の管理上の面もあるが、逆に企業のさじ加減の余地や企業による不正を招きかねないやり方でもある。

 ガソリン補助金や電気・ガス補助金も同じだ。補助金は全て石油元売り会社や電気・ガス会社に給付される。その石油元売り会社にすでに補助金6兆円、電気・ガス会社には3兆円、計9兆円以上が給付されている。

 ガソリン補助金は、車両を大量に稼働する運送会社や、より高排気量の車の保有者に多くの補助金が投入される。電気・ガス高対策も同じだ。企業でも個人でも、大規模需要者ほど、補助金の恩恵が受けられるわけだ。

 逆に、原則、自家用車を持てない生活保護者には、直接の還元・恩恵はない。要するに、逆進性をはらむ補助金なのだ。6兆円対670億円、100倍だ。ここにも政策のゆがみが象徴的に現れている。

 付け加えれば、コロナ禍での雇用調整助成金。これも労働者への直接的な助成金ではなく、解雇せず休業手当を支払った企業への補助金だった。
 
ガソリン補助金や電気・ガス代への補助金も、確かに個々の被雇用者や生活者への間接的な助成になっている面もある。が他方では、ガソリン消費の節約や電気・ガス節約などへの動機付けを薄めるものでもあり、省エネ指向にも逆行している。なによりも、石油元売りや電力・ガス会社への需要維持による、企業収益へのテコ入れの性格が色濃い助成制度と言う他はない。

◆企業利益優先の《連合》

 政府による半導体企業などへの補助金。それらはあくまで企業への助成であって、その結果企業の業績が改善し、顧客や従業員にも還元されるのなら、まだ理解も出来る。が、『ワーカーズ』2月1日号や10月1日号でも見てきたように、企業利益は株主や経営者に手厚く配分され、内部留保として企業内に溜め込まれるばかりだ。労働者は実質賃金の目減りから抜け出せず、最近の物価高でも苦しんでいる。

 これでは、政府の企業支援は、企業収益と労働者の生活改善という好循環にはほど遠く、結局は、企業や富裕層を潤すだけの結果に終わっている。こうした現実を、労働者・生活者は、怒りを持って受け止める他はない。

 労働組合の最大のナショナルセンターといわれる日本労働組合総連合会(連合)は、今年の春闘でも物価上昇を補填する賃上げも獲得できず、実質賃下げを余儀なくされている。要するに、連合は企業が容認する賃上げレベルを突破する力も気概も、持ち合わせていないのだ。

 その芳野「連合」は、5月のメーデーへの招待に続き、10月5日の連合大会にも首相を招待した。岸田首相の形ばかりの賃上げ提唱に依存するばかりで、前述のような岸田政権の企業優先政治への批判的視点や対決姿勢はまったく見えない。

 岸田政権の大企業優先政治と対決すると同時に、連合の解体とまっとうな労働組合としての再組織化が不可欠だ。(廣)