吉行さんの見た風景 | マサミのブログ Road to 42.195km

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私が古くからファンの作家、吉行淳之介さんが書いた文章の中に、次のような一節があります。

 

 

東京都内にも、好みの風景はいろいろあって、時折思い出すことがあるが、わざわざそこに出かけることはしない。たとえば、御茶ノ水の「山ノ上ホテル」の裏手に、路がしだいに細くなって突き当りに急勾配の長い石段がある。崩れかかったような古い石段が、目の前にそそり立つ感じになる。あるいは、いまは無くなったが、有楽町から東京駅への道の両側に、赤煉瓦の建物が並んでいるところも好きだった。

(略)

といって、古風な眺めばかりを好んでいるわけではない。赤坂溜池の近くに、見上げると高速道路が複雑に交差しているところがある。視線を少し下げると、舗装された広い下り坂が目に映る。そういう眺めも、なかなか良いものだ。(『街角の煙草屋までの旅』昭和50年11月)

 

 

この文章を読んで、私は「ははぁ」と思いました。「山ノ上ホテルの裏手の急な坂」と言ったらあそこしかないし、「赤坂溜池の近くの、高速道路が交差しているところ」と言ったら、あそこしかない。この2カ所は今でもあるはずだし、いつか行ってみようと思い続けていましたが、先月の下旬ごろ、続けて訪問して来ましたのでご覧ください。

 

 

 

JR御茶ノ水駅を降りて、駿河台下の交差点のほうへ向かいます。

 

 

山の上ホテルの看板を見つけたら、右へ曲がる。吉行さんは「山ノ上ホテル」と書いていますが、今は「山の上ホテル」のようですね。

 

 

この坂をのぼった突き当りが…

 

 

山の上ホテルです。この界隈は私の母校がある場所なので、このクラシックホテルの前を二十歳前後の私は何回通り過ぎたか分からないぐらい馴染みがあるのですが、いまだに一回も足を踏み入れたことがありません。ティールームぐらい、使ってみようかな。ちなみに、かつては多くの人気作家がここで「カンヅメ」になったそうです。

 

山の上ホテルを通り過ぎて坂を下ると、ちょっとした通りに出ます。

 

 

このあたりは猿楽町(さるがくちょう)というので、通りの名前も猿楽通り。私が学生だったころ、この通りには安いコピー屋さんがあって、試験の前になると、真面目に勉強していた友人のノートをコピーさせてもらったものです。1970年代の終わりごろ、まだ「コンビニのコピー機」というものは存在しませんでしたからねニコニコ。ここを進んで、途中で右を見ると…

 

 

明治大学付属明治高校(左の建物)の角の奥に、階段が見えてきます。行ってみましょう。

 

 

これです。坂の途中に碑が建っています。

 

 

この坂は「男坂」。

 

 

のぼりきって下を見ると、こんなふう。あまりにも急なので、坂を挟んだ二つの建物をつなぐ「空中廊下」が作られています。坂の両側の、石造りの「欄干」のようなものが、歴史を物語っているようです。

 

さて、「男坂」があるなら、「女坂」もあるのでは?と思いますよね。では、猿楽通りをもう少し進んでみましょう。

 

 

またまた、ビルとビルの間の路地の奥に階段が…

 

 

行ってみると、こういう階段です。「男坂」より短く見えますが、途中に踊り場がふたつあって、3段のジグザクになっているんです。この写真で見えるのはいちばん下の段。

 

 

上から見下ろすとこんなふう。

 

 

坂のてっぺんに碑が建っています。こちらが「女坂」。もともと、坂の上の「駿河台」と、坂の下の「猿楽町」は急な崖で分断されていましたが、1923(大正12)年の関東大震災の後、復興を進めるために駿河台と猿楽町を結ぶ通路として、ふたつの坂が作られたそうです。

