万葉集の歌から


太宰師大伴卿が酒を讃える歌、十三首



一首目


験なき 物を思はずは 一坏の

濁れる酒を 飲むべくあるらし


しるしなき ものをおもはずは ひとつきの

にごれるさけを のむべくあるらし


効果の無い物思いをする位なら、一拝の濁酒を飲め


別の詠みをすれば


三句、四句、五句は、

「ひとつきの」は「一月」と、一月の間

「にごれるさけを」は「濁れる避け」と、煩悩を避け

「のむべくあるらし」ほ「祈むべくあるらし」と、祈れ

と、一月の間、慎み祈れ


歌の沓冠は、「しもにひの、きはのをし」から「死喪に日の、期は之押す」

つまり、喪に服す期間として一月を推奨する



二首目


酒の名を 聖と負せし 古の

大き聖の 言のよろしき


さけのなを ひじりとおはせし いにしへの

おほきひじりの ことのよろしき


酒を聖と呼んだ昔の大聖人の良い命名


「聖(ひじり)」は「日+知り」で、太陽

でも、「非+知り」なら、非を知ることでもある


歌の中の「いにしへの」を「居にし上の」と解釈し、

歌の冠は、「さひいおこ」から「然「ひ」異御処」となるから、「ひ」の意味を変えて解釈するのだ



三首目


古の 七の賢しき 人どもも

欲りせしものは 酒にしあるらし


いにしへの ななのさかしき ひとどもも

ほりせしものは さけにしあるらし


昔の七賢人も酒を好んだらしい


これは中国の故事、魏晋の時代の竹林の七賢人を踏まえている


別の詠みをすれば


「いにしへの」は、「居にし上の」

「ななのさかしき」は、「七の賢敷き」

「ひとどもも」は、「一処百」

「ほりせしものは」は、「欲りせし者は」

「さけにしあるらし」は、「割けにあるらし」


歌の上から詠めば

「いなひほり、になどりけ、しのどせに、へさもしし、のかももあ、しのる、きばらし」

から

「斎な日、惚りに辿りけし長閑せに屁、さもしし、退かもも、悪し告る、気晴らし」

となる


祭祀の酒を飲み、かなり酔っていて、呆けていて、家に辿り着いたが、長閑に屁をして、すぐに退いたのに、臭いからと罵り、気を晴らした


今も昔も、偉くてもそうでなくても、酔えばこんなもの



四首目


賢しみと 物いふよりは 酒のみて

酔泣きするし まさりたるらし


さかしみと ものいふよりは さけのみて

ゑひなきする まさりたるらし


賢いと物を言うよりも酒を飲んで酔泣きするほうが良い


別の詠みをすれば


一句は「さかしみと」だから「逆し見と」と解釈し


「さかしみと」を「とみしかさ」

「ものいふよりは」を「はりよふいのも」

「さけのみて」は「てみのけさ」

「ゑひなきするし」は「しるすきなひゑ」

「まさりたるらし」は「しらるたりさま」


逆さに詠めば


「とみしかさ」と「富し嵩」と、量が増え

「はりよふいのも」は「罵り酔ふ異飲も」と、騒ぎ酔いまた飲み

「てみのけさ」は「出みの酒」

「しるすきなひゑ」は「知る好きな冷え」

「しらるたりさま」は「知らる足り様」


増々、量が増え、騒ぎ、酔が廻り、それでも飲み、好きな冷酒を十分に飲んだ



五首目


言はむすべ せむすべ知らず 極まりて

貴きものは 酒にしあるらし


いはむすべ せむすべしらず きはまりて

たふときものは さけにしあるらし


言うよりも仕様もなく極まって貴いものは酒らしい


一句から「際結べ」だから、端の文字を結んで


「きはむすべ」は「きべ」

「せむすべしらず」は「せじ」

「きはまりて」は「きて」

「たふときものは」は「たは」

「さけにしあるらし」は「さし」


繋げると、「きべ、せじ、きて、たは、さし」から「消へせじ、来てたは差し」となる


飲み干す前に注がれるのだ



六首目


なかなかに 人とあらずは 酒壺に

成りにてしかも 酒に染みなむ


なかなかに ひととあらずは さかつぼに

なりにてしかも さけにしみなむ


中途半端に人でいるよりは、酒壺になって酒に染みていたい


別の詠みをすれば


一句は「中中に」なので、中の文字

二句は「一とあらずは」だから、一文字だけではない


なか「な」かに 

ひと「とあら」ずは 

さか「つ」ぼに

なり「にてし」かも 

さけ「にしみ」なむ


中の文字は「な、とあら、つ、にてし、にしみ」から「汝と吾ら、対にて為に沁み」となる

相対で飲み始めた



七首目は、前に解析したものを再掲載


あな醜 賢しらをすと 酒飲まぬ

人をよく見れば 猿にかも似る


あなみにく さかしらをすと さけのまぬ

ひとをよくみれば さるにかもにる


何と醜い、利口ぶり酒を飲まない人をよく見れば猿に似ている


酒を飲んでいるのなら、赤ら顔が猿に似ていると言ってもよいだろうが、酒を飲んでいない人が猿に似ている理由は何だろう


別の詠みをすれば


「あなみにく」は、「あな見に苦」

「さかしらをすと」は、「逆しら緒為と」

「さけのまぬ」は、「避け「のぬま」」

「ひとをよくみれば」は、「一緒よく見れば」

「さるにかもにる」は、「猿にかも似る」


この歌は、一緒(歌)を逆さによく見ろと言い、
しかも「の」と「ま」と「ぬ」を避けろ、と指示している
