万葉集から


神亀五年十一月に、大宰府の役人らが香椎宮に詣でた帰りに、馬を香椎の浦に停めて、詠んだ歌


香椎は今の福岡の香椎にあった宮、その昔、仲哀や神功や武内宿禰らが、韓国への出兵の際に都とした処


養老七年に、神功の神託があり、神亀元年十二月に、新しい廟が創建され、以前からの廟と併せて二廟となった

仲哀や神功の霊廟として、祖先を祀る神社の性格を持つ



帥大伴卿の歌


いざ子ども 香椎の潟に 白妙の

袖さへぬれて 朝菜摘みてむ


いざこども かしひのかたに しろたへの

そでさへぬれて あさなつみてむ


さあ諸君、香椎潟に白妙の袖も濡しても朝菜を摘もう


別の詠みをすれば

 

「いざこども」は「異さ事も」

「かしひのかたに」は「賀鴟尾の形に」

「しろたへの」は「城た上の」

「そでさへぬれて」は「袖障へぬれ出」、左右に張り出した(袖)、妨げになる(障へ)、出っ張った(出)部分

「あさなつみてむ」は「吾泥みてむ」


香椎宮の屋根の上の鴟尾を初めて見て、驚いたのだ


「鴟尾(しび)」は、瓦葺屋根の大棟の両端の飾り
魚が水面から飛び上がり尾を出した姿から屋根の下を水の下と見立てたもので、火除けの願いが込められている
飛鳥時代に、大陸から伝えられたとされる


大弐小野老朝臣の歌


時つ風 吹くべくなりぬ 香椎潟

潮干の浦に 玉藻刈りてな


ときつかぜ ふくべくなりぬ かしひかた

しほひのうらに たまもかりてな


いつもの風が吹く時、香椎潟の潮干の浦に玉藻を刈りたい


別の詠みをすれば


「ときつかぜ」は「時つ風」時の流れと、「外築つか背」外の建築の背の部分


「ふくべくなりぬ」は「吹くべくなりぬ」と「葺くべくなりぬ」の掛詞


「かしひかた」は「賀鴟尾形」、祝の鴟尾の形は


「しほひのうらに」は「強ほ火の占に」、火除けの占い


「たまもかりてな」は「霊も借りてな」、祖先の霊力も借りる


中国からの影響を受ける時代の流れか、屋根に葺く鴟尾は、火除けの呪いで、祖先の霊力を借りる



豊前守宇努首男人の歌


行き帰り 常にわが見し 香椎潟

明日ゆ後には 見む縁も無し


ゆきかへり つねにわがみし かしひかた

あすゆのちには みむよしもなし


行きも帰りも、いつも私が見た香椎潟、明日からは見るすべがない


別の詠みをすれば


「ゆきかへり」は「行き還り」、反っている

「つねにわがみし」は「付寝に別か身し」、二つに別れている

「かしひかた」は「賀鴟尾形」、鴟尾の形

「あすゆのちには」は「明日ゆ後には」

「みむよしもなし」は「見む止しも無し」、必ず目に入る



全ての歌に、「香椎(の)潟」が詠まれている

「か鴟尾(の)形」が、日本にもたらされた最初の建築物が、この香椎宮なのかもしれない