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友野雅志の『TomoPoetry』

日々書きためている詩をのせます。noteには下にのせています。https://note.com/mtomono





灰色の空気

色なくくすんだ風

そこを歩く


どこへ向かうのか

背がななめのきみは 

こたえない

灰と水を踏むわたしは

何も

知らない

何も知ろうとしなかった


今朝もきみは

その道を踏んでいる

赤いヒールを捨てようかなと思いつつ

コートと

合成皮革のかばんを

捨て去ろうと思いつつ


わたしは もう

凍えている しかし

はだかだ

風も声もつき刺さる

わたしの

色がするところ

わたしのなかの

かくせないところに


そこでは

死んだ彼のかおりがする

もういない彼女の

声を風がはこぶ


あと

すこしだ

ひかりと風をつくった

その口が語る


その風を

ほおにうけて

わたしは角をまがる






目が覚めると
きみは河の向こうから
こちらを見ている

すべてが破壊され
まだ煤が熱をもっている
時を
目覚めるには早すぎると
眠り あるいは
生がはじまる前の
かなしみの笛が鳴る前の
わたしを
きみは水で流しさろうと
あおい眼を
ふくらませ わたしが腰をおろした星を
ぴっしょり濡らす

言葉から言葉へ落ちていく
いのちは
透きとおった卵
時よりも
すこし先で
割れていく

ちいさな者よ
忘れてはいけない
歪んだ顔の
おだやかに静かな眼を
そこからきみの
記憶と呼吸ははじまる

かなしい音楽が
泡だちながら
きみを洗っていく

ちいさな者よ
わたしは流れていく
きみの咽喉を
いくつかの和音となって

空から落ちてくるわたしは
きみの足を洗う

さあ きみが
歩きはじめる時だ
裸足の肌に
歴史の針が
雲と風を
そして死のにおいを刺し入れる

きみをながれる河に浮かぶ
燃える柱
音たてる言葉
きらきらゆれる
青いひかりは
わたしが見ている
きみの
歩みがゆらす時間だ

まもなく
雨の音のなかに
きみの名を呼ぶ声がする
眼をとじて
歩きはじめよ

ちいさな者よ


































振り返る

そのことを理解する

まず自分の左足首を落とす

一週間後、左手首

一ヶ月後、左目

一年後、左耳をそぎ落とす

十年後、

記憶と意識を漆喰の壁に埋める

わたしの価値はまだあるのか


十年後の朝

恋人はわたしの姿に驚く

野菜炒めとサラダとハムを並べながら

住宅ローンの残額を質問する

口をくしゃくしゃ動かし

秤が傾いているのに気づく

いっしょに世界も傾いている

わたしは椅子から滑りおちる


重くなってきた生活

魂も飛び回れない

還暦で右足を落とす

一週間後、右手

米寿で右目

そのまた一週間後、右耳

翌日の夜

残っていた記憶

オーロラの光を

意識の向こうに仕舞う

わたしの価値はまだ感じられるか


老いた恋人は

わたしの不在を知りながら

ヨーグルトとウインナーとバターロールを二人分準備する

世界の傾きに合わせ

テーブルが傾く

わたしの位置からはなにも見えない


きみの背中にユーラシア大陸が埋まっている

膨張する生活と宇宙

わたしの呼吸は

暖かいままだ

きみの言葉が聞こえる


ほら

振り返って見てみて

きみの緑の眼

そのなかで

わたしの時間が

繰り返し始めている

漆黒の

香辛料を振りかける

なにもない朝から












朝のオムレツにナイフを入れる

六回

一回は蛇のため

二回はパーティ好きな女のため

三回は愚かな男のため

残りの三回は

すべての人類のため


テーブル

アフリカの地図

あるいは上海の居留地

椅子にすわる私の頭蓋骨

不規則なパズル

欠けている数枚

そこに人類の進歩が

人類の安息があると言う

テーブルも切られて

六方向にたおれる

朝日に立つ樹の影のように

砂にもどる塔のように

祖先の墓のように

二千年前の城壁のひとつのように

きみが祈願して

名を書いた柱のように

誕生を祝った欅のように

なにも言わずに

脚を失いたおれた


俎板の上

野菜の根の絡み

肉の筋のすきま

刀が撹拌する

野菜市場と精肉工場で

探すしあわせ

三つに分けた人類

つくる人と食べる人と飢える人

美しい曲線で

爆弾のリズミカルな破線で

ピアノのキーボードの動きで

切断する


洗ったばかりの白いシーツに

写しとる

死体の欲望と

波が砕ける海岸線

穴だらけの寝室

欠けている地球

表れるのは

わたしが愛していた

女性の緑の眼

バナナの葉に並んだカラフルな食事

あなたを最後に包んだ白木綿


静寂の地で

遠い人々の叫びは

音にならない

絶望でたおれる子供の表情は

風にならない


染めたばかりの国旗のような

ケーキを切り分ける

歴史にそって

食事の後

真っ白いクリームを塗る

そしてキス

人類の美しさをほおばる

老女がひとり

オリーブ色の眼球をつまんで

海の底へ去る


鳥が

海面から飛びだし

最初の声をひびかせる

それはまもなくだろうか









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トマト三個と命ひとつ
スーパーに並んでいる
歴史は
影を忘れる
ひとは罪を忘れる
籠に
首二個
足首四個
言葉をひとつ
清算が終わると死者を忘れる

