「風の如くーー久坂玄瑞編」富樫倫太郎 | ああ、無情!!masarinの読書ブログ

ああ、無情!!masarinの読書ブログ

読書の感想を書いています。ゆっくりしたペースで更新しますので、よろしくお願いします。

カクヨム

はてなブログ

久しぶりの更新申し訳ない。

なんとなく、富樫倫太郎の小説は読んでしまう。

今回シリーズは幕末長州の松下村塾の面々にスポットを当てて書かれたものである。言ってしまえば、使い古された物なのであるが、読み始めるとつらつらと最後まで読んでしまう。

 

前巻は吉田松陰にスポットを当てていた。

後半、吉田松陰が狂っていくところが読みどころであった。

今回の巻はというと、もしかすると歴史物の不文律を崩しているところが読みどころかもしれない。

目次
あらすじ
高杉晋作の恐ろしさ
久坂玄瑞の純情
「ステップ4」

 

 

1,あらすじ

今回は吉田松陰の弟子の筆頭格である、久坂玄瑞と高杉晋作の二人にスポットを当てている。この二人、考え方が微妙に、いや途中からは大きくことなる。久坂玄瑞は師吉田松陰の教えである、攘夷にこだわる。しかし、高杉晋作はどこかその師の思想からも軽やかである。中国に隠密に渡航して、欧州と日本の差を痛感する。そして、攘夷ではあるが、まずは幕府を倒して、国を富ませてからでなければ不可能だと判ずる。久坂たちはその高杉がどこか気に入らない。

久坂は原理的吉田松陰信奉者、高杉晋作は合理主義的吉田松陰思想実行者、とでも位置づけようか。この後に続くのは、一見吉田松陰に見える現実主義者である。また、その現実主義者の尻馬に乗る連中がその後に続くのである。

 

2,高杉晋作の恐ろしさ

高杉はどこかで、自分の思想に長州の連中を巻き込むにはどうしたらよいかと考えている。長州が引けなくなることを次々と画策する。たとえば、外国の外交官を暗殺しようとしたり、建設中の英国の公使館を焼き討ちしたりする。

上京した将軍家茂に「よ、征夷大将軍」と罵声を浴びせかける。

どこかで長州を一度破滅させよう、そうでなければこいつらは現状を理解しないと考えている。

恐ろしい男である。

 

3,久坂玄瑞の純情

一方で久坂玄瑞も長井雅楽を暗殺をしようとするのだが、それは自分の信奉する吉田松陰の思想を否定する理屈を作り、藩政を誘導しようとしたことに腹を立てたからだ。結局最終的な目的地まで、合理的に誘導しようというのではない。

どこかでその原理的な主義は万能とすら錯覚しているところがあるのかもしれない。そのせいで、蛤御門の変では、長州派であるはずの貴族鷹司に裏切られ、自刃するはめにあう。

自分は正義の論をかかげているのだから、ついてくるはずだ、と思い込みすぎている。

おそらくオリジナルキャラクターである風倉平九郎は村田蔵六から西洋の兵法書を渡され、それを翻訳することで、兵学の知識を得るという設定である。彼が見ても京都天王山に陣地を取った、久坂玄瑞の陣の運用はめちゃくちゃであった。

だが、警備中の兵士にも酒を配るなど、慕われる人間ではあった。

どこか無謀なロマンチストである。

 

4,革命を制する者

今は一見革命の季節に見える。

だが、おそらく新しい時代の、新しい社会の形態やその性質から言ったら、その手法は間違っている。一時期ある動画が流行った。

 

この動画では、四十代、三十代、十代の黒人がこれからどうすればいいのかを論争している。そして、今まで通りのやり方をしたがる四十代を制して、三十代の男が十代の男を諭す。

「10年後にはまた同じことが起こる。オレたちのやり方じゃダメだ。お前たちは別のやり方を模索するんだ」

みんな同じ思想を共有はしている。

けれども、四十代はその思想を胸に暴れれば良いと思っている。

三十代は、それではだめだが、どうすればいいのか分からないが新たな道を作ろうとしている。

十代は現実的な解決策を考え始める。

どこか、久坂玄瑞、高杉晋作、そしてその追随者の関係に似ている。

女性問題でもなんでもそうだろう。ステップ2,とステップ3がなければならないのである。

 

5,「ステップ4」

そして、その尻馬に乗ろうとするステップ4をどう扱うかも問題だ。明治政府では、このステップ4を排除しすぎたところがある。心理的に幕府方の雄藩は敵でありつづけた。明治維新の敵であった会津が許されたのは昭和天皇が結婚するときである。そして、藩閥政治を繰り広げた。組織の常である、新陳代謝が行われたとは言いがたい。

 

世間の動きとはこういうものであるのかもしれない。ステップを上がるほどに、社会が受け入れやすい形になるのである。今の運動家はステップ1であることに気づいていない気もする。であるのに、自分の思想が達成されることが先であり、自分の命を差し出してでもそのために行動するという気迫が無い。どこかでこの革命の果実を味わいたいという欲がある。だから、事態が先に進まないのである。

カクヨム

はてなブログ