川口能活さん(Jリーグゴールキーパー日本代表選手) | まさきせいの奇縁まんだらだら

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原因不明の「声が出ない症候群」に見舞われ、声の仕事ができない中で、人と出会い、本と出会い、言葉と出会い、不思議と出会い…

瀬戸内寂聴さんの『奇縁まんだら』というご本を真似て、私の「ご縁」を書いてみようと思います。

川口選手が引退...今夏のワールドカップロシア大会で、テレビで久しぶりに姿を拝見して、とっくに引退されたものとばかり思っていたら、まだ現役でがんばっていらしたらしい。この度の引退報道を受けて、川口メモリーが走馬燈のように蘇った。
 
私は、川口選手がキライだった。
 
正確には、川口選手のような存在を作ってしまうJリーグがキライだった。川口選手は、Jリーグの申し子のような存在で、Jリーグが発足して最高の人気を誇っていた時期に、一番若い注目選手だった。
 
ギリシャ彫刻のような整ったマスク、キーパーならではの高い身長、恵まれた身体能力で、弱冠20才で横浜マリノス(当時)の正キーパーに抜擢された、輝くばかりの逸材。人気が出ない方がおかしい。
 
それは、マリノスとフリューゲルスが合併してFマリノスになる、と発表された直後の、マリノスファン感謝イベントだった。メインMCは解説者の水沼貴史さん。
 
サブで呼ばれた私は、MC打ち合わせで、サッカー界の毒のあるイヤミを言って、水沼さんを困惑させた。申し訳無かったと思うが、それほどJリーグがキライになりつつあったんだ。
 
マリノスの選手は若手から3名。川口選手が来ると告知されていたので、会場は女性ファンでぎゅうぎゅうの大賑わいだった。
 
ところが、集合時刻になっても、川口選手は現れない。それで、時間が余って、水沼さんに余計なことを言ってしまったわけだけど、応接ルームにやっと現れた川口選手を交えて、何を話題にして、何はNGか、などを打ち合わせようとしたら、
 
「決めて話すの、俺キライなんだよね」と拒否。しょうがないので、他の2名の選手と雑談形式で打ち合わせていたら、楽しそうに見えたのか話題に入ってきて、彼が入ってくれば、他の若手選手は遠慮して、口をつぐんでしまう。
 
そうすると、川口選手の独壇場なんだけど、話すだけ話して、尻切れトンボ。川口選手が話してる間は、応接ルームにいる全員が、一応でも聞いてるフリでシーンとしてる中、もうその話題に戻ることはできず、場は沈滞ムード。
 
そうすると、マリノスのエライ人が何やらヨイショを入れる。すると、川口選手の何やら自慢話が展開される。まあ、それも、本番での参考にはなるのでいいんだけど、ヨイショされるのは川口選手だけ。他の選手は、立つ瀬無い。
 
水沼さんが、苦笑いしながら、話を戻してくれるけど、そんなことの繰り返し。それで時間になってしまって、結局ほとんど身のある話は引き出せなかった。
 
川口選手が遅刻した理由というのが、当時乗っていた外車のスポーツカーが、会場の駐車場に入る際、底を擦ってしまったとかなんとか。それで遅れた上、超ご機嫌斜めだったんだね。
 
まあでも本番は、水沼さんやエライ人のヨイショや、会場に詰めかけたファンの多さに、ご機嫌が戻ってイベントは難なく終了。(チャリティオークションで「川口選手とお食事権」とかあって、相当の金額になったりなんかして)
 
こうして川口選手は、磯野貴理子さん以来の『私の、残念だった人』になり、若い優秀な選手をこんな風にしてしまったJリーグが、私は大キライになった。
 
川口選手ばかりじゃない。マリノスだけじゃなく、ヴェルディも相当、選手に気を遣っていて、でもその気遣いが、なんとなく違うような気がして、正直端で見ていて、「選手を人間としてダメにしちゃうんじゃないかな・・・」なんて、エラソーにも心配していた。
 
ある程度の年齢になっていればいいのだけど、川口選手は若すぎたと思う。ヴェルディの若い選手も、気を遣われた人ほど出てきていないように思う。
 
それから、時は流れ。。。どの試合だったか、テレビで川口選手を見たら、なんだか「イイ兄貴」になっていた。いろいろもろもろあれやこれや、相当の苦労をして辛酸をなめて、大人になったのかな。私も懐かしく思える程度にオバサンになった。
 
先日の引退記者会見で、「自分のためにこんなに大勢の人が集まってくれて、今がサッカー人生で一番幸せかもしれない」と涙ぐんでいた川口選手。多く、感謝という言葉を口にしていた。
 
どんなに傍若無人に振る舞っても、成績さえ良ければ、チヤホヤされた若き日々。
優秀な後輩が、かつての自分がそうだったように、先輩である自分を追い抜いた日。
成績が振るわなくなり、周りに誰もいなくなったと気づいた日。
 
どんなタイミングで、何がきっかけで、人間になれたかは想像もつかない。私自身、自分が人間になれた日を、ちゃんと説明するのは難しい。だけど、私にあったことが、他の誰かに無いとは限らない。川口選手にもあったのだと思う。
 
感謝などという言葉とあれほど縁遠かった若者が、今、たくさんの感謝を胸に抱いて、ステージを降りる。ああ、なんだか良かったなあ、と思う。
 
川口選手は、年相応のイケメンを取り戻し、とてもいい顔をしていた。きっと中身も素敵なオジサンになっていることと思う。
 
これからは新しい目で、新しい川口能活さんを見たいと思う。人生はまだまだ半ば。還暦にもほど遠い。新しい花を咲かせて見せてくれることを、楽しみにしていよう。
 
がんばれーっ川口能活!!
ひとまずの、お疲れ様でした!