万葉集から、安騎の野の歌


「あき(安騎、阿騎、吾城)の野」は、神武、天武、草壁皇子らが好んだ狩場

草壁皇子の子の軽皇子が狩りに訪れた時の歌



阿騎の野に 宿る旅人 打ち靡き

眠も寝らめやも 古思ふに


あきののに やどるたびびと うちなびき

いもねらめやも いにしへおもふに


阿騎野に野宿する旅人は、体を横たわらせても寝入ることができないだろう、昔のことに思いを馳せれば


別の詠みをすれば


「あきののに」は、「空きの之に」

「やどるたびびと」は、「宿る度、人」

「うちなびき」は、「中汝引き」

「いもねらめやも」は、「入も寝られやも」

「いにしへおもふに」は、「居にし辺思ふに」


この歌は、草壁皇子の霊が軽皇子(宿る人)に降りてきて来ていると気配を感じるだろうと詠んでいる



もう一首


ま草刈る 荒野にはあれど 黄葉の

過ぎにし君が 形見とそ来し


まくさかる あれのにはあれど もみぢばの

すぎにしきみが かたみとそこし


草を刈る荒野だけれど、黄葉ように去っていった君の形見にとして来た


別の詠みをすれば


「まくさかる」は、「設く離る」と、周囲から隔てて設置していることと、「設くさ借る」と、霊が体を借りる心構えでいることの掛詞

「あれのにはあれど」は、「現れ野には現れ処」と、霊が現れる処の野

「もみぢばの」は、「黄葉の」

「すぎにしきみが」は、「好きにし君が」

「かたみとそこし」は、「片見とそ来し」


黄葉を好きだった草壁皇子の霊が降りてきた時のために、黄葉を配して周囲から隔てた狩場になっているのだろう



さらに、もう一首


東の 野に炎の 立つ見えて

かへり見すれば 月傾きぬ


ひむかしの のにかぎろひの たつみえて

かへりみすれば つきかたぶきぬ


野の東の方に朝の光が差し込み、返り見れば、月が傾いている


別の詠みをすれば


「ひむかしの」は、「秘む貸しの」と、霊に体を貸して

「のにかぎろひの」は、「野に陽炎の」と、野に面影が

「たつみえて」は、「立つ見えて」

「かへりみすれば」は、「彼経り身すれば」と、時が経てば

「つきかたぶきぬ」は、「憑か形吹きぬ」と、霊が抜けてゆく


やはり、草壁皇子の霊が降りてきたことを詠んだもの


「かぎろひ」は「かげろふ」と同じ



さらにさらに、もう一首


日並 皇子の命の 馬並めて

御猟立たしし 時は来向かふ


「日並皇子」は、「草壁皇子」の別称


ひなみしの みこのみことの うまなめて

みかりたたしし ときはこむかふ


日並皇子(草壁皇子)が馬とともに狩りをする時がやってくる


別の詠みをすれば


「ひなみしの」は、「日汝見しの」と、明け方と、草壁皇子を見たことの掛詞

「みこのみことの」は、「皇子の皇子との」と、皇子の中の皇子と

「うまなめて」は、「馬並めて」と、馬に乗るように

「みかりたたしし」は、「身離りただ為し」と、霊が離れ佇む

「ときはこむかふ」は、「時は来向かふ」


この歌も、草壁皇子の霊が憑いた軽皇子を引き合いにだして、軽皇子を、皇子の中の皇子であると称えている