マリー・ロジェの犯人 | masaka3936のブログ

    マリー・ロジェの謎の犯人 物語探偵2021


    エドガー・アラン・ポーの「マリー・ロジェの謎」は、失敗作と評価する人が多い。

    この事件は、実際のニューヨークで起きた「メアリー・ロジャーズ殺人事件」を素材に書かれている。
    この事件は、美しい煙草売り娘がハドソン川に死体で浮かんだから、当時はアメリカ中の注目を浴びた。

    探偵役は、オーギュスト・デュパン、舞台をパリに変えて起きた事件を、ほとんど、新聞記事のみで推理するていう趣向である。
    物語にしているが、目的は、「メアリー・ロジャーズ殺人事件」の解明であると、後に、エドガー・アラン・ポー自身が明言している。
    現実の事件を題材に小説にする手法は、当時のアメリカでは流行っていたらしい。
    この「メアリー・ロジャーズ殺人事件」は、結局のところ、迷宮入りの未解決事件となった。

    被害者は、マリー・ロジェで、母親と友に住む。父親は、幼い時に死去。
    家族は、母のエステル・ロジェは、パヴェ・サン・タンドレ街で下宿屋を経営。

    マリーが22歳の時に、パレ・ロワイヤルの香水店の売子になった。
    勤務して1年程の時に失踪事件が起きたが、1週間後に、店に現れた。
    マリーと母は、マリーが田舎の親類の家で過ごしていたと証言した。
    マリーが戻ってから5か月の後、マリーは再び失踪した。そして、4日後に、今度は、セーヌ川に死体となって浮かび、発見されたのだった。

    死体発見から3週間後に、研究でこ籠っていたデュパンもこの事件を知ることになる。

    手に入れたのは、事件の報告書、それに、事件を報じた新聞紙である。

    事件当日、マリーは、ジャック・サン・テュスターンというマリーの許婚者である人物に、デ・ドゥローム街に住む叔母の家にゆくと言い家を出た。
    ジャックは、下宿に住んでいて、夕方にマリーを迎えに行くことになっていたが、降ってきた大雨のため、迎えに行くのを断念した。日暮れに、ロジェ夫人が「もう二度とマリーには会えまい」と愚痴をこぼすのを聞いた。

    翌朝、マリーが叔母の家には行っていないことが判明。
    そして、何ら情報が得られないまま、4日目に死体が発見されたのだ。

    死体の手首には縛られた跡。
    背中には無数の擦り傷。
    暴行は受けていたが、性的な暴行は受けていなかった。
    衣服は破れていて、固結びの所と引き結び(水夫結び)の所があった。

    さらに、新たな証言がでてきた。
    死体が発見された近くの森の生い茂った灌木の中の大きな石の上にペチコート、別の石の上に絹のスカーフが乗っており、パラソル、手袋、ハンカチなども見つかったのだ。
    ハンカチには、マリー・ロジェと名前が書いてあった。
    周囲の茨には、衣服の切れ端も見つかった。
    遺留品は、3、4週間の間、そこにあったものの様に汚れていた。
    地面は踏み荒らされ、灌木の枝は折れ、茂みと河の間にある柵や灌木は倒されているし、地面には重い荷物を引きずった後があった。
    ここで、乱闘が発生し、マリーが殺され、川まで引きずられて廃棄されたのだろう。

    さらに、新しい証言があった。
    この川岸の小さな宿屋の女主人の証言である。
    この宿屋に、顔色の黒い若者と一緒に若い娘が来てしばらく休んでから出ていき、近くの茂みの方へ向かった。娘の格好はマリーのもののようだった。
    この宿屋に一団のならず者がやって来て、無線飲食をした挙げ句、二人の行った方に向かっていった。彼らは夕暮れ頃に戻ってきたが、大急ぎで帰っていった。

    この夜、暗くなってすぐに、宿屋の女主人とその息子は、宿の近くで、女の悲鳴を聞いた。

    さらに、乗合馬車の馭者が、マリーと一緒に顔色の黒い若者がセーヌ河の渡し場を渡るのを見かけた。

    こうなれば、顔色の黒い男とならず者の一団を捕らえて、取り調べを行うべきだろう。

    殺人が夕暮れなら、顔色の黒い若者かならず者の一団が犯人。暗くなってからの悲鳴をは、その後に、茂みに入った別のカップルが、遺留物に驚いた悲鳴の可能性がある。
    殺人が暗くなってからなら、マリーとずっと一緒にいた顔色の黒い若者が怪しい。

    さらに、何らかの事情で気を失っていたマリーが、自分を襲おうとする第三者に気づき悲鳴をあげたがために、殺された可能性もある。

    事件は、さらに、続く。
    マリーの許婚者であるサン・テュスターンが瀕死の状態で、強行現場と思われる灌木の近くで発見されたのだ。
    許婚者は、遺書を身につけ、自殺したらしかった。
    遺書には、マリーへの愛と自殺すると書かれていた。

    物語は、これらの情報をもとに、デュパンの推理が延々と長く始まってゆく。

    死体はマリーか否か。
    新聞紙の悪口。
    水死体の挙動。
    最初の失踪との関連性。
    警察の捜査の悪口。
    強行現場の思考検証。(微に入り細に入り、現場を検証している)
    さらに、ならず者の一団は犯人ではないとの論。
    海軍士官が犯人との推論。

    小説は、デュパンの推論で終わる。

    その後の警察の捜査については、何も書かれない。
    知りきれトンボで終わるのだ。

    事件は迷宮入りしたのだ。

    さて、気になるのは、デュパンが、殺害現場について、詳細に語る場面だ。

    現場に行ってもいないデュパンが、何故、現場の状況に詳しいのか?

    デュパンは、「モルグ街の殺人」から、変人、奇人として描かれている。

    事件の発生当時、デュパンは、研究に没頭していて、事件のことを全く知らなかったという。
    しかし、日が暮れる夕方に出かけ、マリーを殺すことは出来なかったのだろうか。

    動機も、如何様にも考えられるし、殺人機会だって、しっかりとしたことは語られてないのだから、この際、どうでもいいだろう。

    デュパンは、ついつい、語ってしまったのだ。
    犯人しか知り得ない詳細を。

    知らないことは語れないが、知っていることなら語ることが出来る。

    オーギュスト・デュパンを犯人だと書いていたならば、駄作ではなく、後生に残る名作になったことだろう。