「天と地と」中 海音寺潮五郎 | ああ、無情!!masarinの読書ブログ

ああ、無情!!masarinの読書ブログ

読書の感想を書いています。ゆっくりしたペースで更新しますので、よろしくお願いします。

凡人が戦国大名になると、どうなるんだろう。

我々の常識からすると、「ありえない」ということになるのだろう。

思考実験のようで、ラノベのタイトルのような話だ。

 

ただ、現代ならばそんなことはあり得る。大企業でも、出世している人間で、優秀と言われるのはほんの一握りであり、たいていの人間は凡人だ。その凡人が、自己の能力を見誤り、自分が凡庸だとは思わず、そして出世したいという我欲に負けて出世を承諾する。

戦後の日本は過剰に人は皆平等であると教わる。だから、出世していく過程で必要となる帝王学などは一切教わる機会を持たない。歴史から学ぶことはできるが、それが科学的だという訳の分からない理由で、事実の羅列を教わるだけだ。現代人のほとんどは出世するというのは悲劇である。

機会があるとすれば、実地に学校で経験するか、親がそういう存在で、その背中を見るか、である。ほとんどの人間はそんな機会には恵まれない。

凡人は出世しても、権力を持て余し、自己の役割をも把握できず、失敗する。妙に権柄ずくになってしまったりするのは、どうすればいいのか分からず、慣れていないからだ。

 

<以下、「天と地と」に沿って書く>

「天と地と」中巻の中心人物はそんな男、晴景と弟景虎の話だ。

晴景は越中で戦中に急死する為景の跡を相続することになる。

この時期の戦国大名は、豪族たちの了承がなければ、相続すらできない。他に優秀な人物がいないわけではないが、その一族は年齢が高すぎた。みな晴景が凡庸だと知りながらも、相続することに反対しなかった。優秀だった景虎のことは皆がその存在を忘れていた。父の時代に勘当され、栃尾の本庄氏に預けられていた。それに弟は弟で年齢が若すぎた。

凡庸な男は権力を使い、京から上流階級の女を買う。密偵はその女藤紫と弟を連れてくる。弟も美少年であり、晴景は二人を寵愛する。

 

一方で優秀な親戚は晴景に叛旗を翻す。多くの豪族は晴景の敵方につく。

なすすべもない晴景に代わり、景虎は乱を治める。

宇佐美定行は才略を認め、景虎に軍略などをさずける。優秀な弟子である景虎は、戦では負け知らずであった。

景虎が活躍することに凡庸な晴景は面白くない。

藤紫は冷酷な女であった。領民に対する酷い仕打ちは、人身を晴景から離れさせた。

 

とうとう景虎は晴景を廃する覚悟をする。

人心が離れているとはいえ、正統な権限は兄にある。豪族たちは晴景に就く。それを景虎は撃破し、本拠地である春日山城を奪取する。兄とは和解して、景虎は家督を継ぐ。兄は隠居料をもらった。

藤紫は、春日山城が陥落したときに、家人を連れて春日山城から隠遁する。そして、家人に手込めにされるのであるが、越中で土地の武将に捕まり、守護の妾になる。

 

女にうつつを抜かし、その女は性悪で、政はそっちのけ、戦は弱い。

一見すると、凡庸というより、惰弱な大名だと感じる。

だが、凡庸に、均質な労働力として育てられた我々が大名になったとしても、同じことになるのではないかと思う。あまりのつらさに異性や遊興に逃避する。それでいいではないか、と基本的には思う。だが、そうとは言っていられない役目というのが世の中にあり、その役目に凡人が就くのは悲劇なのである。

家督を継いだ、景虎は宿命のライバル、武田信玄(晴信)や関東の雄北条氏康といよいよ戦うことになる。