「ただいま」
雅紀の涙を拭った手を握りしめた。
あんな事しちゃうなんて。
「あれ?母さんは?」
「奥様は明日にお戻りの予定ですよ」
ま、いつもの事だから。
1人で食事をとった。
今日一日、凄く心が動いた。
教室では、強引に近づいてきた。
太陽の様な笑顔で。
チャラチャラした微笑みで。
なのに。
今日は、苦しそうに笑ってるから。
男のくせに、涙を流すから。
戸惑うことばかりで、胸が苦しい。
明日、
明日、雅紀が温室に来る。
いっそのこと、全てを話してしまいたい。
話して、許しを乞う方が…。
いや、それは俺が救われるだけ。
自分が楽になりたいから、だけ。
「翔くん、おかえり」
智くんが入ってきた。
いとこ同志。
温室を挟んで向こう側に住んでるから、こうやってよくうちに来ていた。
「あの子と、出かけたの?」
「…出かけた」
「大丈夫だった?」
智くんは雅紀の事になると、こうやって聞く。
「大丈夫だよ」
「……大丈夫な顔、してないけど」
智くんはどこかぼーっとしている様で、実はもの凄い観察力を持っている。
「あ、頼まれてた薔薇、そろそろ元気になってくと思うよ」
ふふふって笑う。
いつも、のらりくらりと話をかわされていくんだ。
「智くん」
「んー?」
こうなったら何言っても無駄かも。
「翔くん、穏やかだけど泣きそうな顔してる」
えっ?
えっ?
と、口をパクパクさせた。
「相葉って子でさ。あの遊び仲間だち。賭けしてるみたいだよ?」
「賭け?」
うん、と頷く。
「大丈夫?」
な訳ない。
俺が雅紀にした事。
変わらねえ。
“指定の子に声をかけてるみたいだよ?”って。
やっぱりか。
裏があるって思った。
「心配してるんだよ?」
「智くん」
「ん?」
「明日、雅紀、温室に招待したんだ」
「は?なに言ってんの?」
「それでもいいんだ。あの子の笑顔が見れれば」
「翔くん…だってさ。人を好きになった事、ないくせに」
強い智くんの目に、少し動揺した自分がいた。
つづく