万葉集の歌から



笠朝臣金村の歌


高円の 野辺の秋萩 いたづらに

咲きか散るらむ 見る人無しに


たかまどの のべのあきはぎ いたづらに

さきかちるらむ みるひとなしに


高円の野辺の秋萩はただ咲き散る、見る人もないのに


高円は、志貴皇子の邸宅のあった処

亡くなり喪に服せば、人の出入りも、めっきりなくなる

秋萩が庭に植えられていて有名だったのだろう


別の詠みをすれば


「たかまどの」は、「誰が窓の」

「のべのあきはぎ」は、「伸べの秋萩」

「いたづらに」は、「い立つらに」

「さきかちるらむ」は、「小気が散るらむ」

「みるひとなしに」は、「見る人無しに」


秋萩が伸び放題になっていることが気になるに、侘しさを感じる



もう一首


三笠山 野辺行く道は こきだくも

繁り荒れたるか 久にあらなくに


みかさやま のべゆくみちは こきだくも

しげりあれたるか ひさにあらなくに


三笠山の野辺行く道は、こんなにも甚だしく繁り荒れたのか、久しく経ってもいないのに


別の詠みをすれば


「みかさやま」は、「三笠山」

「のべゆくみちは」は、「野辺行く道は」

「こきだくも」は、「子来抱くも」と、子を抱くも

「しげりあれたるか」は、「湿気りあれたるか」と、元気がない

「ひさにあらなくに」は、「非、然にあらなくに」と、困ったことだ、どうしようもないのに


親を失った子の気持を思いやる



少し違う歌も残されている


高円の 野辺の秋萩 な散りそね

君が形見に 見つつ思はむ


たかまどの のべにあきはぎ なちりそね

きみがかたみに みつつおもはむ


高円の野辺の秋萩よ、散るな、君の形見に見ながら偲ぶ


別の詠みをすれば


「たかまどの」は、「高円の」

「のべにあきはぎ」は、「延べの秋萩」

「なちりそね」は、「汝、散りそね」

「きみがかたみに」は、「君が傾た身に」

「みつつおもはむ」は、「実づつ思はむ」


花が散り、枝は傾き、実が付く、

次の世代への交代を予感させる



三笠山 野辺ゆ行く道 こきだくも

荒れにけるかも 久にあらなくに


みかさやま のべゆゆくみち こきだくも

あれにけるかも ひさにあらなくに


三笠山の野辺行く道は、こんなにも甚だしく荒れているだろうか、久しく経ってもいないのに


四句の

「しげりあれたるか」が「あれにけるかも」に代わっている

「あれにけるかも」は、子の気持が荒れること


気落ちする子、自棄になる子、

子もまちまち