食べるのでいっぱい
俯いて恥ずかしげにほおばる
殺意と欲望を忘れるだろうか

手首に釘
足首に釘
頭に北回帰線の棘
背骨を削られた
かれの前では
人類は
骨と黒い輪郭と欲望でできている
同じ形に
同じ深さに

籠に
枯れた無花果
パン一欠片
にがいワイン一本
明日は世界が真っ赤だろう

「いくら科学技術が発達しても、人間の魂、精神が発達するわけではありません。むしろ、人間の精神というものは悪くなっていくものだという考え方もあるのです」

ケーキは崩れ
銀杏に葉はない
トマトをならべる
首を置く
凍る夜がくる
雨が降る
罪を海へ流すために

キスする
きみの首の傷に
おめでとう
愛してる
メリークリスマス
傷を知らないきみに

真っ赤な熱と血の
わたしの咽喉で響く
メリークリスマス
夜明けに
きみは凍りくだけて
きらきら降っている










あのひとはあなたに触れようとした

動かなくなった手で

くちづけしようとした

あなたの血色の痰を

吸いだそうと


はげしく

払いのけたあなたは

手に手形の傷をもっている

頬を歯形に彫られている


あなたは愛しただろうか

あなたが壊した

完全なあなたを


まだ言えるだろうか

誰かに

愛してると

あなたは壊すだろう


あなたの横に

あのひとが横たわり

あなたが

あのひとに触れ

くちづけする

あなたの最後の日

あなたは壊れる自分に

ほほえみ

眠る





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朝 わたしのとなりはびっしょり濡れている
ベッドからのびるのは
青い歴史の時間
ユーリーは
イルカのように
星を叩き飛んでいった
あたたかい水のながれる
ふるさとへ

あおい筋の
カレンダーを織ってもどして
きみのほそい今日の呼吸を
深く吸う
藍色の星の
いのち

わたしは要らないのか
もういちど訊く
わたしは要らないのか

海が泣いている
だれにも読めない
あなたとわたしの罪
風の音は
罪のふるえ
きみが体験しなかった望み
わたしが自覚しなかった望み
海のふるえが聞こえる
深い底から

きみの姿が揺れる
ひかりはさらさら降る
毛の花弁のように

ひかりがあふれる時
わたしは読む
ながれるような
ユーリーの指を溶かした
輝く銀色のインクで書かれている
ユーリーからの手紙
わたしはユーリーのメロディに合わせうたう
歪に列んだ足跡のように
ユーリーの
軌跡を追っていく
上へと上へと
ゆれる泡のあいだを

羊は死んでくれた
ユーリーは言った
もう闇は来ない

あの羊はユーリーかもしれない











ユーリーの包帯の上下は

汗ばんでいた

白く、青く、ピンクに

ユーリーのふるさと

南太平洋の砂浜のように

青いシーツは

ひかり、反射している

ユーリーの過去の恋

誰も握らない指


ユーリーの胸から取られた

肉のかたまりは

わたしだけが見た

ユーリーの恋人も

小さな子どもも見なかった

銀色の皿で

それは語っていた

わたしはユーリーと生きた

ユーリーはわたしと生きた

真っ黒な長い夜と

だれも聞かない呻きと

スコールのような

涙の日々を


ユーリーの夢

ひとつ残った

わたしと車で日本を何年も

走ること

ベッドから一歩のところで

ユーリーは倒れた

握りしめた海を床にひろげて


わたしは近いうち

ユーリーのふるさとを訪ねるつもりだ

それはわたしも知らない

海から

白や、青や、ピンクの珊瑚の花が

ひろがるところ


ユーリーの名を呼ぶと

みんな開く

それを見ると

あなたは後悔するわよ

わたしとの別れを

ユーリーの

あおい眼は閉じていた




きみの肉体は

やぶれた皮膚ともろい骨

のびきったロープのような管でできている

小包み紐のような

四肢とかわいた内臓には

化石のような

蛇がかわいて

絡みついている

あるき始めて数千年

鳥を食べた

鼠を齧った

雪をしゃぶった


風を舐めた

低い音やビブラートで

あれは何年まえだ


背に女がぶら下がっている

乾いたまま

首には小さな腕が巻きついている


ときに光がまっすぐに

口から地へと通りぬける

そのとき

ガラスが共鳴する音がする

全身が震え

生きていることを思いだす


きみの足跡は濡れている

だれのかなしみが

滴り落ちているのか


眠りのなか

きみは長い記憶を摩り

涙がながれる

目のない顔をいくつも思いだす


それらはすでにきみの顔になっている


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まだ星が眠っている
歴史のなかを
光を背負う背
いたみを背負う背
涙を背負う背
時を背負う背
死を
ひらいたままの口を
音のない言葉を
さらさら砕ける音を
永遠につづく叫びを
そのあとの静かさを
なにかを見た眼を
背負う背が
遠ざかっていく

眼窩に
遠い星がひかる
地球ではない世界で
覚醒する
氏名がない
時計が示す時間は
はるかな過去の空白
誰の誕生日

星は
漂流する
誰もいない朝の青
過去はテーブルにこぼれたコーラ
未来は瓶ビール
記憶と肉体を
どこかに置いて来てしまった

きみはどこで
何のために存在しているのか
大声で質問する
返事するものはない
きみは誰だ
思い出すために
銀河のカーテンを開ける
誰のための水の星か
思い出すために
きみは何を必要としているのだろう

かすかに残る神経に
刺さった棘
ペンチで挟み
引き抜こうとするが
棘は
わたしの骨に溶け込んでいる
棘がきみの存在を確信させる
きみが雨になるまで
あとどのくらいだろう

背負う
その意味について思う
解答を得るために
きみは何を必要としているのだろう

きみの背負う棘に
触れる
手が見える
そんな朝がある