<東京新聞社説>憲法と緊急事態 改憲の必要性あるのか 

(msn.com)

憲法を改め、大規模災害や武力攻撃に備えて「緊急事態条項」を新設すべきか否か、衆参両院の憲法審査会で議論されている。

 自民、公明、維新、国民民主などの改憲派は国政選挙が困難な場合、国会議員の任期を延長できる規定を設けるよう主張するが、現行憲法でも対応が可能との憲法学者の指摘もある。改憲を自己目的化した憲法論議は慎むべきだ。

 

 現行憲法は衆院解散後に緊急事態が発生した場合を想定し、参院のみで国会機能が維持できるよう緊急集会の規定を設けている。

 

 十八日に行われた衆院憲法審の参考人質疑で、憲法学者の大石真・京都大名誉教授=写真(左)、長谷部恭男・早稲田大大学院教授=同(右)=はともに、衆院議員の任期満了時にも参院緊急集会の規定は適用できると指摘。緊急集会で対応可能な期間について、大石氏は最大七十日、長谷部氏は日数には縛られないとの見解を示した。

 

 国会は現行の緊急集会規定で対応できない事態があり得るのか、議論を尽くすべきだ。緊急事態条項の新設をいきなり主張するのは順序が違うのではないか。

 改憲派が主張するように緊急時に国会議員の任期を延長すれば、選挙権という国民の権利を制限する。国会議員の任期が延びれば、国会議員から選ばれる首相の任期も延長され、国民の審判を経ずに政権が延命することにもなる。

 

 一九四一年、日中戦争を理由に帝国議会の衆院議員の任期を一年延長し、その後、米国などとの無謀な戦争に突入した。ロシアでは大統領任期を延長する改憲がプーチン氏の独裁、ウクライナ侵略につながった。そうした歴史の教訓も忘れてはなるまい。

 自民党が二〇一二年に発表した改憲草案は緊急事態の際、内閣が法律と同じ効力の政令を制定できることや、一時的な私権制限を認める内容を盛り込む。議員任期延長を突破口に、そうした改憲をもくろむのなら看過できない。

 災害などの緊急時に政治空白を生まず、国民の命と暮らしを守ることは極めて重要だが、改憲ありきでなく、現行憲法下で可能な法整備を追求すべきである。