万葉集から



安倍朝臣虫麿の月の歌


雨隠る 三笠の山を 高みかも

月の出で来ぬ 夜は降ちつつ


あまこもる みかさのやまを たかみかも

つきのいでこぬ よはくたちつつ


雨に隠れる、三笠の山が高く月が出てこない夜は更けてゆく


別の詠みをすれば


「あまこもる」は「吾は籠る」

「みかさのやまを」は「み傘の山を」

「たかみかも」は「高見かも」

「つきのいでこぬ」は「次の出で来ぬ」

「よはくたちつつ」は「夜は降ちつつ」


雨降りだから、籠もっている

傘の山を高い処から見ていると、

傘が出て来なくなった

夜になり、雨が衰えてきた



大伴坂上郎女の月の歌、三首


犭葛高の 高円山を 高みかも

出で来る月の 遅く照るらむ


かりたかの たかまどやまを たかみかも

いでくるつきの おそくてるらむ


犭葛高の高円山が高いから、出てくる月が遅く照るのだろう


別の詠みをすれば


「かりたかの」

「たかまどやまを」

「たかみかも」

「いでくるつきの」

「おそくてるらむ」


一句、二句、三句には、どれも「高(たか)」を含む

だから、「たか」が鍵となる言葉のようだ


「かりたかの」は「狩り鷹の」

「たかまどやまを」は「高円山の」

「たかみかも」は「高みかも」

「いでくるつきの」は「出で来る突きの」

「おそくてるらむ」は「襲来出るらむ」



ぬばたまの 夜霧の立ちて おほほしく

照れる月夜の 見れば悲しさ


ぬばたまの よぎりのたちて おほほしく

てれるつくよの みればかなしさ


烏羽玉の夜霧が立ち込めぼんやりと照る月夜が悲しい


別の詠みをすれば


「ぬばたまの」は「寝ば魂の」

「よぎりのたちて」は「過りの立ち出」

「おほほしく」は「御火火敷く」

「てれるつくよの」は「照れる灯く夜の」

「みればかなしさ」は「見れば悲しさ」


人魂を見たのだろう



月の別の名を「ささらえ男」と言うという辞があり、縁って、この歌を詠んだ


山の端の ささらえ壮士 天の原

と渡る光 見らくしよしも


やまのはの ささらえをとこ あまのはら

とわたるひかり みらくしよしも


山の端に月(ささらえ男)、天の原を渡る光を見ると美しい


別の詠みをすれば


「やまのはの」

「ささらえをとこ」

「あまのはら」

「とわたるひかり」

「みらくしよしも」


「ささらえをとこ(細愛男)」は「つき(月)」なのだから


「やまのはの」は「山の端に」

「つき」は「付き」

「あまのはら」は「天の原」

「とわたるひかり」は「と渡る光」

「みらくしよしも」は「見らくし良しも」


「ささらえ男」を「月」に変えれば、「月」を「付き」と解釈し、月が消え、星だけが見えてくる


「ささらえ」は、細小のものが群がっている状態を表しているとも詠める

ならば、もともと、天の川を表していることにもなる


さらに


「やまのはの」は「弥今の葉の」

「ささらをとこ」は「細ら小と子」

「あまのはら」は「彼まの腹」

「とわたるひかり」は「と渡る光」

「みらくしよしも」は「見らくし良しも」


蛍が光っている姿が見えてくる



豊前国の娘子の月の歌

娘子の字は大宅


雲隠り 行方を無みと わが恋ふる

月をや君が 見まく欲りする


くもがくり ゆくへをなみ わがこふる

つきをやきみが みまくほりする


雲に隠れ行方が分からないと私が恋する月を君も見たいだろう


別の詠みをすれば


「くもがくり」は「蜘蛛隠り」

「ゆくへをなみ」は「行方を無み」

「わがこふる」は「輪が小振る」

「つきをやきみが」は「付きをや君が」

「みまくほりする」は「見まく欲りする」


蜘蛛を詠んでいる



湯原王の月の歌、二首


天に坐す 月読壮子 幣は為む

今夜の長さ 五百夜継ぎこそ


あまにます つくよみをとこ まひはせむ

こよひのながさ いほよつぎこそ


天に居る月読壮子、供え物をする、今夜の長さがいつまでも続くように


別の詠みをすれば


「あまにます」は「吾随意為」

「つくよみをとこ」は「付く黄泉を床」

「まひはせむ」は「舞馳せむ」

「こよひのながさ」は「来よ非の中さ」

「いほよつぎこそ」は「い寄生付きこそ」


やはり、この歌も、蜘蛛を詠んでいる



愛しきやし ま近き里の 君来むと

大のびにかも 月の照りたる


はしきやし まちかきさとの きみこむと

おほのびにかも つきのてりたる


愛しく近くの里に君が来ると、大いに伸びやかに月が照る


別の詠みをすれば


「はしきやし」

「まちかきさとの」

「きみこむと」

「おほのびにかも」

「つきのてりたる」


一句の「はしきやし」を「端来やし」と解釈し、歌の端を詠む


「はしきやし」は「愛しきやし」

「ま□□□さとの」は「ま颯と退」

「き□□□と」は「きと」

「お□□□にかも」は「鬼かも」

「つきのてりたる」は「突きの出りたる」


多分、これは、「追儺(つひな、おにやらひ)」

この行事は、大晦日に、宮中で、悪鬼を追い払い災難を除く儀式

鬼に扮した舎人を殿上人が桃の弓、葦の矢、桃の杖で追いかける



藤原八束朝臣の月の歌


待ちかてに わがする月は いもが着る

三笠の山に 隠りてありけり


まちかてに わがするつきは いもがきる

みさかのやまに こもりてありけり


待ちかねて、私が思うに、月は三笠の山を着て籠もっている


別の詠みをすれば


「まちかてに」は「」

「わがするつきは」は「」

「いもがきる」は「」

「みさかのやまに」は「」

「こもりてありけり」は「」


四句の「三笠の山に」なので、文字数が多い三つ句のみを詠めば


「わがするつきは」は「若する月は」

「みさかのやまに」は「三笠の山に」

「こもりてありけり」は「籠もりてありけり」


「若する月」は、「若月」で「新月(しんげつ)、朔(さく)」や「三日月(みかづき)」のこと


「三笠の山」は、春日大社の東方にある山のこと、「蓋、衣笠(きぬがさ)」を伏せた形の山また、「み笠(みかさ)」は、天皇に差し掛けるものでもあるので、天皇の警護にあたる近衛府の高官を意味することもある

「衣笠(きぬがさ)」は、仏像の上にかざす「天蓋(てんがい)」のことでもある


言葉遊びになるが

「三日月」は「みかづき」で「三か付き」

「三笠の山」には「三」が付いている

だから、「三笠の山」には、若月である「三日月」が籠もっているのだ