ウィンナーワルツの3拍子の音響的特徴 | 音楽 楽器 作曲の研究してます

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大学で先生しています。
作曲・編曲しています。
チェロを弾きます。

クラシック音楽でもっとも有名なコンサートといえば、オーストリアのウィーンで元日に行われるニューイヤー・コンサートでしょう。
そのコンサートは世界中に中継され、日本でも多くのファンが楽しみにしている音楽イベントです。演奏はウィーン国立歌劇場(Wiener Staatsoper)の楽団員で構成されるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で、世界トップクラスのオーケストラです。

 

そのウィーン・フィルならではの独特な演奏として、ウィンナーワルツの3拍子のリズムの取り方があります。
ワルツの3拍子は1拍目がズン♩としっかりきて、チャッチャッ♩♩と軽く2,3拍目が続くのですが、

普通、だいたい同じ時間間隔で刻まれます。
ところが、ウィーン・フィルのウィンナーワルツでは、ちょっと違っていて、

2拍目のタイミングが前にずれこみ、独特のハネたノリを感じさせるリズムになります。

このタイミングの取り方はウィーンで学び育った音楽家にしかだせない絶妙なものとされています。

 

ウィーンフィルのYouTubeより 皇帝円舞曲

 

このウィンナーワルツ特有の2拍目のタイミングですが、クラシック音楽界ではウィーンっ子でなければこのタイミングは表現できないとされ、あたかもウィーン・フィルの専売特許のようになっています。
だから、我々のように非ウィーン人の演奏家が真似をしようとすると、ときにはそれがタブーのようにも扱われ、また、ウィーンの演奏家にとって自分たちの伝統的奏法であるという誇りがあり、そして、聴衆も、真似事ではなく本場の演奏を聞きたいという傾向があります。
(変な例えであるが、東京人が関西弁を真似てしゃべる…似非関西弁が関西人に嫌われる、のに似ているかも??)。

 

さらに難しいのは、実際にウィンナーワルツを注意深く聴けば分かるのですが、

2拍目のタイミングの詰まり具合は単純ではなく、ある癖があるようで

常に同じようなタイミングで前倒しになっているわけではなく、
旋律やフレーズ、オーケストレーション(楽器の重ね方)によっても変化しているようなのです。

 

専売的な音楽語法であるとはいえ、一方で、クラシック音楽がグローバル化し、

またインターネットやコンピュータが発達した現代において、
ウィンナーワルツが好きで演奏したいというプレイヤーがいたり、

コンピュータでワルツの音源を制作したいという要求があったりするわけです。
そのような時に、より実演奏らしい音源を表現できるようになるために、

伝統的奏法が少しでも解明されているとそのような表現の役に立つと思われます。

 

ならば!そのタイミングや音量など音響的な特徴を数値的に解析してみよう!というのが本研究の趣旨です。
この奏法や音響的な特徴が定量的・定性的にわかることで、ウィーンの伝統音楽がより理解できることのみならず、
ウィーン人でない音楽家がシュトラウスのワルツを演奏するときの指針になるというメリットがあります。

 

最近、ディジタルピアノやシンセサイザーなどにワルツを模擬したリズム機能がみられるようになりました。
でも、まだその質は十分とは言えず、そういった電子楽器への活用も期待できます。
また、電子楽器にプリセットされたMIDI音源やコンピュータによる自動作曲・自動編曲による音源が、

より本場の実演奏に近づき音質の向上が期待できますね。

 

だいぶ、前置きが長くなりましたが、この2拍目のタイミングや音量といった音響的特徴量について

実際のウィーン・フィルの演奏をもとに解析しました。

例としてFig.1に、Praatという音声解析アプリで、マゼール指揮の『美しき青きドナウ』の一節を解析している画像を載せます。
このように手作業でタイミングと音の強さ(インテンシティ)をチェックしていきます。

 

Fig. 1 Observation of timing and intensity by Praat

 

分析にはウィーン・フィルの録音音源(CD)を用いました。
CDは楽曲と指揮者はどれも有名なひと、ウィーンの指揮者として古くはクラウスとボスコフスキーから、
現代のアーノンクール、そしてウィーン人ではないですがウィーン・フィルとのつながりの深い指揮者からカラヤンとマゼールを選んでみました。
(いや、ウィーン・フィルの指揮者は他にももっといい奴いるだろ!とおっしゃる方もいるかもしれませんが…)
タイミングや音量(インテンシティ)の解析にはフリーの波形編集ソフトのAudacityや音声分析ソフトのPraatを用いています。

[List 1, Sample of Vienna waltz]
作曲家:曲名-指揮(録音年)
・ヨハン・シュトラウス2世:美しき青きドナウ
  カラヤン(1987)、マゼール(1982)、クラウス(1953)、ボスコフスキー(1957)
・ランナー:シェーンブルンのひとびと
  アーノンクール(2001)
・ヨハン・シュトラウス2世:ウィーンの森の物語
  カラヤン(1987)、マゼール(1982)
・ヨハン・シュトラウス2世:皇帝円舞曲
  マゼール(1982)

 

分析データのまとめについては次の記事です。(いつもながら、文字数制限で・・・)

学会発表の内容はこちら 「ウィンナーワルツのリズムの音響的特徴」

 

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音楽と楽器の研究:

 

 

筆者(横山真男)のHP(楽譜のダウンロードもできる作品リスト

 

https://www.cello-maker.com/