「博士の愛した数式」(小川洋子・新潮文庫/新潮文庫の100冊2023:6/100)読了しました。

 

 

 実は2度目。自宅の本棚にあったものを再読しました。

 「新潮文庫の100冊2023」の中には既読のものも数冊あり、「博士の…」もその一つです。

 

 去る19日(水)に東京に行く際に何か本を持って行きたかったのですが、図書館に予約している本がすべてまだ順番が来ていなかったので、以前に読んで感動したこの本を持って行きました(他にも「大岡信『折々のうた』選・俳句(二)」も)。

 

 最初に読んだのはこの本が第1回本屋大賞を受賞して2年ほど経った2006(平成18)年頃。

 記憶が80分しか持続しない数学者と家政婦、その息子ルートの3人交流の話でした。

 

 再読でも感動でした。さすが第1回本屋大賞受賞作品。

 博士の、数学の知識や考え方を母親やルートに教えたり説明する過程は美しくもあり驚きでもあります。

 高校2年のときに数学を諦め文系一本に絞った私にもその美しさは十分に伝わってきます。

 そして博士の子どもに対する純粋な愛情。それに応える母子の博士への愛情・・・

 

 また、3人の交流の中で重要な媒介役を務めるのが阪神タイガース。

 熱烈な阪神、中でも江夏豊ファンの博士。彼の記憶は江夏が現役時代の1975年で止まっていて、それ以降は記憶が80分しか持たない。母子は博士を傷つけないよう注意を払いながら、物語の設定時期1992年の現在進行形の阪神の試合や成績などの情報も入れながら交流していきます。

 

 私自身、Jリーグが始まってからは興味がサッカーに移行しましたが、子供の頃から周りに誰も同志がいない中、阪神タイガースを応援してきたひねくれ者。その頃の選手、中込、亀山などの活躍の様子なんかも描かれてそれも面白かったです。

 

 そして、私の乗る帰りのバスが渋滞する中井あたりをのろのろと走っている頃、物語は最終盤に差し掛かり、まさに感動的なところに。涙腺が一気に緩んでしまいました。

 良くドラマでは、女優が表情も変えずにポロっと美しい涙を流しますが、私の場合そんな器用なことはできず、顔は醜くゆがみ嗚咽を伴います。思わず「ううっ!」と。ピンチです。でも幸いなことに隣の席は空いていて、通路を隔てた向こう側の2人の若い女性たちは寝ていました。良かった。

 

 蛇足ですが、博士の年齢設定は64歳。今の私は63歳。博士は、数学的知識や能力は抜群ですが、身体的な特徴などは完全に老人として描かれています。「老人」という言葉も出てきます。

 作者の小川洋子さんは1962年生まれで私と1つ違い。現時点では博士と2つ違いの62歳。

 この小説が発行された2003年(平成15年)は、小川さんが41歳くらい。その頃の感覚で64歳は完全な老人だったのでしょうか?

 ちょっとショックではありました。