偸盗歌 | masaka3936のブログ

    偸盗の中の歌 物語探偵2021

    偸盗の中の歌、一つ目は、阿濃がお腹の胎児に唄う。

    君をおきて
    あだし心を
    われ持たばや
    なよや、末の松山
    波も越えなむや
    波も越えなむ

    出展元は、「古今和歌集」の和歌からの歌謡

    詠み人知らず

    君をおきて あだし心を 我が持たば
    末の松山 波も越えなむ

    きみをおきて あだしこころを わがもたば
    すゑのまつやま なみもこえなむ

    意味は、
    君をさしおいて浮気心を我が持てば
    末の松山を波が越える
    (待つのも終り、我を波が流してしまう)

    沓冠は、
    きあわすな
    てをばまむ

    沓冠詠みは
    気で、彼を我は住まなむ
    (気持ちは、二人で一緒に住んでいる)
    奇で、彼を我、弾なむ
    (怪奇な波で、彼を我が押し流す)

    阿濃が慕う次郎の好きな唄と書かれているが、流され出たのは、お腹の子。
    無事に出産とあいなる。

    男と女の悲しい歌を、母と子の新たな覚悟の歌に変えた。

    偸盗の中の歌、二つ目は、猪熊の爺が深傷を負い、死にそうな時に聞こえた村人の歌。
    この歌のすぐ後に、蚊を叩く音がした。

    いたち笛ふき
    猿かなづ
    あなごまろは拍子うつ
    きりぎりす

    出展元は、「梁塵秘抄」の歌謡

    茨小木の下にこそ、
    鼬が笛吹き猿舞で、
    掻い舞で、
    稲子麿賞で拍子付く、
    さて蟋蟀は、
    証鼓証鼓の好き上手

    これから、民間歌謡が生まれる。

    茨垣の下には
    鼬笛吹く猿奏づ
    いなごまろは拍子打つ
    きりぎりすは証鼓打つ

    刺のある茨の垣の下で、
    鼬が笛を吹き、猿が舞い、
    蝗が、拍子を打ち
    きりぎりすが太鼓を打つ

    刺があり人が入らない安全な処だから、
    鼬や猿や蝗や蟋蟀が、楽器を奏で、歌い踊る。

    偸盗の一段は、ひとまず、安全な場所にいることを歌で示している。

    偸盗の中の歌、三つ目は、猪熊の爺がいよいよ死ぬのかと思い始めた時に、聞こえてきた歌。

    夜は誰かと寝む
    常陸の介と寝む
    寝たる肌もよし
    男山の峰のもみぢ葉
    さぞ名はたつや

    出展は「枕草子」の歌謡

    夜は誰かと寝む
    常陸の介と寝む
    寝たる肌もよし
    男山の峰のもみぢ葉
    さぞ名はたつや
    さぞ名はたつや

    この歌を聴いた後、阿濃が赤ん坊を生んだと、知らせがあり、赤ん坊を連れてくる。猪熊の爺は、赤ん坊な指に触れ、「この子は、わしの子じゃ」と言い残して死ぬ。

    男と女が寝る歌を、赤ん坊と爺が眠る歌に変えた。

    日本古来の歌を転用することで、場を盛り上げる工夫がされている。
    歌の本来の意味とは異なるが、状況説明にもなっている。

    さしずめ、文学だから、言葉の背景音楽効果といったところ。