つまり
歌を逆さにして、「のまぬ」を避ければ

「くにみなあ」

「とすをらしかさ」

「□□□けさ」

「はれみくよをとひ」

「るにもかにるさ」


となる
これを詠んでいく

「くにみなあ」は、「句に見、汝吾」と、句を見る君と私


「とすをらしかさ」は、「閉ず、居らじか「さ」」と、「さ」が居ないので除け、となる


「□□□けさ」は、「さ」を除き「□□□け□」となり、「け」が残る、「け」は、「毛」だろう


「はれみくよをとひ」は、「貼れ「み」句、世を問ひ」となる


「るにもかにるさ」に、「み」を加え、「みるにもかにるさ」となり、「見るにも彼似るさ」と問いかけている

この「彼」は、「猿」のこと

何を見るのかといえば、この歌の三句の「毛」だ


歌は、「毛」を見るにも彼(猿)に似ると言っているのだから、毛深い人を猿に似ていると詠んでいる


歌を丹念に詠み解けば、答えが分かるように詠んでいる



八首目


価無き 宝といふてとも 一坏の

濁れる酒に あに益さめやも


あたひなき たからといふとも ひとつきの

にごれるさけに あにまさめやも


価値をつけられない程の宝といっても、一杯の濁酒に勝るものか


別の詠みをすれば


「あたひなき」は「当た非なき」と、目にする欠点の無い

「たからといふとも」は「宝と言ふとも」と、宝と言っても

「ひとつきの」は「一月の」

「にごれるさけに」は「丹来れる割けに」

「あにまさめやも」は「吾にま醒めやも」


飲んでいる最中に、月蝕がおきて、目が覚めた



九首目


夜光る 玉といふとも 酒飲みて

情をやるに あに若かめやも


よるひかる たまといふとも さけのみて

こころをやるに あにしかめやも


夜に光る玉といっても、酒を飲んで憂さを晴らすには及ばない


別の詠みをすれば


「夜光る」「玉と言ふとも」「割けの身」「心を遣るに」「あに然む」


月(夜光る珠)が割けるのを見て心を遣るのは自然なことだ



十首目


世のなかの 遊びの道に 涼しくは

酔泣きするに あるべくあるらし


よのなかの あそばのみちに すすしくは

ゑひなきするに あるべくあるらし


世の雅の道に励むより、酔泣きする方が良い


別の詠みをすれば


「よのなかの」

「あそびのみちに」

「すすしくは」は「数珠敷くは」と、念珠の様に煩悩を除き

「ゑひなきするに」は「酔ひ無きするに」と、夢中になって我を忘れること無しに

「あるべくあるらし」は「有るべく有るらし」と、有る様に有ること


雅の道を極めるには、煩悩を除き、我を忘れずに、有るべき姿に有ること



十一首目


この世にし 楽しくあらば 来む生には

虫に鳥にも われはなりなむ


このよにし たのしくあらば こむよには

むしにとりにも われはなりなむ


この世で楽しく暮らせたら、来世には虫や鳥になってもよい


別の詠みをすれば


一句、二句、三句から

「この余に為」

「他の敷くあらば」

「来むよに葉」

と、余りの言葉の他を詠むのだから


「このよにし」は「この余にし」と、この私がすること

「たのしくあ□□」は「楽しく、彼」と、友と楽しく

「こむよには」は、「籠む余には」と、太宰府に閉じ込められた私には

「むしにとり□□」は「生しにと理」と、生きることが正しいと思う信念

「われはなり□□」は「我はなり」と、私はなる


太宰府に閉じ込められても、生きることが私だと詠んでいる


十二首目


生ける者 つひにも死ぬる ものにあれば

この世なる間は 楽しくをあらな


いけるもの つひにもしぬる ものにあらば

このよなるまは たのしくをあらな


生きる者も最後には死ぬ者にあるのだから、この世に居る間は楽しくいたい


別の詠みをすれば


「いけるもの」は「い消る者」と、消える者

「つひにもしぬる」は「終にも死ぬる」と、終に死ぬ

「ものにあらば」は「喪のにあらば」と、災いにいる

「このよなるまは」は「この夜なる今は」と、暗闇の中の今は

「たのしくをあらな」は「他の四苦をあらな」と、四苦の外に有りたい


「四苦(しく)」は、生苦、老苦、病苦、死苦の四つの苦しみ


兎にも角にも、人生の最後の時に、苦しみたくない



十三首目


黙然をりて 賢しらするは 酒飲みて

酔泣きするに なほ若かずけり


もだをりて さかしらするは さけのみて

ゑひなきするは なほしかずけり


黙って賢い振りをするのは酒を飲み酔泣きするのには及ばない


別の詠みをすれば


「もだをりて」は「喪、手折りて」と、災を指折り数え

「さかしらするは」は「小頭するは」と、太宰府の長官をするのは

「さけのみて」は「避けの身で」と、京から避けられて

「ゑひなきするは」は「酔泣きするは」

「なほしかずけり」は「名欲しかりすけり」と、名前残したい


避けられて太宰府の長官をしているが、名を残したいから生きている



大伴旅人は、酒を詠んではいるもの、太宰府の様々な出来事や、人生の悲哀を詠んでいる

大伴旅人が、太宰府にいる間に、長屋王の変と自殺、大納言多治比池守の死去が続き、大納言に任じられて帰京するも、翌年に病死する