【Bunnmei ブログ】
2026年2月、イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、日本の石油化学産業はかつてない原料供給危機に直面しています。その中心にあるのが、ナフサ(原油を精製して得られる、プラスチックの元になる液体原料)の安定確保をめぐる、政府と産業現場との間の深刻な認識のズレです。
高市早苗首相は4月30日、ホルムズ海峡の事実上の封鎖で懸念が出ていたナフサ由来の化学製品の供給について「年を越えて継続できる見込みだ」と表明しました。それまで「半年以上」としていた供給見通しを上方修正したものです。米国、アルジェリア、ペルーなど中東以外からのナフサ輸入が5月に緊迫化前の3倍へ拡大する見通しとなり、備蓄原油を用いた国内精製を継続、ポリエチレンなど中間段階の化学製品在庫1.8カ月分を活用する組み合わせがその根拠です。 Yahoo!ニュース
しかし、この「年越し確保」という言葉が実態を正確に伝えているかどうか、産業現場では強い疑問の声が上がっています。経済産業省は同日の資料の中で、一部に「供給の偏り」「流通の目詰まり」が続いていると明記しており、塗料用シンナー、包装容器、住宅設備、医療物資など川中・川下では、なお品目別の逼迫が残っていることを認めています。 Logi-today
稼働実態を示す数字はさらに厳しいものがあります。日本石油化学工業協会(JPCA)のデータによると、2026年2月のナフサ分解装置の平均稼働率は75.7%で、2025年6月以来の最低値を記録しました。各社は最低稼働率の60〜70%を下回らないよう調整を続けており、2月のエチレン稼働率75.7%は協会が好不況の目安とする90%を43カ月連続で下回っている状態です。また、ロイターが石油連盟のデータとして報じたところによると、2026年4月11日までの週の日本の製油所稼働率は67.8%にとどまっており、中東産原油を短期的に他地域で代替できる割合も30〜50%程度にとどまるとされています。 Sdki + 2 代替えがスムーズにいかない場合は、文字通りのクラッシュがきます。
このズレが生じる背景には、日本のエネルギー構造の脆弱性があります。石油化学協会の統計によると、日本のエチレン原料の95%以上をナフサが占めており、米国(シェール由来エタンが主体)や欧州(LPGを一定活用)と比べ突出した一本足構造です。また、中東からのナフサ輸入依存度は2020年時点の53.1%から2024年には73.6%へと急上昇しており、危機耐性は年々低下していました。同時に、日本の原油備蓄はかなりの量はありますが重質油が中心で、ナフサがほとんどとれないという深刻な問題もあります。
さらに、量として確保されていても、個々の企業が必要とする種類のナフサでなければ既存の設備では製品を作れないという、マクロとミクロの乖離の問題があります。加えて、三菱ケミカル、三井化学、出光興産など主要メーカーは2026年3月以降、エチレンの生産抑制を続けており、その一因はナフサの価格高騰にあります。ナフサからエチレンを生産する場合、原料価格の上昇分を製品価格に転嫁できなければ、企業はエチレンを作るほど赤字が拡大してしまいます。
産業への影響は広範に及んでいます。帝国データバンクの分析によると、主要な石油化学製品メーカー52社からの供給に依存する製造業は全国に約4万7000社に上り、集計可能な製造業全体の約3割を占めます。東洋紡や積水化成品工業などはナフサを原料とする製品の値上げを発表し、信越化学工業も塩化ビニル樹脂の値上げを決めています。「作れば作るほど赤字」「受注した製品を作れない」という声が製造現場から上がっているのが実態です。 Teikoku DatabankYahoo!ニュース
政府の「年越し確保」という表現には、需給見通しの上方修正と同時に、過剰発注の連鎖を断ち切る政治的役割も担っている側面があります。「年越し」という強い言葉には、不安心理を冷まし、買い溜めや先回り発注を抑制する意図が込められています。その意義は否定できませんが、「供給が途絶えない」ことと「産業が通常通り稼働できる」ことは別次元の問題です。 Logi-today
問題の核心は、政府と産業界が「供給確保」という言葉を異なる基準で使っていることにあります。政府が「止まらないこと」をもって確保とみなす一方、産業現場では稼働率や製品コスト、調達可能な品種といった実務上の指標で判断しており、両者の乖離は政策判断と現場対応を大きく左右する深刻な問題です。
今回の危機は、日本のこれまでの政策がいかにナフサの中東依存と一本足構造に対して無防備であったかを浮き彫りにしており、備蓄制度(質と量)の見直しや構造的な対策が急務となっています。さらに言えば、エネルギー食糧(肥料)対応も含めて、国内の自然エネルギーの着実な転換、何年も言われ続けた中東依存、外部依存の軽減を政策の軸としなければならないことを示しています。(了)












