ストラディバリの内側をのぞいてみる! | 音楽 楽器 作曲の研究してます

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大学で先生しています。
作曲・編曲しています。
チェロを弾きます。

医療での利用としておなじみのCTスキャナ(computed tomography scanner)。

このCTスキャンですが、近年では工業の場で非破壊検査の一つの手法として用いられています。検査対象の見えない内部の傷や劣化を調べたりできます。

 

最近はそれをヴァイオリンに応用した研究が世界で行われています。

日本での実施例はかなり少ないですが、筆者らのチームではここ数年で4本のオールド・ヴァイオリンの測定を行いました。
3本のストラディバリ(1708,1719,1705年作、値段は…秘密!)とFA.グァルネリを1本。
楽器を提供していただけたのは株式会社文京楽器さん。楽器のオーナーさんにご理解いただき、楽器の個体識別は公表しないということで学術的に協力していただいています。たいへん有難いことです!
(これを期にどんどん学術研究に協力していただけるオーナーが現れることを祈りつつ・・・)
 (東京都産技研にて)

私たちのチームでは、CTスキャンのなかでも、特にマイクロレベルでスキャンできるmicro-CTスキャナを使っています。
でも、ヴァイオリン全体を撮影するとなると、サイズとカメラの距離の関係から0.1mmの精度が現状では限界。
ただ、実際問題としてそれ以上に高詳細にスキャンしても、コンピュータでは処理スピードやメモリの関係で解析が難しい現状でもあります。
※専門的にいうと、有限要素法で振動と音場を解く場合、計算する格子(メッシュ)サイズが10mm程度にしても
約100万要素になります。つまり100万オーダーの変数の連立方程式を解くということ。パソコンで数日かかります。
仮にコンサートホールサイズの空間を解くとなると、数十ギガのメッシュになりいまのスパコンでもかなり大変なのです。

有限要素法によるメッシュ生成の例。楽器も周りの空気も四面体で分割する

 

ストラドの楽器の中を見てみよう!
さて、何はともあれストラディヴァリをCTスキャンしたので、そのデータを専門業者に依頼して
CADデータ化したので動画をご覧ください。

 

楽器の外側から下へググっと潜っていきます。
なんか、どこかのビルの地下室みたいですね。(灰色だからか、茶色にすればよかった)

天井から床にまっすぐ立っている棒が魂柱(こんちゅ)というもので、上下の板の振動を伝える役目があります。
また、この柱は表板の振動の支点にもなっています(また後日、シミュレーション結果で説明します)。
家の大黒柱のようにつぶれないように支えるつっかえ棒ではありません。

つぎに、天井に縦に梁のように伸びてついている棒ですが、これはバスバーといいます。
ヴァイオリン本体の上側と下側に渡って振動を伝える役目を持っています。

さらに左上部の曲線状の穴はf字孔である。さらに、奥の壁にブロックが見えるが、そこには釘を打った跡が見える。これは当時の製作方法であるが、ネックを釘で固定していたことによる跡である。なお、CTスキャンしたデータは撮影時のノイズにより多くの断片やゴミを含んでいるので、図のように観察する前にCADソフト等を用いてそれらを取り除く必要がある。

なぜ、CTスキャン?
このようにCTスキャンを使うと魂柱やバスバーなどのパーツの形状の他に、木目やクラック(割れ)も詳細に観察できるのです。
これは本来の非破壊検査の目的と似ていますが、300年も経つオールド楽器の状態が見れると言えます。

(この写真はストラドではなく別の楽器)
ただ、所有者や楽器屋にとってはこの傷や痛みが明るみにでることで価値が下がるのでは、懸念されるかもしれません。
しかし、木材ですから300年もの間に損傷があるのは無理のないことです。むしろ、早めに問題を見つけて適切に補修することが
楽器にとっては重要だと考えます。ヴァイオリンにも修復師(restauro)という専門家たちがいます。

そして、CTスキャンによってポリゴンデータとしてコンピュータに取り込むことで、上の動画のように楽器本体の内部に視点をおいた観察も可能になります。
もう一つ、大事な理由がありまして、先ほどから述べている非破壊検査であるということが重要なのです。
非侵襲的解析とも言っていますが、いまや歴史的な文化財となっているイタリアのオールド楽器などは、
かつてのように分解してクラドニ法のような実験をすることはもちろん、
インパクトハンマなどによるコツンと楽器をたたいて応答をみる振動解析もすることなど、ほぼ許されない現状があるからです。
私がイタリアのヴァイオリン博物館内で研究していた時も、触れさせてもらえる機会すらありませんでした。
必要最低限でしか、演奏したり、計測したりすることはできないくらい、厳重に管理されています。

さて、今回はCTスキャンによるヴァイオリンの観察について書きましたが、
次回以降でスキャンを利用した研究結果などをいくつかご紹介していこうと思います。

 

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音楽と楽器の研究:

 

 

筆者(横山真男)のHP(楽譜のダウンロードもできる作品リスト

 

https://www.cello-maker.com/