万葉集から
遠江守桜井王が聖武天皇に奉る歌
桜井王は、大原桜井、後に大原真人の氏姓を与えられる
九月の その初雁の 使ひにも
思ふ心は 聞え来ぬかも
ながつきの そのはつかりの つかひにも
おもふこころは きこえこぬかも
長月のその初雁の使いに思う心は聞こえない
「雁の使ひ」は、勅使による手紙、便り
別の詠みをすれば
「ながつきの」は「長付きの」
「そのはつかりの」は「その果つ離りの」
「つかひにも」は「使ひにも」
「おもふこころは」は「思ふ心は」
「きこえこぬかも」は「儀越え来ぬかも」
長く都から離れたて遠江国の国司をしていたが、ようやく終わるという使いに、官僚的な事務をされただけだ、というのだろう
聖武天皇が報和えた歌
大の浦の その長浜に 寄する波
寛けく君を 思ふこの頃
(大の浦は、遠江国の海浜の名なり)
おほのうらの そのながはまに よするなみ
ゆたけくきみを おもふこのごろ
大の浦の長浜に寄せる波のように頼もしい君を思うこの頃
別の詠みをすれば
「おほのうらの」は「大の心の」
「そのながはまに」は「その長は間に」
「よするなみ」は「世する汝身」
「ゆたけくきみを」は「寛けく君を」
「おもふこのごろ」は「思ふこの頃」
聖武は長い間ご苦労だったと桜井王に感謝を述べている