よく、神社の参道などで、直線で急な「男坂」と、曲線でゆるやかな「女坂」があったりしますよね? 都内だと湯島天神とか、鎌倉だと瑞泉寺にあるのを私も知っています。でもここの「男坂・女坂」は神社仏閣とは何の関係もなく、一般的な地名としてつけられているのはとても珍しく、都内ではここだけらしいです。

 

 

ね?地図にも載っています。吉行さんが「目の前にそそり立つ感じ」と言っているのはどちらのことかちょっと分かりませんが、おそらく、小説の執筆のために山の上ホテルにカンヅメになっていて、気晴らしにぶらりと散歩するうちに偶然見つけたんだろうなと思います。今はビルだらけになってしまったけど、当時はどんな風景が吉行さんの瞳に映ったのかなと想像すると、楽しくなりました。

 

 

男坂・女坂を久しぶりに歩いた帰りに、こちらでちょっと休憩を。

 

 

画材屋さんとして有名な「レモン」。お茶の水かいわいで青春時代を過ごした人間にとっては、この店名とロゴを見るだけで、甘酸っぱい、ムズムズした思いが湧き上がってきます。ああ、懐かしい。

 

 

カウンターでレモンケーキとノンアルコールビール。楽しい散歩が出来ました。実はこの日は「えっ!こんな場所にこんな建物が!」と驚くような発見がいくつかあったので、またいつか再訪するつもりです。こんなふうに「いつか行きたい場所」が増えていくのは楽しいですね~。ある意味、私の「生きるエネルギー源」になっているような気がする。

 

 

―――

 

 

 

続いて、吉行さんが見た「溜池の近くの、高速道路が複雑に交差しているところ」へ、日をあらためて向かいました。

 

 

地下鉄日比谷線の六本木駅で降りて、六本木ヒルズとは反対に、溜池のほうへ進みます。

 

 

かつては都電が走っていた通りの真上を高速道路が走る。向こうに見える高いビルは、泉ガーデン、赤坂アークヒルズなど。

 

 

どんどん行くと、高速道路は、吉行さんの言うように複雑に分岐・交差・合流しています。ここは首都高速道路の谷町ジャンクション。

 

 

谷町ジャンクションを上空から見た画像を、ネットからお借りしました。私が撮った動画↓を見て頂けますか?

 

 

道路が「3階建て」になっていて、確かに、とても複雑です。そして吉行さんが書いているように「視線を少し下げると、舗装された広い下り坂が目に映る」んですよね。六本木から溜池方面へは、ずっと下りですから。吉行さんの文章に「六本木」が出てくるのはちょっと見たことが無いのですが、どういうきっかけで吉行さんがこのあたりを歩いたんだろう?と考えてみるのも面白いです。

 

吉行さんが小説やエッセイの舞台として書いている場所、これからも折に触れて訪問してみるつもりです。どうぞお楽しみに。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

谷町ジャンクションを解説する車載映像がYouTubeにあったのでご覧ください。私はクルマを持っていた頃は何度となく通った場所なので、とても懐かしいです! 今でも基本は変わっていないはずです。

 

 

私が20代の前半、まだ自分のクルマを持っていない当時は、友人のクルマに乗せてもらって関越や東北方面へスキーに行きました。その行き帰りにこういう首都高速を通過するんですけど、上の動画のように、車線変更、合流、また車線変更、合流…の繰り返しなんです。その合流も、右からだったり左からだったり。私は助手席や後部座席から周りを見ながら「俺はこんなところ走れないなぁ、怖いよ、絶対に無理!」と思ったものでした。

でも、自分でクルマを所有して首都高を走るようになると、意外なほど、すぐに慣れてしまいましたね。とにかく「行き先表示を良く見る」のと、できれば「事前に予習する」ことを心得れば大丈夫です。(とはいえ、GWなんかで慣れない人がいきなり混雑する首都高を生まれて初めて運転するのは、緊張するでしょうね。実際、年末年始・GW・お盆の首都高は危ない。私も、走らないで済むなら走りたくないですもん)