簡単に書いてしまえば、大阪を舞台にした犯罪小説である。
銀行にある金塊を強奪するという話だ。
とはいうものの、実際に強奪をするシーンはそれほど多く描かれておらず、どちらかといえば、計画に参加した人物たちの人生を描くことに注力している印象だ。
金塊を強奪することを中心に据えたかったら、それを遂行して行く上でのトラブルを書いていけばいい。
つまり高村薫は群像劇が描きたかったのだ。
人物は大阪の片隅にくすぶっているようなやつらだ。
裕福な人物もいるが、なんとも胡散臭い。
学生運動をやっていた人物。もと某国のスパイ。肉体労働者。
静かに過ごしていたのに、犯罪の匂いのせいか、伏せていた過去が一気に追いかけてくる。
金を得ることがストレートな動機ではない。初期メンバーはそれほど金に困っていない。
なんとなく暴れたい。そんな不埒な動機だろうが、動機についてははっきり書いていない。それがレディージョーカーと違うところだ。
それにしても実際に銀行に金塊が保管されているものだろうか。
どうして現金じゃなく、金塊なのか。
実際に強盗をしても、現金だと後で足がつくからだろうか。
ロンダリングが厄介だ。
それなら、外国で金を取るに変えた方が現実だからか。
作家のテーマは初期に決定され、それがあまりぶれることはない。犯罪小説や警察小説という形態を取りながら、あくまで高村薫は人を描く。それも特別な人物ではなく、市井の人だ。みな何かを抱え、何かから逃げている。みなそういうものである。市井の人を見つめる高村薫の視線は常に優しい。
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